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記名か、匿名か。社員の本音を引き出す従業員コンプライアンス意識調査のコツ

従業員に向けたコンプライアンス意識調査は、社内環境の把握や改善に有効な手法のひとつである。従業員の本音を引き出し、施策につながるアンケート結果を得るには、調査の目的設定や社内への協力要請など、さまざまなポイントやコツがある。従業員向けのコンプライアンス意識調査をはじめて行う方や、やり方に困っている方に向けて、調査実施のコツをレポートする。

コンプライアンス意識調査とは

企業は、あらゆるステークホルダーの期待に応えなければならない。なかでも従業員は、言うまでもなく企業にとって大切な存在だ。では、従業員が会社に期待する従業員コンプライアンスとはなにか。
職場に差別やハラスメントがなく肉体的にも心理的にも安全な環境であること、労働時間が適正であること、自分も職場も不正をせず、あるいは不正を強要されずに円滑に業務を推進していること、問題があった時は上司や相談窓口などに安心して相談できることなどが、主に考えられる。

これらがきちんと守られているかを測るのが従業員に向けたコンプライアンス意識調査だ。社内でコンプライアンスに対する意識がしっかりと醸成されていれば、その組織風土は健全といえる。企業にとってコンプライアンス意識調査は、組織の健全性の把握やリスクを早期に発見し、問題解決に向けて早期に対応するための仕組みである。

調査を実施する流れとコツ

「コンプライアンス意識が従業員に浸透しているか知りたい」「内部通報制度をもっと活用されるようにしたい」「コロナ禍での働き方改革で潜むリスクを知りたい」など、調査目的は企業や組織によってさまざまだ。そのため、目的を明確にしたうえで設問を設定する必要がある。さまざまな観点で聞きたくなってしまうだろうが、長くても15分ほどで答えられる範囲にとどめたい。
 
意識調査は定期的に行われることが多い。実施時期は、日本経済団体連合会が定める「企業倫理月間」の10月か11月、あるいは年度が変わって少し落ち着いた6月に行われることが多い。秋の実施では調査結果の報告が翌年1月か2月になり、次年度に施策を立案するのにちょうどよいタイミングとなる。あるいは6月に行って調査結果を10月のコンプラ月間に生かすなど、実施時期は施策のタイミングから逆算して設定すると良い。 

また、対象企業は、国内本社→国内グループ会社→グローバル拠点と徐々に拡大をしていくことが多い。本来、ガバナンスの観点では正規・非正規や国内・外を問わず関連するグループ全体で働く人を調査対象とすべきだが、そこは柔軟に目的や予算に応じて設定すると良い。

コーポレートガバナンスコードでグローバルでのガバナンスが求められているので、幅広い対象が必要となる。ただし、コンプライアンス部門の担当者は人数が限られており、最初は対応できる範囲から行っていくことが肝要だ。グローバル対応については、海外拠点を巻き込んだ対応が重要となるため、普段からの体制構築も重要だろう。

本音を得られる設問を設定しよう

従業員の本音を引き出すには、回答のしやすさが肝となる。「正しく行動できているか」と個人について言及されると回答しにくくなってしまうので、「職場でハラスメントを見聞きしたことはあるか」など、あくまで職場のこととして問うことで回答はしやすくなる。また、考え込まず、直感的に答えられるよう、選択肢は少なく、かつ一連の流れで答えられるよう設問順を考慮することが大切だ。
 
先ほど、調査目的を明確にすることが重要と述べたが、範囲が絞られず設問があまりに多いと、回答から離脱してしまう恐れがあるからだ。とはいえ、少なすぎると課題の抽出ができないため、最低でも30問は設けたい。また、最後に自由回答欄を設けることで、選択肢からは得られない回答を得ることができる。

記名か、匿名か。それが問題だ

アンケート調査の手法として、記名式か匿名式か、どちらを選ぶべきだろう。それぞれのメリットとデメリットから考えたい。
 
まず記名式アンケートのメリットは、丁寧な回答が得られる点にある。そしてクリティカルな問題がある場合にすぐ対応でき、回答者もそれを求めていると考えられる。しかし、ネガティブな回答や自由回答の記載がしづらく、本音を得るのは、なかなか難しい。

一方、匿名式は、誰が回答したのか実施者も把握することはできないが、それが最大のメリットといえる。回答する側にとっては発言しやすいので、回答が集まりやすく、何より本音を引き出しやすい。ただし、問題があったとしても匿名ゆえ問題箇所の特定ができず、シビアな内容が記載されていても確認がしづらく、初動が遅れてしまう懸念もある。

通常、企業はメインライン(職制報告)、サブライン(通報窓口)、内部監査、内部統制システムなど、さまざまな機能をもってリスクマネジメントを行っているが、アンケート調査は従業員の本音を引き出し、初期段階でリスクが小さいうちに問題を抽出するためでもある。そのためにはある程度、問題の特定箇所を絞り込む工夫が必要だ。回答者の匿名性を担保しつつ問題のある箇所を絞り込むことは、属性に関する質問の工夫で可能となる。

社内実施か、外部委託か。それも問題だ

次にアンケート調査は、社内で実施すべきか、それとも外部委託すべきだろうか。

社内で実施する場合のメリットは、費用をかけずに手軽にできる点にある。しかし、社内で終始するゆえに本音は出づらく、そもそも客観的な設問設計ができていない可能性がある。また、集計作業に時間がかかり、そうでなくても忙しい法務・コンプライアンスの担当者が本来の業務時間を失ってしまう。また、定期的に実施したとしても蓄積されるのは社内データだけなので、世間と比べて自社がどのレベルの水準であるのか、どこまで態勢を構築すればよいのか指針を持ちづらいことも懸念される。

一方、外部機関は社内にしがらみを持たないので、回答する従業員が安心して本音を記載できる。また、外部のデータと自社の集計結果を比較しながら問題を抽出することができる。調査を外部委託するデメリットとすれば、当然ながら費用がかかることが挙げられる。しかし、経営層に対して客観的なデータ・分析結果を報告できるので説得力があり、施策に反映しやすい。何より調査分析にかかる手間がかからず、担当部署が本来の業務を推進できることは大きなメリットといえよう。

外部委託する場合は、実績が豊富で、さまざまな知見を有する企業をパートナーにすることが大事である。また、できれば偏らないフラットな世間相場のデータを保有する外部機関が望ましい。さらにコンプライアンスはセンシティブな内容を回答してもらうため、データの管理を安全に行えることや、グローバルで実施をする場合は、質問の翻訳品質も考慮に入れる必要がある。

調査結果は開示して活用しよう

意識調査の結果は、問題抽出とともに健全な組織風土にしていくために、昨今では従業員と共有することが多くなっている。従業員はさまざまな社内調査の協力に辟易としていることが多いが、結果のフィードバックがあることで、健全な組織風土の形成に自らが関わっている実感が湧き、前向きに風土改善に取り組む意向が高くなる。このように社内全体の理解を得ながら取り組みの指針を考え、さらに職場での運用の意識を向上させていくことが大事である。

まとめ

健全な組織風土を醸成するために、まずは従業員の声を聞かなければならない。そして、そのために行う意識調査では、従業員の本音を引き出すことが大事である。さらに調査の結果を踏まえて施策化に取り組むなど、次につなげていくことが必要だ。

日経リサーチでは、優先して取り組むべき課題やリスクの高い部署を明確にするなど、調査結果をわかりやすくまとめ、活用しやすい形で報告している。これによって課題が部署ごとに「自分ごと化」され、解決に向けて取り組みやすくなるように、施策化までサポートしている。従業員向けのコンプライアンス意識調査を実施しようと思う方、やり方に困っている方は、ぜひ相談してほしい。

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