Report

BtoB子会社のブランド戦略 ―親会社×子会社のブランドシナジーを最大化するには?

 昨今、BtoB企業にとってもブランディングは単なるイメージ戦略ではなく、新規顧客獲得と価格競争からの脱却を実現する重要な経営戦略となっている。これまでのBtoB事業では、営業担当者を主軸にした長期の安定した関係性の中でビジネスが行われていた。ただ最近では、買い手側の要求水準が高く、また情報収集も容易になったことから、他社への乗り換えというリスクが発生するようになった。このことは同時に新規顧客の獲得のチャンスが増えたということでもあり、自社の情報発信などを通じて見込み顧客となるリードを獲得し、そのリードから新規顧客を獲得していくことが定石となってきている。

 

 そのような状況において、ブランディングの強化は新規顧客獲得を容易にし、価格競争以外の競争軸を作れる手段として注目を集めている。

 

 特に最近注目されているのは、子会社企業がどのようにブランディングをしていけばよいのかということだ。競争環境の激化により、大手企業の子会社であっても、今までと同じことをしていては成長を続けることが難しくなっており、親会社のブランド資産をいかに活用し、独自の競争優位性を築くかが成長のカギとなる。

 

 本稿では、子会社と親会社のブランドの相互影響の観点から、効果的なブランド戦略を考察する。

子会社と親会社のブランド連想の相互影響

 「親会社のブランドイメージは子会社にも影響を与える」。-このことは多くの人が直感的には感じていることだろう。例えば弊社は、日本経済新聞社グループの調査会社で「日経リサーチ」という社名だが、弊社のことを知らない人でも、「日経」ブランドから連想される「信頼性」や「BtoB領域での知見」が連想されるのではないだろうか。

 

 ただ、この影響がなぜ起きるかということを理論的に理解している人は少ないだろう。この「なぜ」ということを知ることが、効果的なブランディングを考えるヒントになる。

 

 親子の相互の影響は、「ブランド連想」という概念から説明できる。ブランド連想とは、消費者や取引先が記憶の中に持つ、特定のブランドに対して抱く情報やイメージ、感情などの要素すべてのことである。例えば「日経」というブランド名であれば、新聞や電子版などのメディア媒体や、信頼、専門性などのイメージ、もしくは経済やビジネスなどの概念との結びつきもあるだろう。

 

親会社と子会社のブランド連想は、社名やロゴ、価値観など共通のブランド要素を通じて形成される。このため、親会社のブランドイメージは自然に子会社にも波及する。例えば、「NTTグループ」は、日本の通信インフラを長年支えてきた実績と安定性のイメージを強みに、広範なネットワーク関連事業を子会社でも展開している。これは逆の影響もある。例えば固定電話より携帯電話が普及した現代においては、「NTT」というブランドに「NTTドコモ」というブランドが与える影響は非常に大きいものだろう。

 

つまり、親子企業のブランドへの相互の影響は、ブランド連想の観点から説明できる。ブランド連想の観点から見れば、ブランドを表す名前などを共有している企業では、相互でブランドイメージに影響を与えているのだ。

 

子会社の視点から見る効果的なブランディング

 では、この相互影響をどのようにブランディングに活かせば良いだろうか。ここでは子会社の視点から、2つのアプローチをご紹介する。

1.親会社のイメージを積極的に活用したブランディング

 一つ目は、親会社のブランドイメージを利用するパターンだ。このパターンでは、親会社が持つポジティブなイメージを利用して、子会社も同様のイメージを強化するようなビジネスを展開することができる。

 例えば、親会社に「信頼」や「技術力が高い」といった強みがあれば、それを押し出したブランディングを行ったり、「特定の業界での強み」といったイメージがあればその業界をターゲットにビジネスを行うといったようなことだ。

 

 すでに親会社で構築されたイメージへの相乗りは、低コストかつ迅速に一定のブランド認知と信用を得ることが期待できる。

2.親会社のイメージとの差異を意識し、自社の強みを際立たせるブランディング

 もう一つは、親会社と異なるブランドイメージをつけるパターンだ。親会社とは異なるターゲット市場や提供価値を持つ子会社の場合、親のイメージに加えて、独自のイメージを確立することが重要だ。とはいっても、完全に相反するイメージをつけたり、親会社が持つイメージを消したりすることは非常に困難で、労力のわりに効果が薄い。

 そこで目指すべきは、親の持つ基盤となるイメージを維持しつつ、子会社のターゲット市場においてのみ、独自のポジショニングを築く戦略が現実的だ。例えば、親会社と同じ「高品質」のイメージを保ちつつ、子会社のターゲット市場では「独創的」なイメージも強い、というような状態を目指す。

 子会社は、親会社と同じビジネスを行っているわけではない。であれば、理想とするブランドイメージもまったく同一にはならないと考えられる。親会社の持つイメージを利用しつつも、独自の強いイメージをつけていくことが最も良いブランド戦略といえる。

 ただ、このやり方には時間とコストを要するため、まずは1つ目の方法で進めつつ、徐々に独自のイメージを構築していくのが良いだろう。

BtoB市場におけるブランディング実践のポイント

 本稿の最後に、BtoB市場におけるブランディングの実践のポイントについても紹介したい。

 最も重要なのは、これらのブランド連想が 「ターゲット顧客の頭の中」で構築されるという点だ。

 

 ブランディングは、ターゲットの頭の中に強固なブランド連想を構築する活動といってもよいだろう。ブランド戦略を策定する上で、その前提情報として、ターゲット市場において親会社と子会社が現状どのようなブランド連想を持たれているのかを正確に把握することが不可欠である。その上で、「今後どのような連想を獲得したいのか」という目標を立てたうえで、具体的な施策を実施していく必要があるだろう。

 では、「誰」の頭の中を調べればよいのだろうか。BtoBのビジネスでは、ターゲット企業の中でもごく一部の限られた関与者が商品・サービスの導入に関わることが多い。導入や選定を主導するようなビジネスリーダーが抱いているブランドイメージを知ることは、単に商品サービスを利用するだけの立場の人のブランドイメージを知るよりも重要なことは言うまでもない。

 つまり、BtoB市場においては、商品・サービスの導入・選定を主導するようなビジネスリーダーに対するブランディングが重要で、そのためには、彼らの思考や意向を理解することが、効果的なブランディングの鍵となる。

おわりに

 本コラムでは、親会社と子会社のブランド連想がどのように相互に影響を与えるかを探り、それに基づく効果的なブランド戦略を考察した。

 

 子会社のBtoBブランディングにおいては、親会社とのシナジーを最大限に活用することが成功への近道である。また、ターゲット顧客となるビジネスリーダーが抱いているブランドイメージを測定し、戦略を強化していくことも欠かせない。

 

 競争が激化するVUCAの時代、BtoB企業であってもブランディング強化は避けられない経営課題となっている。今ある資産としての親会社のブランドイメージを最大限利用した効率的で効果的なブランディングが今後さらに重要になっていくだろう。

 

この記事を書いた人

コラム執筆者_鈴木真生
BtoBマーケティングリサーチャー/リサーチコンサルタント
鈴木 真生

日経電子版などを購読している日経ID会員を対象とした調査の企画、実施を担当するリサーチャー。専門分野はBtoBブランドとBtoBニーズ、世論調査。
自社の新サービス立ち上げなど、BtoBマーケティングの実践をしつつ、真に活用できるBtoBマーケティングのための調査を研究中。  

 

 

 

 日経リサーチでは、日経電子版購読者などの日経ID保有者に調査を行う日経IDリサーチサービスを提供しています。日経IDリサーチサービスなら、BtoB市場においては、商品・サービスの導入・選定を主導するようなビジネスリーダーに対する調査が可能です。

 

 また、多数のBtoB市場向けの調査、ブランド調査の実績があり、これまでの知見をもとにした真に活用できる調査を提供しています。BtoB市場に対する調査・マーケティングでお困りの際にはぜひお問い合わせください。

ビジネスターゲットに聞く
BtoBブランド評価

サービスの詳細や活用事例のご紹介をしています。
BtoB向けのブランド調査をご検討の方はご一読ください。
資料ダウンロード
ico_information

課題からお役立ち情報を探す

調査・データ分析に役立つ資料を
ご覧いただけます。

ico_contact

調査の相談・お問い合わせ

調査手法の内容や、
調査・データ分析のお悩みまで気軽に
お問い合わせください。

ico_mail_black

メルマガ登録

企業のリサーチ、データ分析に役立つ情報を
お届けします。