広がる医療機器でのAI活用 ~医師、放射線技師が最も期待するメーカーは?~
2023.11.29開催ウェビナー
伸びる医療機器市場
今年3月、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)に最終報告書が提出された、新たな医療機器研究開発支援のあり方の検討に関する調査の結果である。調査報告書には、医療のあり方を大きく変えるような革新的な医療機器の開発・実用化に向け、次世代の研究開発支援の具体的なスキームについて活発に議論された結果が盛り込まれている。議論の背景には、今後も間違いなく医療機器業界は市場として世界規模で需要があり、伸びると予測されていることがある。2017~26年の国別の市場需要の推移と予測によると、米国が需要としては最大だが、日本も世界で4番目に需要があるとされ、ビジネスチャンスの多さがうかがえる。
では、なぜ医療機器市場は成長市場といわれるのか?日本経済新聞の業界天気図2023年度版は、大きく3つの要因があるとしている。
・高齢化
人々の寿命が長くなる中、健康維持や予防・未病のための検査の受診、罹患後は治療のための通院検査も増え、絶対的に医療機器を使う場面が増えている。
・医療機器そのものの水準の向上
内視鏡・カテーテル手術支援ロボットなど患者・医師双方の負担を減らせる新製品の開発が様々なところで進んでいる。
・人工知能AIの活用
診断や治療など様々な場面でAIの活用が見込まれており、AIが搭載された機器も多く発売されている。従来の医療機器メーカーだけでなく、電気・機械メーカーやサービス業などから医療分野に新規参入する企業も増えているほか、業界を超えたコラボレーションも活発で、市場の活況を感じさせる。
独自調査の結果からせまる医療現場のAI活用状況と今後の意向
医療現場で進むAI技術の活用を現場の医師はどう見ているのか?また、実際に導入は進んでいるのか?調査結果を紹介しながら、今後さらにAI医療機器が導入・活用されるために何が必要かにせまりたい。調査の概要は下記のとおり。
AI医療機器の導入分野
実際に導入されている分野を施設ごとに表示したグラフを見てみる。導入が一番進んでいるのはどの施設でも画像診断支援で、全体では24.9%。大学病院は36.4%と高く、どの分野でも大学病院が先行して活用が進んでいる。
当社は5月にも同じ項目について聴取したので、医師のデータに絞って、10月の調査データと比較してみた。約半年間でも導入が増えており、特に、画像診断支援、診断治療支援、手術支援に導入の動きがあった。
AI医療機器の導入予定分野
調査では今後導入を予定している分野についても聴取した。画像診断支援は私立・一般病院での導入が進みそうだ。また現在、様々な分野で導入が先行する大学病院は手術支援、ゲノム医療、医薬品開発へと導入の波がシフトしている。
使用しているAI医療機器
では、具体的にどんなAI医療機器を使用しているのか。現在、導入が最も進んでいる画像診断支援にフォーカスして見て行く。グラフは勤務先の施設で、画像診断の結果を活用している、もしくは直接使用しているAI医療機器を選んでもらった結果である。ここでは使用シーンを検査・診断に限定して聴取した。選択肢は「AI医療機器を使用しており、AI機能も活用している」「AI医療機器を使用しているが、AI機能はほとんど活用していない」「AI医療機器そのものを保有していない、もしくは医療機器自体を使用していない」の3つである。CT、X線、MRI、内視鏡は導入自体は6~7割と高いが、活用率はCTがトップで3割だから、導入を100とすると、活用率は50%にも届かない。
AI機器を導入しない理由
導入していない医師も多いことがわかったが、なぜ導入しないのか?理由を尋ねて、施設ごとに結果を表示した。経営形態が違う中でスコアの大小はあるが、導入していない理由のトップはいずれも「費用対効果がわからない」で、全体では46.9%。以下、「公的保険で診療報酬の加算対象にならない」「保険適用に課題がある」「導入時のリスクがわからない」「既存機器の機能で十分」「利用シーンのイメージがわからない」の順だった。保険適用に関しては、各種報道でもAI機器の導入の障壁になっていることが取り上げられており、極めて重要で無視できない課題だが、今回はメーカーとして対応できることにフォーカスしていきたい。
「良い」と判断される費用対効果とは?
導入しない理由に「費用対効果がわからない」を挙げた医師や放射線技師にどの程度だと「良い」と判断するのか、自由記述で尋ねた。施設形態や職業による違いはなく、主に医師の業務負担の軽減に関わる点と病院の経営負担に関わる点が共通して挙がった。詳細は下記のとおり。
AI医療機器に関する情報源
このように様々な要因から、導入や活用に慎重な医師も多いが、その判断に影響を与えると思われるのが情報源だ。医師や放射線技師はどんなルートから、どんな情報を得ているのか?AIなど最先端の技術に関する情報、製品の開発情報などと具体的に挙げながら、それぞれどんなルートで見聞きしているか尋ねた結果を表にまとめた。情報源として最も利用率が高いのは、国内外の論文・学会で、次いで医療系情報サイトが挙がった。AI医療機器未導入の医師が半分はいる中、情報源はメーカーより論文・学会、各種メディアが中心だった。また、医療機器卸・商社と比べると、医療機器メーカーは担当者との直接の面談でアプローチしているようだ。
AI医療機器メーカーとの接点状況
では、普段どんなメーカーと接点があるのか?国内で活動する18社を列挙するとともに、18社以外に接点があれば社名を記入する形で主要メーカーについて聴取し、施設形態別に表にまとめた。現在使用しているメーカーの上位10社は順位の前後はあるものの、ほぼ共通していた。多かったのはオリンパス、富士フイルム、 GEヘルスケア、キヤノン、シーメンス、メドトロニックなどである。
一方、以前は使用していたが、現在は使用していないメーカーも表にまとめた。現在使用しているメーカーはどの施設形態でもほぼ同じような顔ぶれが並んだが、こちらの顔ぶれは様々で、入れ替えが起きていることがわかる。
接点があるメーカーの評価
では、医師や放射線技師は接点があるメーカーをどう見ているのか?ここでは、医師・放射線技師と接点が多かったオリンパス、富士フイルム、キヤノンの3社を取り上げる。オリンパスは他社と比較し、知識情報に関する評価の高さが目立つ。関心が高い「導入による費用対効果」について、「説明が充実」の項目で他社よりも評価されている。富士フイルムは「使用事例、具体的な実例、解決策の説明や解決策の提示」や「WEBサイトなど製品情報が充実」で評価トップ。キヤノンは「新技術や新製品開発の情報が豊富」やスピード感でトップとなった。
3社の特徴をまとめると各社の違いがよくわかる。
AI技術の活用に強いメーカー
メーカーごとに評価ポイントに特徴が見られるが、調査ではAI技術の活用に強いと思うメーカーを上位から3社、使用の有無に関わらず、印象として回答してもらった。1位に上がった数が多い順に見ると、医師は富士フイルム、オリンパス、GEヘルスケア、キヤノン、NECと続く。「あてはまるものがない」が2位になったが、富士フイルムとオリンパスの差は約10ポイントあり、富士フイルムへの支持が突出した結果となった。放射線技師は多い順に富士フイルム、キヤノン、シーメンス、GEヘルスケア、エルピクセル、コニカミノルタとなった。画像診断分野で強みのある富士フイルムは、使用者が多い放射線技師の支持が高く、それが反映された結果と言えそうだ。
技術力・開発力で期待するメーカーとその理由
また、検査や診断を支えるAI医療機器のメーカーとして、技術力、開発力の視点から今後、最も期待するメーカーはどこか、1社だけ理由とあわせて挙げてもらった。医師は「特になし」が半分を占めたが、放射線技師は日頃の接点から富士フイルムとキヤノンが拮抗している。ここまで取り上げたメーカー以外にも、新しいところでアイリスやエルピクセルなど、新製品・新技術の話題が多いメーカーも上がっている。
各社に何を期待しているのか自由回答から見ていく。支持の高かった富士フイルムは具体的な機能を取り上げてのコメントが多く、高い評価と期待が見られた。例えば、「内視鏡専門医と同等の精度で、がんが疑われる部位をリアルタイムに検出できる」「画像処理に元から強く、最近開発しているAIアプリケーションも使いやすいものが多い」などで、この他、特にAI機器のアウトプットとPACSの連携の良さを挙げた回答が複数見られた。この連携の良さから、「具体的に導入予定」や「導入第1候補」といった記述もあったが、一方で「価格が高いのが残念」という本音も聞こえてきた。放射線技師からは「研究開発をし続けて大きくなった会社のイメージで期待している」との声があり、技術の高さが企業イメージ向上に繋がっているようだ。放射線技師の支持が多かったキヤノン/キヤノンメディカルシステムズはCT、MRI 分野での期待から、具体的な技術へのリクエストが見られた。例えば、「AI再構成CTによる被ばく低減と画質向上」「画像再構成を臨床に活用したメーカーであり、今後の性能の向上に期待」などである。旧東芝のキヤノンメディカルシステムズは「一番身近な存在」「技術力も信頼している」といった声もあり、過去の実績からくる技術力への信頼も高いようだ。
エルピクセルには「脳MRIの実績があり、画像診断領域でさらなる技術革新に期待」「AI読影支援は放射線科医が少なくなっている今、早々に必要性を感じる」との声が上がり、イノベーティブな技術への期待が見えた。
救急専門医が立ち上げたアイリスには、医療現場を理解した人間の視点から、「診察診断技術を他の医師も共有出来るようなAI技術の開発」「大衆的に必要なインフルエンザの診断など、手がかかるものへのAI化」といった声が寄せられ、医師の経験から来る、未だかつてない技術への期待がうかがえた。
現場で導入を期待する分野
医師や放射線技師が今後、導入を期待している分野と、最初に見た現在の導入分野をプロット図にした。現在、導入しており、今後も期待が大きいものほど、右上の象限に表示している。現在の導入率も高く、今後の期待も大きいのは、やはり画像診断支援である。診断・治療支援、手術支援、ゲノム医療の導入率はまだまだだが、期待が高いことは間違いない。
必要な情報として重視するもの
今後、AI医療機器の導入を検討する際、医師や放射線技師はどんな情報を必要とし、重視しているのか?保険適用の問題は業界を挙げて働きかける必要があるが、メーカーとして今できることを正確に把握しながらアプローチすることが求められる。
グラフはAI医療機器の導入を検討する際に必要な情報として重視するものを選択肢の中から3つ挙げてもらい、結果を上位から順に並べたものである。医師と放射線技師では重視する情報が異なり、医師はコストやサポート面の関心が高いが、放射線技師は臨床データ/エビデンス、活用事例、互換性などを重視している。
5番目に上がった「既存機器との互換性」を重視するとした先生に意見を聞いたところ、「純正の価格が高い場合は、サードパーティの製品を選択することもある」が4割を超え、「価格が高くても、既存メーカーの純正を選択する」を大きく上回った。サードパーティにとってもチャンスは大いにあると言えよう。
調査から見えた医療現場の現状と対策
最後に、今回の調査から見えてきた医療現場の現状と導入に向けての対策を整理したい。現状について分かったことは大きく3つ。
・AI医療機器の導入期待は大きいが、導入決定には慎重で、ハードルがある
・AIに関する新技術や製品の開発に関する情報は7割の医療関係者が触れている
・日本のメーカーへの期待が高い
これらについて順に対策を考える。
まず、導入期待は大きいが、導入決定には慎重な医師や放射線技師に今必要なアプローチは何か?今回の調査結果からは、医師と放射線技師ではその役割の違いから、判断基準が明確に異なっていることがわかった。医師はコスト面をより重視する傾向があり、放射線技師はエビデンスや患者目線で情報を重視する傾向がある。また、今回はオリンパス、富士フイルム、キヤノンの3社のみを取り上げたが、各メーカーの評価も異なっていた。自社の対応、情報の不足はないか、医師や放射線技師が必要としている情報が提供できているか整理、確認してみる必要がある。今回の調査結果から、CTなど機器によっては6~7割は導入が進み、半分の医師はAIを活用しているとすると、様々な要因がありながらも、メリットを理解して導入、活用している医師が多いことも事実。AI医療機器を導入した際にどんなメリットが得られるか、医師や放射線技師に伝わるような説明方法を改めて整理して実施することが必要だろう。
次に情報について。導入に慎重な医師は費用対効果に関する情報や利用シーン、事例を必要としている。学会を通じた情報が重要なことは変わりないようだが、業界専門メディアの情報も多く目にしている状況から、メーカー担当者の活動と学界、業界専門メディアへの露出とをセットにして、戦略をより強く考えることが必要だ。
最後に、日本メーカーへの期待に応えるため、日本の医療現場の情報収集を強化することも求められそうだ。ある国公立病院の放射線技師は「日本メーカーは海外メーカーと比べ、日本の臨床現場の意見が採用されやすい」とコメントしており、日本メーカーに対する、寄り添った製品開発や意見の採用への期待をうかがわせた。間違いなくAI医療機器は“導入前夜”である。
医師や放射線技師が何を期待しているか、自社は対応できているか、他社と比較してどうか。調査はそれらを見える化する力がある。ご担当の製品・サービスではそのような点を整理できているだろうか?今回ご紹介した視点での調査データは開発やプロモーション、マーケティングに生かしていただけると思う。ぜひ、ご活動の参考にしていただきたい。
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