「5W」で考える顧客ニーズ -勝つBtoB企業は情報発信で差をつける
コロナ禍の時期を経て、BtoBビジネスを行う企業においても、オウンドメディアやセミナーなどでの情報発信が一般的になった。旧来のBtoBビジネスでは、営業が “足で稼ぐ”ことで売り上げを伸ばすスタイルが中心だった。それがコロナ禍による変化で、オンラインでの情報発信と営業担当者を介したリアルでの接点とを組み合わせていくことが重要になってきている。
しかし、情報発信の重要性を理解しつつも、「効果的な取り組みができている」と自信を持って言える担当者は少ないのではないだろうか。
「どんな情報が求められているのかわからない」「とにかく様々な情報を発信しているが、売り上げにつながる実感がない」-BtoB企業の担当者からはこうした声も聞こえてくる。
このコラムでは、BtoB企業が「どんな情報」を「どのように発信すべき」なのか、的確な内容や発信方法をどうやって把握するかを、日経リサーチが実施したアンケート調査の結果を読み解きながら探っていく。
BtoB企業の情報発信に必要な「5W」
BtoB企業はどのような情報発信をすべきか。大原則は、「必要な情報を」「必要としている人に」「必要なタイミングで届ける」ということになる。
では、そのために理解しておくべき自社の顧客ニーズをどのように捉えればいいのか。
ポイントは「Who:だれが」「When:いつ」「Where:どこで」「Why:なぜ」「What:何を」の「5W」でニーズを整理することだ。
つまり、購買行動に置き換えると、「Who:だれが」、「When:どのような購買フェーズで」、「Where:どのような情報源で」、「Why:なぜ」、「What:どのような情報を求めているのか」という5つのポイントを理解し、情報発信を計画していく必要があるということだ。
仮に、勤怠管理のITシステムのサービスを例に、いくつかのビジネスターゲットを想定して考えてみよう。
上記のように、「経営者が、課題認識の段階で、WEB上の記事で、エクセルでの勤怠管理が限界のため、どのように勤怠管理すればよいかという情報を求めている」、「人事担当者が、問い合わせ先検討の段階で、企業ホームページで、導入サービスを検討するため、価格の情報を求めている」、「サービス導入の決裁者が、複数社比較の段階で、営業資料で、導入サービスを決定するため、サービスの強みの情報求めている」といったように、想定される顧客企業の中で、さまざまな立場の人が、それぞれのフェーズで、必要な購買情報を求めていることが想像できる。
BtoBビジネスで5Wを意識することが極めて重要なのは、顧客企業において情報収集から最終決裁までのルートが非常に複雑だという理由が大きい。
BtoCビジネスの多くでは、意思決定者と商品・サービスの利用者は、同一人物か、もしくは家族など少人数のグループに限られ、意思決定の判断もシンプルだ。一方で、BtoBビジネスでは、ターゲットが、情報収集を行う人、意思決定に関与する人、最終意思決定する人、現場で利用する人というように多岐にわたることも珍しくなく、意思決定のプロセスも複雑だ。
そこで5Wを細かく検討し、自社の顧客向けに情報発信のあり方をチューニングしていく必要があるのだ。
情報のニーズをどう見極めるか
では、どうやって情報のニーズを見極め、情報発信をチューニングすればよいのか。
多くの企業では、闇雲に情報発信するのではなく、こんな情報が必要な人がいるだろうという仮説をもとに情報発信をしているはずだ。
しかし、仮説の検証が不十分なら成功は難しい。また、そもそも仮説の精度に問題を抱えている恐れもある。サービス提供側が全く思いもしなかった情報を顧客が求めているということもあり得る。
この仮説の解像度を上げるためには、より深く顧客を理解することが重要となる。
ターゲットとなる顧客が、どのような段階で、どこでどんな情報を見たのか、もしくは必要としていたのか、それはなぜか、というニーズや行動を明らかにするのである。あわせて現在の情報収集における不満もわかれば、適切な仮説を考える手助けになるだろう。
顧客のニーズや行動を理解するための一つの手段としては、自社サイトのアクセス解析によるデジタルマーケティングが考えられる。サイトページの閲覧数といった単純な情報から、「どのような情報を見た人が、実際にサービスを利用したか」といった情報まで、確認することができるだろう。
ただ、これだけでは十分ではない。自社サイトのアクセス解析では、自社で追えない一般メディアや競合サイトでの情報や、「なぜその情報を求めるのか」という情報が含まれていないからだ。
例えば、「価格に関するサイトページの閲覧が多い」という事実をもって、「価格への関心が高い」と考えることはできる。しかし、価格が重要な情報だから見られているのか、自社サイトでは価格が分かりにくいいから繰り返し見られているのか、判断はできない。理由まで含めた行動実態やニーズを正しくつかむには、アンケート調査が必要なのだ。
情報のニーズを調べる調査をどう行うか
情報のニーズを調べるアンケート調査で重要なのは、①5Wを分解してとらえること、②ビジネスの段階を検討すること、③適切な対象者に調査すること、の3つだ。
① 5Wを分解してとらえる
5Wのそれぞれには無数の選択肢が想定でき、また、WhoからWhatまで5つの組み合わせは多岐にわたる。そこで、誰がどのような情報源を見ているのか、どの段階でどのような情報が必要なのかなど、2~3程度の組み合わせを調べておき、仮説構築の段階で傾向を捉えておくと良いだろう。
例えば、「経営者は新聞を多く見ており、経営者が導入初期で導入の必要性に関する情報を求めている」という情報があれば、新聞に記事広告を出すという施策が考えられる。
② ビジネスの段階を検討する
BtoBにおける購買意思決定のプロセスとして、一般的なものを整理すると、図1の上段のようになる。これらを情報収集という視点で考えると、図1の下段のように整理できるだろう。
図1
もちろん、この例は一般的なもので、商材によって、ある段階が細かくなったり、なくなったりするといった違いはある。例えば、有形商材なのか、無形商材なのかによっても異なるだろうし、同じサービス領域でもコンサルティングとITシステムでは異なるだろう。
調査の対象となるサービスや製品が、どのような購買検討段階を経て取引されるのか、顧客へのヒアリングなどをもとに、社内で共通認識を持つことが必要となる。
③ 適切な対象者に調査する
例えば経理システムが商材の場合、マーケティング職種の人にアンケートを実施しても、無駄なだけだろう。一方で、経理部に所属していても、購買決定に影響を与えない事務員に調査することも、無駄が多いかもしれない。システム導入にあたっての意志決定に関わる管理職や経営層に調査するほうが、参考になる結果が得られることは想像に難くない。
このように、調査は商品・サービスに合わせたビジネスターゲットに行う必要がある。
さらに言えば、社内で一定の影響力を持つビジネスリーダーといわれる人や、自ら収集した情報を社内で共有するような情報先端層のニーズをとらえることができれば、より発信の効果は高まるだろう。
調査をどう活用するか
では、調査によってどのような結果が得られ、そこからどのようなことが考えられるのだろうか。以降では、日経リサーチの行った「DXコンサルティングの導入に関するアンケート調査」の結果を紹介し、情報発信のポイントを探る。
調査は2023年6月21日~7月3日、「DXコンサルティング」のサービス導入に携わるビジネスパーソン432人を対象に、インターネット経由で実施した。
下記の図2は、DXコンサルティングの導入に関する問い合わせの際に、参考にする情報源を聞いた質問の回答をまとめたものだ。
図2
最も高いのはサービス提供をしている「会社のウェブサイト」で、続いて「その会社の営業担当・従業員」、「イベント・セミナー」と続いている。問い合わせ前は、企業ウェブサイトやイベントなどの媒体が注目されていることがわかる。
続いて下記の図3は、「問い合わせするときの重視点」と「問い合わせ前に知ることができたこと」を比較したグラフだ。
図3
サービス導入関与者が問い合わせ時に重視点としては、「価格の妥当性」や「技術的なサポート・アドバイス」、「知見の豊富さ」、「顧客事例や成功事例」が上位に並ぶ。コンサルティングというサービスならではの要素として、知見や技術アドバイスが求められているほか、導入事例や、価格が妥当なのかという情報が求められていることがわかる。
一方で、実際に問い合わせをする前に知ることができた情報としては、上位に「会社の規模」、「会社の知名度」、「顧客事例や成功事例」などが挙がった。顧客事例というコンテンツでは、ニーズに対応できているものの、価格や知見、技術的なサポート・アドバイスについては、情報提供が不足しているといえる。
サービス導入を検討している潜在顧客が選定基準とする情報が、実際には不足していることは、選定から漏れるリスクをはらんでいると考えるべきだろう。
さらに下記の図4は、「問い合わせ時の重視点」に重ねて、「複数社の比較検討時の重視点」をまとめたグラフだ。
「価格の妥当性」が最も重視されていることは変わらないが、比較検討時はよりスコアが高くなっており、その他にも、「納期に対する柔軟性」と「社内での実績」も高まっている。
ここまでの結果で、5Wのうち、
Who:導入関与者が
When:問い合わせ時や比較検討時に
Where:どのような情報源で
What:どのような情報を求めているのか
という4つの一部の結果を見てきた。
ここまでの分析にとどめても、DXコンサルティングを提供する会社の情報発信のポイントとして、次のようなことが考えられる。
ポイント①
自社ホームページには知見の豊富さや技術的なアドバイスができることをアピールするコンテンツを入れる
ポイント②価格の妥当性は重要視されているが、コンサルティングのような不定形サービスにおける妥当性をどのように置くかは追加調査・分析が必要。そのうえで情報発信を行う。
ポイント③
商談資料では、特に価格に納得いくような情報や顧客社内での実績をアピールする
5Wの視点から深掘りしていけば、さらに具体的な施策にまで落とし込めるだろう。
独自調査の必要性
ここまで、DXコンサルティングに関する調査をもとに調査結果を読み解いた。しかし、先述の通り、商品・サービスによって購買のプロセスや商習慣が異なることが想像される。そのため、自社の商材に対してどのような情報収集ニーズがあるのかは、調査を行って確認していく必要があるだろう。
5Wに沿って、情報収集のニーズを整理して、仮説を構築・検証し、情報発信を最適化していけば、BtoBビジネスの成功の確度を高めることができるだろう。
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