Case

JALUX、人権対応「Check&Learning」活用で最初の一歩。社内で認識を共有、サプライチェーン上のリスクにも取り組む

株式会社JALUX

「ビジネスと人権」をめぐる問題への対応が、企業にとって避けて通れない重要な経営課題になっている。自社のハラスメント対策、ジェンダー平等などへの取り組みにとどまらない。取引先で重大な人権侵害がないか把握し、サプライチェーン(供給網)も含め事業活動全体でリスクを洗い出す「人権デューデリジェンス(DD)」が求められている。

「大事だとは認識しているが、何から手をつけてよいか分からない」。そう考える企業関係者も多いかもしれない。日本航空(JAL)グループで航空・空港関連事業やリテール事業などを手掛けるJALUX(東京・港)では、法務部門と経営企画部門を中心にこの問題に取り組む体制を整えるとともに、日経リサーチの研修サービス「ビジネスと人権 Check&Learning」を活用、まず人権に対する社員の認識度合いを把握するところからスタートした。研修結果の分析を踏まえ、サプライチェーン上のリスク管理なども含めて、今後の活動の方向性を探る。

「手探りの状態で始めた」というJALUXの担当者は、人権の問題にどう向き合っているのか。法務・リスク管理部貿易担当マネージャーの島﨑幹雄氏、同部法務・コンプライアンス課上席主任の佐藤絵里香氏、経営企画部広報・サステナビリティ推進課主任の安部大二郎氏に、現在の取り組みや日経リサーチの研修ツールの活用法について聞いた。

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JALUX
法務・リスク管理部貿易担当マネージャーの島﨑幹雄氏(左)、同部法務・コンプライアンス課上席主任の佐藤絵里香氏(中央)、経営企画部広報・サステナビリティ推進課主任の安部大二郎氏(右)

人権分野、ハードローとソフトローの両面で対応

――人権分野への対応について、JALUXではどのような体制で臨んでいるのでしょうか。

島﨑氏現在、社内に人権対応専門の部署、チームはありませんが、主に法務・リスク管理部と、経営企画部の広報・サステナビリティ推進課で対応しています。私と佐藤が所属する法務・リスク管理部では、法律や規制対応などのハードロー的な面、安部が所属する広報・サステナビリティ推進課では、環境対応等も含めて包括的に何をやっているのかをまとめるといったソフトロー的な面を担っています。
私は安全保障貿易管理の事務局を担当しているのですが、安全保障貿易管理は法律に違反すると刑事罰、行政処分が下され、また、レピュテーションリスク(企業が評判を損ねる恐れ)も生じます。しっかり対応しなければなりませんが、求められるのは外為法という法律を遵守することであり、比較的対応しやすい面もあります。それに対して、人権懸念のある企業との取引については、国内では規制が未整備で、また、その分レピュテーションリスクへの対応が困難です。最近では人権侵害を行っていると認定され、米国財務省のSDNリスト(制裁対象リスト)に載る企業がでてきているので、現在はそのリストを活用して定期的にスクリーニングをしています。

佐藤氏私が所属する法務・コンプライアンス課では、従来からハラスメント等を含むコンプライアンス全般に関して教育や意識調査を実施しており、社内相談窓口などを通じて個別事案に対応してきました。一方で、欧米など海外では、ビジネスやサプライチェーンにおける人権に関する法律を強化する動きがあり、弊社への適用可能性や対象となるリスクなどについて、情報収集を行っていました。結果的に、英国に駐在員事務所があることから、3年前から英国現代奴隷法の対応を始めました。同法では、年次で声明文の開示が求められます。


安部氏|私が所属する広報・サステナビリティ推進課という組織ができたのは2023年4月ですが、サステナビリティへの取り組みは2020年頃から、当時は上場企業として、人権分野も含め、やるべきことをしっかりやろうと取り組んできました(JALと双日の共同出資会社によるTOB=株式公開買い付け=を経てJALUXは2022年6月に上場廃止)。 その際に重要課題、マテリアリティと呼ばれるものを特定し、役員を中心に構成する委員会を組成して、何をすべきか話し合う場を年2回設けました。具体的に何か差し迫った問題があったというより、世の中の大きな流れに鑑み、上場企業としてESGの観点からJALUXの姿勢を示す必要があるという判断でした。

小売り大手から「サステナビリティ調査」  高まる人権への関心 

――「世の中の大きな流れ」ということですが、日々の業務において、人権分野に対する意識の高まりを実感することはありましたか。

佐藤氏|当社はサプライチェーンの中流に位置し、下流ではJAL以外にも、大手のお取引先様などにも商品を供給させていただいています。そういったお取引先様からの要請が強まってきた、という事は感じています。

安部氏|確かにそうですね。昨今、サプライヤー(供給者)に対するサステナビリティ・アンケートなどが多く寄せられるようになってきました。例えば「二酸化炭素(CO2)の排出量は測定しているか」とか「人権に関する声明は出しているか」などを問うアンケートが来ます。JALUXの人権対応の基本的な方向性は親会社のJALと同じですが、商社として事業分野は多岐にわたり、BtoB(事業間取引)も多いことから、独自で取り組まなければならないことも多くあります。

人権問題への考え方、全社で方向付けが必要と判断

――そうした中で、日経リサーチの「ビジネスと人権 Check&Learning」のサービスを活用するに至った経緯を教えてください。

島﨑氏|弊社では、前述のとおり従来からコンプライアンス全般の取り組みの一貫としてハラスメント等にも対応してきましたが、海外の人権法が対象とする「ビジネスにおける人権」は、サプライチェーンや地域社会における人権問題なども含み、非常に範囲が広いと感じていました。「人権とは何か」と問うと、人によって認識がバラバラなのです。そのため一度、全社的に「人権って何なのか」ということについて共通の認識をもった方がよい、と考えたわけです。
ちょうど経済産業省が人権尊重のためのガイドラインを策定した時期で、それも社内推進の後押しになりました。まず手始めに、コンサルティング会社の話を聞いたのですが、提供されるサービスは当社にとってトゥーマッチな内容でした。さてどうしようか、と思案していたところ、御社のサービスに出会ったわけです。大学の教授が研修内容を監修しており、一般的に広義の人権とはこういうもので、その上で個別に案件を考えていく、という研修内容が今の当社にあっていると思いました。

 

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佐藤氏|そうですね。私が具体的にサービスを知るきっかけになったのは、御社のウェブサイトでした。人権関係の情報収集をしていて、研修サービスを探していたところ、御社がビジネスと人権に関する新たな商品提供を開始するということを知りました。同時期に島﨑も、御社の人権関連のセミナーを受講していて、そこで今回の研修ツールを監修した先生のお話をうかがう機会があり、これは当社のニーズに合致するのではと感じ、検討を開始しました

「ビジネスと人権 Check&Learning」  研修内容、選択も可能

――「ビジネスと人権 Check&Learning」にどんな期待をされましたか。採用のポイントになったのはどのような点でしょうか。

佐藤氏|ポイントとしてはまず、最新のビジネスにおける人権とは何なのかについてわかりやすく解説していて、その上で、自分の生活にもかかわるし、会社の事業にもかかわるものだ、ということが理解できる内容だったという点でしょうか。一般社員から役員まで、人権の基本を学べるツールになっていると思いました。何を学ぶか選択肢が豊富にあって、研修内容をカスタマイズできる点もよかったですね。何かしら新しいトピックスが加われば、次年度以降も継続的にサービスを利用できる、そんな期待がありました。日本語だけでなく、多言語展開が予定されているのも決め手の一つでした

アンケート回答率100%目指す 経営陣含め全社を挙げて実施

――人権DDとは何なのか、まだ手探りのなかで、社内的な認識をある程度方向づける、その点で適切なツールだったということですね。ちなみに多言語展開ですが、第一弾として2023年11月には英語版がリリースされました。ところで、研修でのアンケート回答率が90%以上と非常に高いようですが、何か工夫されたことはありますか。

安部氏|回答率を100%に近づけるように、期間を1カ月設けて、未受講者への連絡をこまめに実施しました。それぞれの上長にも協力を求めて、現場の社員に対し受講を促してもらいました。JALUXのレピユテーションリスクにつながるテーマなので、やるからには100%を目指したい、役職員全員に研修機会を活用して欲しいと考えていました。

島﨑氏|当社で行われるすべての研修とも100%を目指していますが、特にサステナビリティや、人権に関する研修というのは重要です。これらを理解していないと、例えば取引先と商談する時でも、あなたの会社は人権をちゃんと理解して対応できているのか、こんな会社と取引していいのかと思われるかもしれません。最悪の場合、取引中止になることもあり得ます。逆に言えば、しっかり対応できていれば、取引先の信頼を得ることもできるということで、人権の研修は全員が100%受講すべき、というのが経営層の意思でもありました。

人権に対して社内で共通認識  「スタートラインに立てた」

――実際に研修サービスを使われて、社内の反応、評価はどうでしたか。実施したことによる成果、手ごたえのようなものはありますか。

安部氏|一歩目が踏み出せたというところでしょうか。成果として具現化してくるのは、まだこれからだったり、繰り返し実施をすることで表面化してくると期待しますが、まずこの研修を続けて、これから定点観測をし、だんだんと意識が上がってきたというのが確認できればと思います。まずは「人権というのはこういうものだね」という共通の認識を持てたという点が大きかったかと思います。

島﨑氏|人権対応のスタートラインにやっと立てた、という状況でしょうか。一般的に人権とは何なのか、全社的に共通認識が持てて、今後の方向性というものが見えてきたように思います。今回の研修については、社内でもいろいろ反響がありました。問題の出題形式についても、今までの研修とは違って面白いねという声も聞きました。まず理想の回答があって、次に自分はどうするかを問われる。その直後に解説がある。「これはわかりやすい」「答えるのが難しかった」とか、様々な反応がありましたね。動画の視聴速度を早めての視聴ができず、後戻りもできない、という点もユニークでした。

ジェンダーからAI利用法まで・・・「理想とギャップはあってよい」に共感


佐藤氏|ハラスメントやジェンダーの問題に加え、サプライチェーンにおける人権問題、個人情報の保護、AI(人工知能)の利用の仕方、SNS(交流サイト)の使い方なども含めて、「ビジネスと人権」について幅広く取り上げています。例えば業務委託などをする際に、どういったところに配慮する必要があるのか、実際に問題が発覚した時にどうすればいいのかなど、今回の研修を通して学習ができました。 
特に「理想と現実にギャップがあってもいい」という組み立てであったことも、とてもありがたい点でした。ビジネスと人権に関して生じ得る問題は、当事者や担当者ひとりでは、なかなか問題提起するのが難しいケースが多いと思います。今回の研修を通じて、(人権にかかわる問題は)誰かひとりの責任で考える問題ではなく、会社全体で対処しなければならない。そういった認識を、このタイミングで共有できたのはよかったように思います。

 

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1万人対象のベンチマークと比較 自社の「現在地」を把握

――監修した先生も「現場が一番悩んでいる」とおっしゃっていて、我々も正しさを押し付けて現場の社員が悩んでしまうような研修教材にはしたくないと考えていました。社内でも議論になったのですが、そういうお話を今おうかがいして、大変ありがたく思います。

島﨑氏|あとは1万人の回答を集計したベンチマークがある、というのもすごくいいですね。しかも、上場企業の社員の回答を集計してあり、自社のアンケート結果と比べて、ベンチマークとどこが異なるのか、自分たちはベンチマークに対して上回っているのか下回っているのかを知ることができ、それもグラフ化されているので、一目瞭然でした。今回、弊社はほぼ平均的なところにいる、ということが確認できました。今後、定点観測することで、今どこの位置にいるのか、前に進んだかどうかもわかると思います。
 また研修・教育と同時に、社内の人権DDもできる。今回この二つの要素があったことがとてもよかったですね。

佐藤氏|匿名性を確保して回答してもらえたのもよかったです。記名式もオプションで指定できたようですが、回答する側としては匿名の方が回答しやすいのではないかと考えました。例えば、法務部の担当者が「サプライチェーンで人権の問題がありますか」と現場の社員に訊いても、答えは得られません。営業部は「面倒なことが起こるのではないか。取引停止になったら大変だ」と考えてしまうかも知れません。それが匿名アンケートであれば、サプライチェーン上で多少の不安がある、といった回答が出てきやすくなります。その上で、みんなで対策を考えていこう、となれば、会社として一歩進めます。

安部氏|匿名にすべきか否かというのは、人権DDと研修のバランスをどう考えるか、ということにつながります。匿名性を重視すれば、より本質的な声が聞こえ、会社全体として人権意識が把握できます。一方で、研修ということであれば、バイネームで受講者・未受講者を把握し、未受講者に対し受講を促した方がよいと思います。今回、人権DDと研修の二つの要素を持つ教材を活用するにあたり、本質的な目的をどこに置くのかはいろいろ考えました。結局、匿名にした上で所属部署と職級だけを記入してもらい、それぞれのカテゴリー別に集計・分析できるようにしました。オプションで分析カテゴリーを選択できるのもありがたいですね。

――結果を見て、気づきや驚きはありましたか。

安部氏|そうですね。実施前は部署ごとの色がもう少し出るかな、と思っていましたが、実際は、傾向に差はほとんどありませんでした。今後のアプローチ方法としては、特定部署に特定の研修ではなく、全社として底上げを図っていくことが効果的だと考えています。結果については1月末に役員向けに報告、全社員にも周知しました。

 

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多言語版の活用に期待、海外法人での実施も検討

――人権問題に取り組む上での今後の方針、そして日経リサーチのサービスへの期待や注文などがあれば、お願いします。

安部氏|今回はグループ会社を含めず単体500人規模で実施しました。今後は連結グループ全体、2000人規模を対象に実施を検討したいと考えています。国内グループ会社はもとより、海外拠点の従業員も共通認識が持てるように取り組んでいければと思います。

佐藤氏|人権の問題を規制対応や不祥事の防止に限定するのではなく、より幅広くとらえたいと私は考えています。「幸せづくりのパートナー」というのが当社の企業理念ですが、今やっているビジネスが人権への配慮、尊重という面でも貢献している、という風に考えると、社員にとって仕事の意義、やりがいにつながるのではないでしょうか。ふるさと納税事業においては、地元の産品を使った商品づくりで地域の振興や雇用の創出に貢献しています。他にも、離島で獲れた魚をJALの輸送力によって新鮮なまま消費地に届ける事業や、海外で空港の運営事業(コンセッション)など、インフラの整備にも携わっています。そうした一つひとつの取り組みが地域の人々に安心・安全な暮らしをもたらし、大きな意味で一人ひとりの人権を大事にすることにつながっていくのではないでしょうか。

人権へのアンテナを張る重要性 取引先調査サービスにも期待 

島﨑氏|そうですね。当面の対応としては、人権について、社員全員がまずアンテナをはる、ということが大切だと思います。ハラスメントやジェンダーについては、ある程度浸透していますが、環境面も含めサプライチェーン上の問題についても、今後理解を深める必要があります。ビジネスを進める上で、人権という面でのリスクを十分に分かっているか、不足しているのかによって、対応が全然違ってきます。この案件やこの取引先は人権の問題がありそうなので社内でもう一度相談しよう、といった慎重さが求められそれがリスク軽減につながると思います。そういう点で、今回の研修を通じて、その第一歩を踏み出せたとあらためて思います。
今後はそうした人権へのアンテナを張った上で、当社役職員が人権の感度をさらに上げていく教育を考えていかないといけない。そこで御社への希望としては、もっと掘り下げた研修教材などを提供していただけないか、ということですね。人権に限らず環境問題も含めて、サプライチェーン上のリスクなどについて、より深く、勉強できる教材があればいいと思います。日経グループとして、多くの企業の情報があり、豊富なデータベースをお持ちの御社ならではのコンテンツに、期待ししています。

佐藤氏|取引先の調査サービスも始められた、と聞いていますが・・・。

――これからですね。2024年1月3日の日本経済新聞朝刊に社告として掲載していますが、日経リサーチと日本経済新聞社共同でサプライチェーンのリスクを調査できるようなものを開発しています。

佐藤氏|そういったサービスができれば、弊社の取引先がどのように回答をしているかに加えて、ベンチマーク的な企業に関するデータも入手可能になるでしょうか。新規サービスの展開について、詳細をお待ちします。

 

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