企業におけるコンプライアンスの重要性とは
「従業員のコンプライアンス意識を向上させたい」「ガバナンスをさらに強化したい」など、コンプライアンス意識を社内に浸透させることは、企業にとっての最重要課題である。重大なコンプライアンス違反が起きてしまってからでは手遅れだ。社内のどこにリスクは潜んでいるのか、企業におけるリスク管理はどうしたらよいのか、経営に関わる問題に発展してしまう前に何をすべきか。今、改めてコンプライアンスの重要性が企業に問われている。
なぜコンプライアンスへの取り組みが重要なのか
コンプライアンスとは何か
コンプライアンスの意味を調べれば「法令や規則をよく守ること」とある。しかし企業が不祥事を起こせば、たとえ法令を順守していても、社会から非難される場合がある。なぜか。社会が企業に期待するところを裏切ったからである。期待とは、安全・安心、高品質、公正さなど、企業の存在意義の根幹をなすものが挙げられる。企業が期待に応えるべき相手は、消費者、社員、取引先、株主、社会などさまざまなステークホルダーである。そのため、企業にとってのコンプライアンスの本当の意味は「ステークホルダーの期待に応えること」と考えられる。法令とは、人や企業が守るべきルールのうち、「違反したら法的制裁がある」という最低限のルールであり、企業に要求されるコンプライアンスは、それよりも要求は高く、範囲は広くおよぶ。
最近ことにコンプライアンスへの取り組みが重要視されている
近年、コンプライアンス問題は増えているように感じられ、ハラスメント、情報漏洩、データ改ざんなど問題は多岐にわたる。その理由はいくつか考えられる。
まず、社会もルールもどんどん変わっている。社会のグローバル化に伴ってルールも世界標準に則り、これまでは良しとされた「慣行」が通用しなくなっている。にも関わらず、それに気づかず、変化についていけない経営層や従業員が少なからずいて、誤った意思決定や指示をしがちだ。さらに、旧来型の成果主義によるプレッシャーも、問題行動をして(あるいは、させて)しまう背景にあるだろう。 また、新しい技術は業務推進を各段に進化させている一方、セキュリティリスクを生み、データ流出などの新たな問題をはらんでいる。しかもSNSなど個人の情報発信は容易で、これまでのような、会社が主体となるリスクマネジメントだけでは対応しきれない。 そして、企業やその役職員の行動によるステークホルダーの利益を侵害するリスク、あるいは、金融機関に求められる社会的役割に反するリスクとして位置づけられるコンダクトリスクなど、社会変化に応じて企業がカバーすべき不祥事の範囲が変化し、かつ不明確であるため、何を、どこまで対応すべきか、判断に迷っている企業が少なくない。
さらに、自社だけでなく、原料や部品の仕入れ先から販売に至るサプライチェーン全体がCSRやESGを重視した姿勢をもつことが求められている。CSR(Corporate Social Responsibility)とは企業が果たすべき社会的責任のことだが、それを踏まえて、環境保護(Environment)、社会貢献(Society)、企業統治(Governance)をあわせた「ESG」に取り組む企業へ投資が集まり、さらにSDGsへの取り組みも企業に期待される。
海外では「現代奴隷法」など、企業のサプライチェーンの労働状況を見る動きがはじまっているが、過酷な労働環境、低賃金、長時間労働は身近な問題でもあるのだ。ローカルの法律だけでなく、グローバルベースでの法律が適用される時代になっており、商慣行を含む「これまではよかった」という行為もコンプライアンス問題として位置づけられ、企業が多大な賠償金を払うことになる。
このように、企業に要求されるコンプライアンスへの取り組みは多岐にわたるうえ、意識の欠如による不正行為はもれなく顕在化し、あっという間に拡散し、不正を許さない風潮は強まるばかりである。
コンプライアンス違反が起きるとどうなるか
コンプラ違反した場合の対応
実務的にはどのような影響があるだろうか。
不正が発覚した場合、証拠保全、調査チームの組成、情報の統制、当局への報告、公表内容と時期の検討といった、すみやかな初動対応が必要になる。その後、第三者委員会を設置し、本格的な調査を実施する。被害者がいる場合、その対応も迅速に行わなければならない。不正調査では、発覚した事実の裏づけにとどまらず、それ以外の不正がないかを調べること(件外調査)が重要となる。不正を犯した者は罪を過小に申告したり、余罪を隠すことがあるので、発覚した以外の不正の有無を網羅的に調べる必要がある。そのために関係者に対するインタビュー調査やデータ解析、デジタルフォレンジックなど短期間で徹底的に行う必要がある。また、株主や取引先などステークホルダーに対しては記者会見、プレスリリース、第三者委員会報告書などを通じて情報をこまめに発信し、不安感や不信感の解消に努めなければならない。そして結果報告はメディアだけでなく、社員に対しても透明性を貫き、隠さず公表すべきである。万一、あらたな不正が発覚したとなれば、企業の信頼は失墜する。二度と不正が発生しないよう再発防止策を講じることも重要だ。このようにコンプラ違反が起こった場合の対応は膨大かつ多岐にわたり、しかも迅速に行わなければならず、未然に防ぐことが何よりも大切となってくる。
コンプラ違反の影響、その事例
コンプライアンス違反が起こった場合の影響について、事例からみていこう。
たとえば、ハラスメント問題で裁判まで行った場合、和解金は1000万円以上かかることもあった。過重労働問題では1991年、株式会社電通で長時間労働が原因とされる自殺事件が起き、社員に対する安全配慮義務を怠ったとして損害賠償請求を起こされ、遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで結審した。情報漏洩問題では、2019年8月から2020年4月の間に情報漏えいの被害を受けた524件の平均総コスト(被害額)は4億円だったようだ(日本IBM「情報漏えいのコストに関するレポート」より)。
上記では直接的な損失を挙げたが、これらの問題において「企業イメージ毀損」による影響は計り知れない。
なぜコンプライアンス違反は起きてしまうのか
違反が起きる背景・原因
では、なぜコンプライアンス違反は起きてしまうのだろうか。アメリカの犯罪学者クレッシーが提唱した「不正のトライアングル」によれば、「動機・機会・正当化」の3つがそろうと人は不正行為を実行してしまう、としている。「動機」は、たとえば社員が金銭的に困っているなど、不正行為を起こす主観的な事情。「機会」は、たとえば金銭の取り扱いに監視の目が及ばない職場など、不正行為の実行を可能にする客観的な環境。「正当化」は、たとえば横領する者の「一時的に借りるだけ」という思いなど、不正を積極的に是認する主観的な事情が、それぞれにあたる。企業としては、人は誰でも「不正のトライアングル」が完成すると不正行為を実行してしまう弱い存在であると考えるべきである。いわば「性弱説」に立ち、不正防止に取り組むことが大切だ。不正行為の実行を抑止し、組織の健全な状態に保つ「職場環境」がコンプライアンス推進にはとても重要なことになる。昨今、明らかになる企業による大規模な不正は、「業績達成の過度なプレッシャー」と「コンプライアンス意識の欠如」を背景に、「会社のため」という正当化のうえで組織ぐるみで行われる傾向が見られる。つまり組織風土が社員を不正行為に追い込んだといえる。
内部通報窓口を設けている企業は多いが…
2022年6月には、改正公益通報者保護法が施行された。匿名性の担保や通報者保護など、さまざまな要件が盛り込まれている。企業も電話やインターネットによる相談窓口など、さまざまな対応を行っているが、せっかくの制度があっても会社への信頼や心理的安全性が保たれない限り十分には機能しない。
「相談したら不利益な扱いを受ける心配がある」「会社の制度なので信頼できない」「相談窓口を使うことを好ましくないと考える雰囲気がある」といった不安や思い込みを払拭するのは、なかなか難しいのが実情だからだ。
上司が行為者になっていることも少なからずあり、従業員がリスクを会社に報告できるラインを整えるためにも、内部通報制度の運用はリスクマネジメント上、重要な役割を担うと考えられる。一方で、内部通報制度でなくても、上司などへの職制報告でリスクが抽出できることが健全だ。
関連記事|より有効に活用される内部通報制度(ホットライン)にするためには?企業が抱える問題点や課題、改善方法とは?
今、企業に求められるのは、コンプライアンスを徹底した持続可能な経営である。それを可能とするためには、リスクをひとつずつ潰すモグラたたきのような施策でなく、リスクを生み出す土壌となっている組織風土から変える必要がある。
コンプラ意識の向上と健全な組織風土を醸成するために
自社の現状を知る
まずはコンプライアンス意識に対する自社の現状を知る必要がある。それには従業員の意識・行動の状況を知るとともに、現場のリスク情報を直接取得するアンケートが有効だ。アンケートによる意識調査では、相談窓口には上がってこない具体的な意見を集めることができる。
コンプライアンス・アンケートで不正を発見するには、従業員が不利益を被ることなく安心して回答できる環境にあることが重要だ。そのためには会社から独立した外部の組織を調査の主体とし、回答者の匿名性を担保し、そのことを周知する必要がある。
関連記事|匿名と記名どっちが正解?!社員の本音を引き出す、社内アンケート調査実施のコツ
調査結果を有効に活用する
意識調査の結果を活用して、研修に活かすケースも増えている。従業員の意識に働きかけ、自発的にコンプライアンス推進活動に取り組んでもらうことが重要だ。
関連記事|コンプライアンス研修実施のポイントを解説!調査から見えてきた研修効果を上げる方法
まとめ
コンプライアンスを司る部門は、車にたとえれば、問題があってから発動するブレーキではなく、先を照らすヘッドライトとして機能すべきである。将来的なリスクを照らし出し、先を見越して先手を打てれば、現場を担う部門はアクセルを踏み込むことができる。コンプライアンス部門がヘッドライトとなって社内に潜むリスクを照らし出し、問題を早期発見して、コンプライアンス違反を未然に防ぎたい。そのためにもコンプライアンス意識調査は非常に有効である。
日経リサーチによる意識調査では、優先度の高い課題を明らかにし、リスクの高い部署をあぶり出すことが可能だ。また、数あるグローバル調査などから得たベンチマークとの比較もできる。このように調査結果を有効に活用し、具体的な施策につなげるためにも、プッシュ型のヘルプラインのひとつとしてコンプライアンス意識調査を活用してほしい。
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