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医療機器、「他社への乗り換え」はなぜ起きるのか? ~画像診断機器の調査結果をもとに考察する~

 今回は「医療機器、他社への乗り換えはなぜ起きるのか」をテーマに、医療機器を利用している医師や技師約1000人に対して実施した、 MRI や内視鏡などの画像診断機器に関する独自調査の結果を紹介する。そして、その結果を踏まえ、何%が他社への乗り換えを検討しているのか、その原因はどこにあるのか、離反を防ぐにはどうすれば良いかという分析内容についてもお話しする。

市場需要と国内の競争環境

 まず、医療機器市場の需要と競争環境について見てみよう。グラフは AMED に最終報告された「新たな医療機器研究開発支援のあり方の検討に関する調査」の結果の一部である。世界各国の市場需要を年度ごとに積み上げたグラフで、下から米国、ドイツ、中国で、赤色が日本である。世界の医療機器市場は米国、中国を筆頭に大きな需要があり、今後も伸びが予測される。日本国内の医療機器市場も高齢化社会の進行とともに拡大傾向にあるものの、世界全体と比べるとその伸びは大きくない。それに伴い、販売台数はやや頭打ちになり、今後はいかに買い替えニーズを捉えるかが課題となりそうだ。

 

医療機器市場

 

 では、国内市場の競争環境について考えてみる。他国と比較して市場の伸びが緩やかになり、それに伴い、販売台数の伸びが鈍化する中、 AIを含む新技術・新製品を発売するだけでなく、機器周辺のサービス事業を拡充するなど、各社は顧客との繋がりを強める方向に進んでいる。このような環境から、国内市場は内資・外資問わずシェアの奪い合いがますます激化すると考えられる。そこで次に、他社への乗り換えはなぜ起こったのか、それを防ぐ可能性はどこにあるのかをテーマに、独自調査の結果を紹介する。

 

医療機器、「他社への乗り換え」はなぜ起きるのか?

 この調査は日経グループの日経BP社が保有する日経メディカルオンラインのパネルを使用し、インターネットで実施した。回答は医師、放射線技師、臨床検査技師の3職種にお願いし、MRICTX線、内視鏡、エコーのいずれかの機器選定の関与者を対象とした。今回はMRIの調査結果を紹介する。

調査概要

半数近くがメーカー変更

 直近のMRI購入の際にメーカーを変更したか聞いたところ、半数近い45%が変更したと回答した。多いと感じた方もいると思うが、実は、次にMRIを購入する場合も、現在使用しているメーカーは検討せず、他社のみを検討しているとの回答が44%に達した。この結果から、将来的な乗り換えリスクも多分に存在することがわかる。

変更した理由・しなかった理由

 実際にメーカーを乗り換えたという回答者に理由を聞いた。以前は使用していたが、現在は他のメーカーの製品を使っている、いわゆる離反者に聴取した乗り換えの理由を、メーカー別にランキングにしたところ、東芝/キヤノン、GEヘルスケア、フィリップスは「機器本体のコスト」が1位で、「精度」も離反の理由の上位に挙がった。シーメンスは「ランニングコスト」が1位になった。GE ヘルスケアで「AI機能の搭載」(搭載されていない)を理由に離反した人は35年前にキヤノンに乗り換えていた。また、東芝/キヤノン、フィリップスは「操作性」でも離反が起きており、シーメンスは乗り換え理由に「精度」や「操作性」など機能面の指摘がないのが特徴的だ。

離反理由

 

  一方でメーカーを変更せず、同じメーカーを継続購入した理由を見ると、共通して「使い慣れ」「保守・サポート」といった項目が多く見られた。

継続理由

乗り換え理由と不満点

 アンケートの自由回答に寄せられた、メーカーを乗り換えた人の購入時のエピソードを見ると、GEヘルスケアからキヤノンに乗り換えた人はコストと性能のバランスを重視し、東芝メディカルからフィリップスに乗り換えた人は導入後のサポートが決め手となったようだ。東芝メディカルからシーメンスに乗り換えた人からは、新しい機能や性能面で選択したが、保守・サポートにやや難点がある、等の意見も寄せられた。各社の製品特性やサポートの拡充により、乗り換え理由は異なるが、乗り換え後も不満になり得る点もあるようだ。

購入時のエピソード

 

 実際に不満点を掛け合わせて分析してみた。今回はフィリップスについて、他社を使用していたが現在は同社製品を使っている人に、乗り換えた理由と現在の不満点を聞き、横軸に理由、縦軸に不満点を掛け合わせた4象限分析を行った。右に行くほど乗り換えた人が多い理由で、上に行くほど不満が多い項目である。注目は右上のピンク色のエリアで、前回の購入の際、乗り換えた理由になったが、現在も不満が大きい項目を示している。このエリアは少し強い言い方をすると、期待して購入したが、がっかりしたウィークポイントになり、改善しなければならない点と言える。今回取り上げたフィリップスは「精度」「メーカーへの信頼性」「保守・サポート」等のフォローが必要そうだ。

不満点×乗り換え理由

 

機種選定での重視点

 ここまでの結果を見ると、乗り換えが起きた理由は各社異なるものの、コスト、サポート、精度が大きそうだ。しかし、それだけが製品選定に関与しているのだろうか?乗り換えを起こさないため、自社を検討してもらうためのカギが営業担当者にもあるのではないか。

 今後の機種選定における重視点を聴取した結果をグラフにした。やはりコスト面や「保守・サポート」が上位に挙げられ、「精度」「AI 機能」も重要視されている。一方、「メーカー営業担当」は3%と低く、一見重視しなくてもいい項目に見える。

 

機器選定理由

各社営業活動の印象

 では、営業活動は継続意向にはどのように影響しているのか?各社のツールや WEBサイトを含めた営業活動の印象を、現在使用しているメーカーに絞って聴取し、グラフにした。各社トップスリーの項目は赤枠で囲った。それぞれトップスリーのイメージは異なるが、「WEBサイトなど製品情報が充実している」の項目は共通している。

営業活動の印象

 

 これらの印象について、現在使用しているメーカーを今後も継続して購入する意向が有るか・無いかで分けてみると、営業担当者がカギになることが見えてくる。先ほどのグラフの各項目を、次回の購入時にも現在使用しているメーカーを検討する“継続検討者層・検討有り層” は各社それぞれの色、例えば、キヤノンなら赤で示し、同じメーカーを検討しない“継続検討無し層”はすべてグレーで、それぞれ示した。

営業活動の印象(継続検討分析)

 

 有り層が持っている印象と、無し層が持っている印象は項目によって差が大きく、例えば、シーメンスだと「製品知識が豊富で、頼りになる」は、有り層には印象が強く、無し層にはあまり印象がない。つまり、これらの営業活動の印象は継続検討に影響しており、裏を返せば、離反の要因にもなり得る点と考えられる。

 

継続へのカギは営業担当者

 赤枠で囲ったのは、継続検討有りと無しの間で差分が大きい項目の、企業別トップスリーである。更に、各社共通して差が大きい項目には黄色いハイライトをつけた。先ほど全体的に印象が強かった「WEBサイトなど製品情報が充実している」はメーカーによって多少傾向は異なるが、結果的に検討有りと無しとの差分は小さかった。WEBサイトの拡充は各社既に満足度が高く、継続検討にはあまり影響しないようだ。

 逆に、各社共通で差分が大きかったのは、「自身の診療において、必要なパートナーである」「製品知識が豊富で、頼りになる」「新技術や新製品開発に関する情報が豊富である」「導入時や新機能の追加時の導入サポートスタッフへの教育が充実している」の4項目だった。いずれも人を通じての印象であり、「導入時の教育」は同一メーカーを継続購入した理由に挙がっていた「使い慣れ」にも繋がる。

 これらの印象に基づく営業活動は次回の購入検討に影響を与え、他社を検討させず、乗り換えを起こさないために注力すべきポイントだと言える。この調査結果により、機器のコストや精度、サポートなどは重要ではあるが、機器の継続検討を促すには、営業担当者による顧客との繋がりも必要な要素であり、カギになっていると言える。

営業が強化すべき4項目

 調査結果から、乗り換えを起こさせないにはどうすればいいか、まとめてみた。乗り換え理由や重要視する点をアンケートで聴取した際、メーカーの営業担当者はそれほど重要視されていない要素に見えた。だが、改めて各社の営業活動に対する印象を聞いたところ、印象の中には、同一メーカーの継続使用を検討している人の多くが抱いている一方、継続使用を検討していない人は抱いていないものがあった。それが「診療において必要なパートナー」「製品知識が豊富」「新技術や新製品開発に関する情報が豊富」「導入時・新機能追加時のサポートスタッフへの教育」の4つである。これらのことから、営業担当者の存在は継続使用の検討に影響しており、乗り換えの要因にもなり得ると言える。

 

営業担当者がより強化すべきこと

 

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