組織風土改善のためニッポンハムグループが取り組むコンプライアンス推進活動
ニッポンハムグループ
ニッポンハムグループは食品の製造・販売を事業の柱に、日本国内のみならず海外18の国と地域で展開し、約3万人もの従業員が働いています。かつては縦割りで風通しに課題があった組織風土を改革し、経営の質を高めるため、グループ全体でコンプライアンス推進に取り組んできました。その原点となったできごとから今までをお聞きします。
日本ハム株式会社 コンプライアンス部
(右から)松井誓也さん、大竹祥司さん、市川紗菜さん
コンプライアンス部の取り組み
「組織風土の改革に重点を置く」
——まずコンプライアンス部について教えてください。
大竹祥司さん(以下、大竹)|コンプライアンス部は19人体制で、浸透企画、相談対応、リスクマネジメントの3チームに分かれています。ルールを浸透させ、モニタリングをし、問題があれば改善するというのが仕事の流れです。松井さんと市川さんは、おもに相談対応を担当しています。
松井誓也さん(以下、松井)|全国のグループ会社に勤める方から届く相談を聞き、今後の進め方を話し合って決めます。全国に500カ所以上の拠点がありますから、毎日、何かしらの相談があります。
市川紗菜さん(以下、市川)|相談対応だけでなく、未然防止のために2カ月に1度くらい事業所を訪問して、非正規雇用から管理職までさまざまな方の話を聞き、まだ相談はいただいていなくても問題を抱えていないか、現状を把握するようにしています。
松井|よく医療に例えられることですが、病気になった人を治すだけでなく、病気にならない体質をつくることが大事です。問題の背景をうかがい、組織の風土に着目することに重点を置いています。
——訪問することでモニタリングするのですね。
大竹|はい。潜在的なリスクを抽出して経営層にフィードバックし、未然防止するのが目的です。
グループ会社の業態は幅広く、各エリアに小規模事業所もあり、なかには会社の目が届きづらい部署もあります。そういった部署は優先的に話をうかがう機会を設けたいと思っています。自ら情報を取りに行くことが重要です。
——相談があった際、それが問題かどうか、会社として対応すべきかどうか、判断するのは難しいのではないでしょうか。
松井|日々迷うことばかりです。でもコンプライアンス部は必ずチームでミーティングを行って、個人ではなく部として判断して動くので、安心して対応できます。
訪問の際は、現場で解決すべきことは現場にフィードバックして、対応に悩んだ場合は持ち帰って部内で話し合います。従業員との面談もコンプライアンス部員がふたりで対応し、個人で責任を抱えないようにしています。
コンプライアンス推進の体制
「ボトムアップの風を流して健全な風土に」
——専任するみなさんのほかに、グループ全体でコンプライアンスに取り組む体制が整っていますね。
大竹|コンプライアンス委員会が、社長が指名する取締役と執行役員、有識者、コンプライアンス部長、労働組合役員代表で組織されています。ここでグループ全体のコンプライアンス状況の確認と方針の検討が行われます。
さらに、グループ各社にコンプライアンス推進委員会が置かれ、それぞれの社長がコンプライアンス推進委員長を務めています。推進委員長は各部門の推進委員の中から、コンプライアンス・リーダーを任命します。各社・各部門のコンプライアンスの取り組みは、コンプライアンス委員会と推進委員会が相互に連携しながら進めています。
現在の中期経営計画では「みんなで育む誇れる職場」をテーマに掲げ、さまざまな活動を展開しています。健全な風土を強固にするには、ボトムアップの風を流すことも大切です。推進委員長と従業員の間に立てる課長クラスの人にコンプライアンス・リーダーを担ってもらい、現場のアイデアを推進委員長に進言できる体制を整え、コンプライアンス活動を実施しています。
——現場に近いのがコンプライアンス推進委員会とコンプライアンス・リーダーですね。
大竹|はい。コンプライアンス推進委員会は各職場で四半期に1回以上の会議を行います。今期、コンプライアンス・リーダーは全国に119人いて、同じく四半期に1回、会議を開き、活動の情報交換などを行います。その席に私たちコンプライアンス部も参加して、情報発信をしたり、活動計画の支援を行います。
松井|その活動計画は、推進委員会ごとに取り組んでいきます。例えば「いいね!コミュニケーション」では、上司から部下、あるいは従業員同士で感謝の思いをメッセージカードで伝えることでコミュニケーションを高め、職場風土の向上に取り組みます。
また、コロナ禍でのコミュニケーション不足を打開するため、職場のチーム紹介シートを作成する取り組みがあります。任意ですが、マスクなしの顔写真やイラスト、趣味などを共有して、お互いの人柄や価値観などを知る機会を設けています。その活動は好評です。
「チーム紹介シート」と「メッセージカード」のイメージ
市川|そのほかの活動では、8月をコンプライアンス強化月間として、グループすべての従業員を対象とした「コンプライアンス標語」を募集しています。各職場でコンプライアンス意識を高めるとともに、複数の賞を定め、多くの従業員の方が表彰される機会をつくっています。
大竹|こうした取り組みはすべて、現場が主体となるボトムアップの活動です。各推進委員会からは、四半期ごとに取り組みに対するフィードバックをもらいます。各推進委員会が主体となるボトムアップの活動が「職場の風通しを継続的に高める」ことになると考えています。
コンプライアンス推進の取り組み
「トップメッセージが重要」
——階層別の研修について教えてください。
大竹|管理職以上の役職者に対して毎年、階層別研修を実施しています。自らがハラスメントを起こさないのはもちろん、コンプライアンス推進の責任者として、従業員に明確なメッセージを伝えること、職場環境や仕事内容を整備すること、部下への指導スタイルを点検することなどに取り組んでいます。
研修ではないのですが、各社で年1回のコンプライアンス大会も開催しています。そこでは、社長である各推進委員長から従業員の方に、直接メッセージを伝えます。ニッポンハムグループは非正規雇用の方が多いため、推進委員長の「コンプライアンスが浸透した職場をつくっていく」などの熱い言葉が、すべての従業員に安心を与え、誇れる職場につながっていくと考えています。
コンプライアンス大会を全社で取り組むようになったのは、じつは最近なんです。私がコンプライアンス部に来た当初は、全社実施が自分の役目であり目標でしたが、実現するのは、なかなか難しかったです。
——全社実施に至るまで、どんな働きかけをしたのでしょう。
大竹|各組織のトップの方への働きかけですね。それしかないです。コンプライアンス浸透で何より大事なのは、各組織のトップの方のコンプライアンスに対する姿勢です。トップの方が理解を一層深めていただければ、コンプライアンス・リーダーとも連携でき、継続的かつ強固な体制づくりが可能であると考えていました。
コンプライアンス推進の原点
「過去の不祥事がはじまり」
——こうした取り組みは、いつからはじまったのでしょう。
大竹|2002年の不祥事を機に、コンプライアンスの取り組みが加速されました。この不祥事の背景を分析したところ、「過度な業績至上主義」「人事を含めた情報の障壁」「監査や管理の軽視」、大きくこの3つが指摘されました。
そのような組織風土が問題を生み、問題が発生しても改善につながらなかったと考えています。私たちは職場の風通しを良くすることの重要性を痛切に感じました。
不祥事から20年経ち、当時在籍していた人がグループ全体の2割を切るくらいになってきました。過去の教訓を未来に生かすため、問題がなぜ起きたか、そこからどのように立ち直ったかを踏まえながら、未来に向けたコンプライアンスの重要性を伝える研修動画を作成しました。
——研修動画の制作にあたって、松井さんと市川さんも関わったのですか?
松井|不祥事を経験していない若い世代からの観点を盛り込んで、こうすると伝わりやすいなどリクエストしました。
市川|今年の新入社員研修から、ニッポンハムグループに入る社員全員に観てもらっています。
——不祥事以降、縦割り組織の改善などが行われていったのですね。
大竹|当時、各部門より選抜されたコンプライアンス・リーダーを中心に、まずは行動規範を整え、社内への浸透に取り組みました。コンプライアンスの相談窓口ができたのも、その時です。
取り組みの変遷
「コンプラ疲れから方針転換」
——取り組みに変化はありますか?
大竹|私はコンプライアンス部に着任して8年目ですが、着任後しばらくは「ルールは守れ、ハラスメントはするな」というアプローチをしていました。禁止事項ばかり言い続けると、コンプライアンス疲れというのでしょうか、社内が徐々に疲弊してくるのです。
それはコンプライアンス意識調査の結果にも表れており、前向きな職場風土に関する項目が伸びず、社内に元気がなくなっていくことが懸念されました。
——良い結果につながっていませんね。
大竹|そうなんです。コンプライアンス推進の本来の目的は、活力ある職場をつくること。働きやすく楽しい職場になれば、その結果、コンプライアンスに違反する問題は起きなくなるはずです。
そこで方針転換して、前向きな取り組みにより、違反を未然防止する取り組みに力を入れるようになりました。社会全体でも「法令を遵守する」ことから「社会の期待に応える」というように、コンプライアンスの考え方が変わってきています。
過去の不祥事からいろいろな取り組みを始めていますが、グループ全体に浸透するようになったのは、個人の感覚ですが、10年くらいかかっているでしょうか。
コンプライアンス意識調査の役目
「わかりやすいほど浸透する」
——コンプライアンス推進の取り組みに合わせて、従業員へのアンケートを実施していらっしゃいます。
大竹|不祥事の後から行っていますが、職場で表面化している問題だけでなく、従業員の本音を通して、潜在化している問題も把握したいというのが主な理由です。また、経営層には悪い情報がなかなか上がりにくいので、アンケートを実施することでリスクの感度を高めていただくことができます。
コンプライアンスだけでなく、品質や労働の安全、情報管理、知的財産など、幅広い項目でモニタリングができますから、コンプライアンス部だけでなく、他部署でもデータを共有できます。
——コンプライアンス部では、どのように活用していますか?
松井|アンケートの結果を訪問先の参考にしています。スコアがあまり良くなく、相談があまり来ないところは気になります。相談が多くても、そもそも人数が多いからだと把握できるほうが安心です。全容のつかみづらいところは、見ておきたいんです。
市川|相談窓口の周知と活用を図るためにポスターを掲示したり、コンプライアンスカードを配って、何かあればすぐ連絡してもらえるようにしていますが、相談窓口の認知度や信頼度に課題が見えたので、プラスアルファの活動も考えています。
——どんなことですか?
市川|まだ大竹さんにも報告していないのですが…
全員|(笑)
市川|WebやLINEアプリなど、カードより身近で手軽なスマホでアクセスできる仕組みを検討しています。
大竹|相談も以前は電話でしたが、メールに変わってきていますからね。新しい視点でのアイデアをもらえることはありがたいです。
グループとしては、アンケートの調査結果は社長研修の場などでフィードバックして、グループ各社の組織づくりの参考にして、それぞれに課題解決に取り組んでいただいています。また、これから各種研修のベースの資料としても活用していきます。去年から日経リサーチさんに依頼しているので、前回の社長研修では調査結果の見方や課題抽出の方法などを説明していただきました。
——反応はいかがですか。
大竹|研修の場では、取り組みに結果が出たと喜ぶ方がいたり、各社を訪ねた際に、次回の結果が楽しみだとおっしゃる方がいたり。アンケートはコンプライアンス推進に取り組むモチベーションアップにも効果的です。
2年に1回調査して、数値化して、検証・改善するサイクルが回っていけば、仕事のやり方やモチベーションが変わってくるはず。アンケートは私たちの業務を進化させるものだと思うのです。
そのためにも調査結果はわかりやすく表記しなければなりません。なにしろコンプライアンス活動は、わかりやすくないと浸透しないんです。我々は組織風土の改善を重視しているので、日経リサーチさんのリスク設問と組織風土設問のフレーム自体がわかりやすく、アウトプットも活用しやすかったです。実際に各社の社長や役員からも、理解しやすいという声が聞けました。
アウトプットイメージ
コンプライアンス部のあるべき姿
「極論は、なくなっていい部署」
——コンプライアンス部として、どんなことを意識していますか。
松井|現場を知らずに机上の空論を唱えては、組織風土が良くない頃に逆行することも考えられます。ですから現場感をしっかり持って、事業所ごとに考えていくことが大切だと思います。それから、私たちが主導するよりもサポートに重きを置く方が、コンプライアンス推進はうまくいくことが部署に入ってからわかりました。
市川|私はもともと製造の現場にいましたし、若い人の視点がわかります。自分だからできることをしていこうと意識しています。
大竹|コンプライアンス部は立ち位置が警察や消防署と一緒かもしれません。平時は目立つ必要はありません。強い会社・職場をつくることが大切で、この部署があって成立するような職場は良くないんです。極論を言えば、この部署がなくなることが理想です。
とはいえ、会社にとってコンプライアンスとガバナンスは経営の基盤です。新社長の就任もあって、ニッポンハムグループ全体で挑戦していこうという機運が高まっています。従業員が安心して働き、モチベーションを上げ、チャレンジできる風土を支えることが、コンプライアンス部の役割だと思っています。
——ありがとうございました。
大竹さんいわく「コンプライアンス部にはいろんな職種から来てもらって、いろんな人がいます。おかげさまで部の雰囲気はいいですよ。コンプライアンスを推進する側が明るいのは、良いことかなと思います」。その言葉どおり、和やかな雰囲気のインタビューとなりました。
コンプライアンスに関する調査を
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