調査活用で全社意思統一を実現 キャンディNo.1企業を目指し戦略強化へ
カンロ株式会社
1912年、大正のはじまりとともに創業し、「カンロ飴」などで長きにわたり菓子業界で存在感を放つカンロ株式会社。2017年11月には40年ぶりにCIを変更するなど、転換期のただ中にある同社のブランド戦略とは?「キャンディメーカーとしての知名度No.1」、そして「消費者に最も愛着ある企業」を目指す、カンロ株式会社執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長 内山妙子氏と、広報部 林麻衣子氏に話を聞いた。
カンロ株式会社
執行役員 コーポレートコミュニケーション本部長
内山 妙子 氏(左)
コーポレートコミュニケーション本部 広報部
林 麻衣子 氏(右)
※社名・部署・役職はインタビュー当時のものです
ブランド力強化でコモディティ化から脱却へ
Q:「コーポレートコミュニケーション本部」を立ち上げた経緯と、ミッションを教えてください。
内山氏 1955年発売以来のロングセラーであり、社名にもなっている「カンロ飴」をはじめ「金のミルクキャンディ」など多くのヒット商品を発売している当社ですが、近年キャンディ業界全体でコモディティ化が進み「カンロの商品だから買おう」という強い動機付けができていないというコーポレートブランド力の弱さが課題としてありました。大人の女性に向けた新たなグミ市場を作り上げた「ピュレグミ」など人気の主力商品がありながら、プロダクトが「カンロ」というブランドと結びついている方は多くはありません。「カンロ」は「伝統ある老舗」というイメージに留まり、「新しさ」や「進化」というイメージからは遠のいていたのです。このような課題から、さらなるブランド力の強化、ブランド力発信強化をミッションに、コーポレートコミュニケーション本部を設立しました。
「シュミレーションPQ」の活用で590社における自社の立ち位置が判明
Q:『ブランド戦略サーベイ』のフレームを活用するようになった契機は?
林氏 これまでもコーポレートブランド調査は実施していたものの、プロダクト調査の一部という位置づけで、設問も認知度の測定といった表面的な部分に留まっていました。ブランド力強化にあたり、まずは自社の立ち位置を知るため、2016年から『ブランド戦略サーベイ』のフレームを活用した調査をすることにしました。ブランド調査では複数社より提案を受けましたが、「愛着度」などブランドの浸透度について段階を踏んで深く見られる点、個々の指標だけでなく全体的なブランドパワーが分かる点に魅力を感じました。自社調査では菓子業界における立ち位置までしか分かりませんが、「シュミレーションPQ」(*)の算出により、590社の多種多様な企業の中における自社の立ち位置を具体的な裏づけとともに知ることができるのも大きな魅力です。自社調査では踏み込めなかった領域で得た知見が、今後の指標になっていくと考えています。
Q:調査結果の受け止めと活用についてお聞かせください。
林氏 「シュミレーションPQ」で算出した1回目のランキング(2016年)は580社中「85位」、2回目(2017年)は590社中「91位」と、結果自体は悪くありませんでしたが、順位の近い競合他社と比較した場合、満足できる結果ではありませんでした。「親しみやすい」というイメージは予想通りだったものの、競合他社も同様のイメージがあってカンロ独自の特徴ではなかったことと、プロダクトとの結びつきの弱さは、数値により痛感させられた課題です。
内山氏 2回目の調査では、1回目に比べ「愛着度」が4.7ポイント減と微減しましたが、同業他社でも似た傾向がみられました。これはつまり、キャンディというプロダクトそのもののイメージが弱くなりつつあるのではと推察されます。新規に発売されるものも含めて商品の数が多く、消費者が1つの商品にこだわりがなくなっていることが、愛着度の低さにつながっているのではないかという仮説も成り立ちます。こうした状況で、独自性と愛着度を強める必要性はより高くなるという認識を新たにしました。
CIやパッケージ変更に活用
Q:調査結果をもとにした具体的な戦略展開をお聞かせください。
林氏 ブランド力を高めることが必須だという課題意識を全社で共有したことは、40年ぶりとなる2017年11月のCI(コーポレートアイデンティティー)変更につながるひとつの契機となりました。まず、ブランドロゴを刷新し、新たなスローガン(糖から未来をつくる。/「Sweeten the Future」)を打ち出しました。また、調査結果で得られた「プロダクトとブランドとの結びつきが弱い」という気づきを活かし、商品にカンロのロゴを入れ、「カンロの『金のミルク』」であることをよりダイレクトに訴求できるパッケージデザインにリニューアルしました。かつてはロゴの表記に英文・和文が混在していたり、テレビCMの最後にCIを映すかどうかにバラつきがあったりしましたが、強固なレギュレーションを設定し、社内に浸透させました。
これら「ブランド力を高める」という点に集中した施策をすみやかに打ち出せた理由は、その前提として、調査結果をもとに全社の意識を統一できたことが挙げられます。従来、課題意識はともすれば部門ごとの単位に留まっていましたが、部門長以上が参加する戦略合宿において自社の立ち位置を具体的な数値データとして共有し、共通の意識を持ったうえで対策に移せたことは、その後の戦略展開において非常に有用でした。特に、経営陣の認識のバラつきを統一できたことは、大きな影響がありました。
Q:ほかに調査で感じたメリットは?
林氏 調査で得た「企業ブランドを認知している人ほど購入意向が高い」という気付きを重視しています。 これはつまり、企業ブランド認知率を高めれば、商品を買いたくなる人が増えると推察されるので、広告宣伝に注力すべきといった具体的な施策に反映できる点を有意義に感じています。
内山氏 インナーブランディングにも役立ちました。「糖」をポジティブに発信する新CIは、小売店や問屋などクライアントからの評判もよく、お褒めの言葉を頂いております。社内の営業担当もCIを変更してよかったと感じており、結果的にインナーブランディングに結び付いています。
今後の目指す方向性
Q:自社調査との差異をどのような点に感じていますか?
内山氏 「ブランドパワー」という概念を知り、ブランド戦略を捉え直すことができたことです。従来の自社調査では同業他社との比較を重視していたため、比較対象は同じキャンディメーカー数社に限られていました。しかし、590社もの企業データを参照できる『ブランド戦略サーベイ』を活用するなかで、「キャンディ」の枠を超えてブランド力を考えるという視点の広がりを得ることができました。
林氏 具体的には、事業内容の近いキャンディメーカーばかりでなく、たとえばスナックやアイスなどでも、同じ「専業メーカー」という視点で自社と比較しています。また、他業種でも「独自性が高く、消費者からの愛着度も高い」メーカーに関しては、積極的にベンチマークにしていくべきだと考えています。
CIの変更は、あくまで新たなブランド戦略のスタートに過ぎません。具体的な施策はいろいろと予定しており、調査結果はKPIとして見ていきます。
Q:今後のブランド戦略の展望をお聞かせください。
内山氏 近年、糖質制限の流行など、「糖」についてネガティブなイメージが広まりつつありますが、糖を中心に様々なテーマを長年研究してきた強みを活かし、「糖から未来をつくり、世界中の人を笑顔にするキャンディNo1企業」を目指しています。CSRにも力を入れ、小学生向けの「糖の学校」の開催など、社会貢献を通じて糖への理解と愛着を促しています。子どもが親となり、そしてシニアへ、とどのライフステージにおいても一番身近に寄り添えるメーカーへ成長するためにも、よりプロダクトとブランドの結びつきを強める施策を打ち続ける予定です。
ブランド戦略サーベイ…企業のブランド価値の構造を明らかにする調査データサービス。
PQ…ブランドの総合力のスコア。5つの評価項目から算出されている。
(*)シュミレーションPQ…ブランド戦略サーベイで測定した企業に当てはめた場合のブランド総合力(PQ)。
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