M&A・PMIの実態を可視化──日経IDリサーチサービスで明らかにした企業統合の実像
アビームコンサルティング株式会社
「M&Aを実施した多くの企業が、期待したM&Aの成果を十分に実感できていないのではないか」という仮説のもと、その実態を客観的なデータで検証し、企業のM&A成功に向けた示唆を提供したい――。 アビームコンサルティング株式会社では、その思いから日経IDリサーチサービスを活用した独自調査を実施。結果を発表すると同時に、大きな反響があったという調査の狙いや手応えについて、プロジェクトを進めた同社 Corporate Finance & Transformation Strategy Unitの松浦洋平さんと大森康弘さんに話を聞きました。
アビームコンサルティング株式会社
Corporate Finance & Transformation Strategy Unit
PMI・Carve-out Offering Leader Principal
松浦洋平 氏 (右)
Corporate Finance & Transformation Strategy Unit
Senior Manager
大森康弘 氏 (左)
1.アウトプットではなく、アウトカムにコミットする日系コンサルティングファーム
―――まずは貴社の事業内容についてお聞かせください。
松浦洋平氏(以下、松浦)|当社は日本発・アジア発のグローバル総合マネジメントコンサルティングファームで、特に日本企業特有の商習慣や企業風土にフィットさせた支援を強みとしています。
私たちが大切にしているのは、お客様の「アウトカムにコミットする」という姿勢。創業以来掲げている「As Client Grows, People Grow(顧客の成長とともに、人も成長する)」というフィロソフィーのもと、お客様の成長を起点に、ステークホルダーと私たち自身も成長することを目指します。
そして、単に戦略を策定して終わりではなく、企業価値の向上やキャッシュフローの創出という財務成果まで責任をもって支援を行います。

―――松浦様と大森様が所属するCorporate Finance & Transformation Strategy Unitは、どのような組織なのでしょうか。
松浦|Corporate Finance & Transformation Strategy Unitは、2024年に立ち上がった組織です。
企業の成長戦略には、外部リソースに頼らず自力で収益を拡大させる「オーガニック成長」と、M&Aなどによって、外部リソースを活用する「インオーガニック成長」があります。その双方を支援することが、私たちのミッションです。
具体的には、成長戦略の策定から、M&Aの実行、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A成立後の統合プロセス)、そして変革後のアウトカム実現まで、一気通貫で支援していきます。
2.「M&Aの成果に対する課題意識 」をファクトにするために
――貴部門では、2025年の夏に日経リサーチの日経IDリサーチサービスを活用して、M&Aに関する調査を実施しています。調査の狙いと背景を教えてください。
松浦|調査の狙いは主に2つです。1つは日本企業のM&Aの実態を定量的に把握することでした。もう1つは、M&AやPMIの成功要因を明らかにし、アビームコンサルティングが強みとするオペレーションやIT・デジタル変革の知見も生かしながら、お客様の企業価値向上や財務成果につながる実務的な示唆を提供したいと考えたことです。
私は、これまで20年近くM&Aの現場に携わってきましたが、経験上、日本企業のM&AはPMIを通じた価値創出にさまざまな課題があるのではないかという感覚がありました。
しかし、市場を見渡すと、その実態や成功要因について客観的に把握できるデータは必ずしも十分ではありません。多くの企業も、コンサルタントである我々も課題意識を持っているテーマだからこそ、その実態を定量的に明らかにし、M&Aの成果向上に向けた示唆につなげたいと考えたのです。
――そう考えると業界的にも大きな意味をもつ調査だといえそうですね。ちなみに調査結果は、当初予測していた通りでしたか。
松浦|M&Aの成果を実感できていない企業や経営者が多いことは予想していた通りでした。ただその割合が想定を超えていました。
調査は、上場・非上場企業のM&A経験者約300名を対象に行いましたが、過半数の企業が統合後の成果を十分に実感できておらず、経営層に限れば、約85%が満足のいく手ごたえを感じていないという回答が得られました。正直、ここまで多いとは思っていませんでしたね。
大森康弘氏(以下、大森)|調査結果を分析したところ、業界別の傾向があらわれたことも印象に残っています。自動車、金融、電機、電子機器では成果を感じている企業が多い一方で、食品、化粧品、情報処理、卸売は成果を感じている企業が少なかったのです。
おそらく自動車メーカーはグローバルでオペレーションの標準化が進んでいて、金融は社会インフラとして、業界特有の規制対応や緻密な統合計画の基に慎重かつ丁寧にプロジェクトを進める文化があることが好影響を及ぼしていると考えられます。このような業界差は、今後深掘りしたいと思える発見でした。

――調査の結果からは様々な示唆が得られたと思いますが、どのように活用していますか。
大森|調査結果はプレスリリースの他、 M&Aをテーマにしたセミナーなどで発表していますが、反響は大きかったですね。セミナー参加者に、私たちのサービスに関するダイレクトメールを送ったところ、これまでにないくらいの反応率で対応に追われ、まさに嬉しい悲鳴でしたね。それだけ調査結果へのインパクトが大きかったのだと思います。
また、営業活動の質の向上にも寄与しています。提案資料に調査結果を掲載することで、お客様から 「うちも同じ悩みを抱えている」という共感が得やすくなったとともに、「我が社の課題もここにある」という納得感も増した印象です。提案の入口が確実に変わりました。
※調査活用例:https://www.abeam.com/jp/ja/insights/159/ より
松浦|セミナーの参加者からは「M&A後の価値創出に課題を感じている企業が少なくないという実態について、よく言語化してくれた 」という声を数多くいただきました。M&Aの成果が期待どおりに現れない場合でも 、その実態や課題についてはなかなか表に出にくいものです。それがたとえ担当者個人の問題ではなく、経営や事業環境、社会構造的などの影響によるものであっても――。
しかし、これが「 多くの企業に共通する課題」 という認識が広がれば、そのような状況は大きく変わるでしょう。「現場と経営層のギャップ、あるいはM&Aに対するさまざまな課題意識の背景を、調査結果がひも解いてくれるのではないか」という期待の高まりを感じました。
3.企画段階から伴走可能な支援体制の安心感
―――調査を実施するにあたって、なぜパートナーに日経リサーチを選んだのでしょうか。
大森|一番の理由は、他の調査会社では調査に必要なサンプルが確保できなかったからです。今回の調査対象は「M&Aへの関与経験がある部長職以上のビジネスパーソン」に設定しました。日経リサーチに依頼する前に4、5社にヒアリングを行いましたが、いずれもその条件で、一定数のサンプルを集めるのは難しいといわれました。
そこで日経リサーチのWebサイトを見て問い合わせたところ、実現可能だという回答を得たのが、取引の始まりでした。さらに日経IDリサーチサービスを活用すれば業種、役職、上場・非上場など多様な判断軸で調査対象を絞り込むことが可能で、より精緻に調査ができると説明され、依頼することに。最終的に300サンプルを達成できたのは、日経ID会員という調査基盤の広さと質があったからこそだと考えています。
――その他、日経リサーチのサポートで評価していることはありますか。
大森|他の調査会社に話を聞いた際は、どのパネルを使うか、何件取れるか、という実務の話が多かった。しかし、日経リサーチは、最初の打ち合わせから、「そもそもこの調査で何を明らかにしたいのか」という企画の目的を丁寧に聞いてくれました。
例えば、こちらが「こういうことをやりたい」というと、「それではこのような調査方法で、こういうことができる」と提案してくれるわけです。その姿勢が、安心感と信頼感につながっています。
松浦|企画の意図を共有できていると、その後のすべてのやりとりでピントがずれることがありません。
M&A領域は専門用語が多く、言葉の使い方ひとつで回答者の解釈が変わります。そこで、私たちが作った草案を見てもらいながら、日経リサーチから「この表現は回答者が迷うのではないか」、「この選択肢はこう変えた方がよいのではないか」というフィードバックを繰り返し受けながら、設問や選択肢を磨いていきました。そのようなことができるのも、私たちが何のために調査をしたいのかをしっかり理解してもらえたからこそです。
調査後に聞いたところでは、担当者は事前にM&Aについて調べて臨んでくれていたとのこと。専門外の領域についても、そこまで理解してプロジェクトを進めてくれる調査会社はなかなかないと思います。
大森|自由回答の質も高く評価しています。PMI推進上の課題を問う自由回答の設問では、現場担当者のリアルな声が多数集まり、分析レポートの考察を裏付ける素材になりました。選択式の回答だけでは拾えない「なぜ」に対する答えを補えましたが、これも回答者がビジネス感度の高い日経ID会員だからこそ、でしょうね。
松浦|あと日本経済新聞社グループの調査会社ということで、データの信頼性が担保されるのも、日経リサーチのサービスを利用する価値だと思います。特に社内的な信頼を得るのに大きなインパクトがありました。
大森|社内では、今回の調査結果を見て「どこの調査会社で実施したの?」とよく聞かれます。やはり、ビジネスパーソンに対する定量調査ができる会社は少ないからなのでしょう。
松浦|いずれにせよ、単に調査を実施するだけでなく、こちらが享受できる価値を最大化するために、調査実施前の企画段階から伴走支援していただけることは高く評価しています。

4.日本企業の成長のために、M&Aの価値創出を高める
――今回の調査で得られた気づきを今後どのように生かしていく考えですか。
松浦|今回の調査で、日本企業のM&Aにはさまざまな課題があることが明らかになりました。今後は、そこを深堀して、本質的なニーズや構造的な問題、そして課題の解決策を探っていきたいと考えています。
M&Aは、企業成長を実現するための正当な手段の1つです。しかし、日本ではその価値が正しく評価されていないのも現実です。
例えば日本では、事業の売却は事業価値が下がったタイミングで行われることが多く、ネガティブに受け止められがちです。一方、欧米企業では、事業が好調なタイミングで、企業価値の最大化や経営の効率化を目的に売却されることも珍しくありません。つまり、事業の買収だけでなく、売却もまた企業の次なる成長に向けた重要な戦略となるケースがあるのです。
私がM&Aの現場で20年近く感じてきたのは、「M&Aはもっとうまくできるはず」という悔しさと自戒の念です。ただ、コンサルタントが口で言っても説得力はありません。ファクトがあって初めて、お客様と向き合って正しい議論ができる。今回の調査は、その土台をつくってくれました。
――今後の展望と、日経リサーチへの期待をお聞かせください。
松浦|私たちの根底にあるのは、やはり「As Client Grows, People Grow」というフィロソフィーです。目指すべきは単なる自社の売上拡大ではなく、あくまでもクライアントの真の成長であり、そのための課題解決です。個々の企業の変革が、やがて日本企業全体、ひいては日本経済をより良くしていく原動力になると信じています。M&Aによる企業価値向上の実現を通じて、日本企業の確かな成長にコミットしていきたいと考えています。
そのためにも、日経リサーチには調査を戦略的に展開していくための設計段階からご一緒いただきたいですね。単発の依頼にとどまらず、私たちのミッションをご理解いただいたうえで、次に何を問うべきかを共に考えてくれるパートナーとしての役割に期待しています。

アビームコンサルティングの松浦様、大森様への取材で特に印象的だったのは、長年の現場で培われた「課題意識」を説得力のある「ファクト」に変え、顧客との深い共感を生み出す力として活用されている点でした。また調査データを分析レポートだけで終わらせず、セミナーや営業提案などの場で「顧客の悩みに寄り添うための共通言語」へと昇華させている展開力も、大変参考になります。データ活用の実践例として、同社が公開されている調査結果もぜひ合わせてご覧ください。
同社の挑戦を、今後も戦略的なリサーチパートナーとして支援してまいります。貴重なお話をありがとうございました。
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