Case

ブランド戦略サーベイの活用で的確な施策立案と社員モチベーション向上を

マクセルホールディングス株式会社

バッテリーと記録メディアで大きな存在感を放ってきたマクセル。2017年10月に社名変更を行なった同社はブランディング活動に対しどのように取り組んでいるのだろうか。マクセルホールディングス株式会社 執行役員ブランド戦略・広報IR担当(取材当時)の乘松幸示氏に話を聞いた。

11.マクセル乘松 幸示 氏

マクセルホールディングス株式会社
執行役員ブランド戦略・広報IR担当
乘松 幸示 氏
※社名・部署・役職はインタビュー当時のものです

転換点を迎えたマクセル  次代の先進企業へ進化を続ける

Q:新生「マクセル」としてのブランディングとは?

乘松氏 2017年10月に、社名を「日立マクセル株式会社」から「マクセルホールディングス株式会社」に変更、ブランドロゴやスローガン(「Within the Future/未来の中に、いつもいる」)も一新しました。1964年から半世紀以上、親会社であった日立製作所からも独立し、当社は“第二の創業”とも言うべき一大変革期を迎えています。そうした中で改めて「マクセル」としての企業ブランドを再構築すべく、2017年4月より「ブランド戦略統括本部」という専門部署を立ち上げました。

Q:ブランド戦略における課題について教えて下さい。

乘松氏 今もなお『「マクセル」といえばカセットテープ』と言われるほど、当社にはカセットテープやアルカリ乾電池など大ヒット商品を開発・販売してきた歴史があります。しかし近年は、トレンド変化のスピードが加速していることに加え、商品ライフサイクルが短くなっていることにより、消費者へ訴えかける商品を生み出すのは大変難しくなっています。従来の一般消費者向けの大々的な宣伝広告は2003年頃をピークに減少しており、商品開発でも、車載カメラ用レンズユニットをはじめとする自動車向けの部材料、ドローン用電池、メタルマスクなど、BtoB製品の占める割合が大きくなっています。そのため若年層への企業認知度を上げることが課題と考えていました。このような中、自社の現在の立ち位置を正しく把握し、施策につなげるべく『ブランド戦略サーベイ』を活用しています。

企業ランキングをKPIにし、今後のブランディング施策に活用

Q:ブランド戦略サーベイの購入に至った契機は?

乘松氏 ブランディング活動の効果や成果の測定は、非常に難しい課題の1つです。指標をどこに定めるか、何らかのKPIが必要だと色々調べていたところ、日経リサーチのブランド戦略サーベイ企業ランキングに行きつきました。大企業だから上位とは限らないという調査結果を見て、「“有名企業”と“ブランド力のある企業”は違うのではないか」と感じました。ランキングには「コンシューマー」「ビジネスパーソン」の2種があり、当社はビジネスパーソンからの評価が高かったのですが、その判断基準が何なのか、我々企業人と一般の方との捉え方にギャップがあるのではないかなど、客観的なブランド調査の必要性を感じたのです。

Q:具体的なKPIや、その達成度についてお聞かせください。

乘松氏 まず、ブランド戦略サーベイの総合ランキングにおいて「1年以内に200位以内」へのランクアップをKPIとして設定しました。実際に2017年は167位と上昇し、目標をクリアしています。また、スコア増加幅ランキングでは全590社中12位でした。特に総合ランキングでは、『個性的』『先進性』『社会の変化に対応できる』『将来性がある』などの項目がポイントを伸ばしました。これは2017年3月に自主独立経営を発表したことが、マクセル独自の価値を高めるものとして高評価につながったと捉えています。一方で、コンシューマー対象の調査ではランクアップしていないことから、カセットテープや光ディスクといった従来の主力商品以外の新しいコンシューマー向け商品を打ち出していくことが課題として浮き彫りになりました。

「ベイジアンネットワーク分析」により次への打ち手が見えてくる

Q:ベイジアンネットワーク分析の活用方法を教えて下さい。

乘松氏 「ベイジアンネットワーク分析」は、自社の視点では見えてこない、具体的な企業イメージを知ることができます。例えば2017年の調査では、「技術力」につながる項目である、『優れた技術・ノウハウがある』『一流である』といった点が高く評価されていました。ただし、そのよいイメージがダイレクトにマクセルの「独自性」としての評価に結びついていない傾向も明らかになりました。そこで、2018年度はテクノロジーに関するブランディングをより強めるべく、様々な施策を打っているところです。強みをとことん訴求することは、弱みをカバーすることにつながると考えているからです。

Q:ベイジアンネットワーク分析ならではの魅力は?

乘松氏 他社の分析結果も見ることができ、自社の強みや弱みを相対的に比較できることです。ブランディングが成功している他社企業を分析すると、よいイメージが有機的に結びついて、その企業の独自性を形作っている法則が見えてきます。一方、マクセルは「独自性」に結びつく長所やファクトのつながりを強くすることが課題としてあげられ、長所をよりわかりやすく表現していくことが必要であると分かりました。「企業認知度の向上」に結実するまでに時間がかかるかもしれませんが、打ち手の軌道修正などを判断するのによいツールだと思います。

Q:ほかに有用性を感じた点はありますか?

乘松氏 調査結果は、主にインナーブランディングに活用しています。実際、ランキングの上昇は、社員のモチベーション向上に大きく役立っています。特に変革期においては、社員の不安を払しょくし、ロイヤリティを醸成するインナーブランディングが重要です。新生マクセルは「より働きやすい会社」を合言葉に、社員アンケートや社内ワークショップなどを通じて紡ぎだしたブランドスローガンやステートメントの策定、さらに全グループ社員の参加によるブランドブックの制作などを通して、企業力を強化していきます。

Q:今後のブランディングについての展望をお聞かせください。

乘松氏 経営ビジョンである「スマートライフをサポート 人のまわりにやすらぎと潤い」に沿った商品を、「自動車」、「住生活・インフラ」、「健康・理美容」の成長3分野で提供していきます。ブランディング活動を事業展開と連動させるとともに、課題である若年層への企業認知度向上にも、リアルな接点を通じて取り組んでいます。例えば、2017年12月にネーミングライツを取得した「マクセル アクアパーク品川」では、冠名称に留まらず、都市型エンターテイメントの演出に、当社のプロジェクターなどの映像ソリューションを提供していきます。また、小学校への出前授業や社外教育イベントへの参加、京都サンガ主催の小学生低学年を対象とした運動プログラムへの協賛など、若年層への啓発を続けます。これは社会的ニーズに応えつつ企業成長をめざす取り組みでありCSV(※)活動の一環です。こうした活動を通じて、ビジネスの強化や将来の有望な人材の獲得、そしてブランド価値の向上に繋げていきます。


(※)CSV(Creating Shared Value):共有価値の創造
本業を通じて社会的問題解決と経済的利益をともに追求し、かつ両者の間に相乗効果生み出そうする試み
※インタビューは2018年3月に実施しました。部署・役職は取材当時のものです。

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