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期待高まるAI、それでも8割の医療機関は未導入。理由は「費用対効果わからない」

医療情報システム導入状況調査〈後編〉

image-png-Jun-14-2023-06-02-36-0387-AM日経リサーチは2023年3月、日経BPが運営する「日経メディカルonline」の登録者を対象に医療機関の「医療情報システム導入状況」について調査した。コラム前編でご紹介した通り、医師が「今後期待する技術」として挙げるのは画像診断を中心とする人工知能、AIの活用だ(ワードクラウドのグラフィック参照)。では、AIはすでに医療現場で普及し始めたのか。調査では導入実績や予定についても聞いた。

 

各医療機関で実際に購買に関与している回答者2,031人を対象に、AI医療機器の導入状況などを聞いた。選択肢には、厚生労働省の「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」がAI開発を進めるべき重点領域とした6項目(「ゲノム医療」「画像診断支援」「診断・治療支援」「医薬品開発」「介護・認知症」「手術支援」)を設定している。結果は、医療現場にAI医療機器はほとんど普及していない。79.4%が「いずれも導入していない」とし、導入済みで最も回答が多かった「画像診断支援」の回答率は10%。「ゲノム医療」は7.5%、「診断・治療支援」7.1%だった。

大学・国公立病院では「画像診断」「ゲノム」で普及

施設別にみると、やはり先端医療に携わる大学病院と国公立・公立病院の導入率が高い。特に大学病院が高く、ゲノム医療では24.4%、AI画像診断では24.1%が導入済みと答えた。一方、医院・診療所は94.3%が「いずれも導入していない」。
なぜ導入をしないのか――。最も多い回答は「費用対効果がわからない」(52.8%)で、続く「費用対効果が良くない」(24.8%)を大きく引き離した。「利用シーンのイメージがわかない」(22.7%)との声も目立った。導入しても医療の質の向上と病院経営の双方にどのような効果があるのか、想像もできないというのが現状。もう少し踏み込んで言及すれば、産業界が医療界に対しAIの導入効果を定量的に示し、説明できていないともいえる。

今後についても「導入予定はない」との回答が75.7%.に達したが、その中でも「画像診断支援」(12.1%)「診断・治療支援」(8.5%)「手術支援」(6.6%)「ゲノム医療」(6.4%)と、少数ながら導入を検討している医療機関があった。

現場の具体的ニーズを把握する必要性

「費用対効果がわからない」状態であっても導入を検討する背景には、AI導入に踏み切らなければ今後の技術革新の波に乗り遅れるとの危機感があるのではないだろうか。膨大なデータから必要な情報を瞬時に抜き出したり、解析したりできるAIは、患者と向き合いながら膨大なデータを取り扱う医療現場との親和性が高い。そのことを現場の医療従事者は感覚的に「確信」しているのだろう。
今後は「費用対効果」が明示しやすい領域から徐々に普及していくのだろう。「画像診断支援」の領域では、CTやMRIが普及し、膨大な数の読影診断を迅速かつ正確にこなすために必要な投資だ。患者に最適な治療を提案できる手段として需要が拡大しているゲノム医療には、大量のデータを迅速かつ的確に解析できるAIが必要不可欠だ。

調査の自由回答では20~30代の医師から「チャットGPTの活用」を期待する声もあった。対話型AIが日常生活に浸透し始める中で、多忙を極める医療従事者に「AIを今すぐにでも仕事に使いたい」という思いが高まっている。医療でのAI利活用は慎重に進めるべき点も確かにあるが、産業界はもっと積極的に医療界と議論を深め、ニーズに合致したシステムを企画提案していくべき時期なのだと思う。
医療とAIは親和性が高いにも関わらず、普及が進んでいないことがわかった今回の調査。その理由と課題を、産業界と医療界の双方が、今一度深く検証すべきだと感じた。

 

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