BtoBブランド調査の精度を高める「調査設計」の秘訣
BtoB企業において、ブランド調査は競争優位性を確立し、事業成長を支援する上で不可欠な要素です。しかし、「調査結果が肌感覚と異なる」「結果をうまく活用しきれない」「信頼できる結果なのか分からない」といった課題に直面している担当者は少なくありません。
これらの課題の多くは、調査設計の精度が低いことに起因しています。本コラムでは、BtoBブランド調査の精度を高め、事業戦略に資する結果を得るために重要な3つのポイントについて解説します。
BtoBブランド調査における一般的な課題
BtoB事業を展開する企業が、企業や事業、製品・サービスの認知度、ブランドイメージを把握するための調査において、担当者が抱える課題は多岐にわたります。具体的には、以下のような点が挙げられます。
- 調査結果と実感の乖離
せっかく調査を実施しても、得られた結果が担当者の持つ「肌感覚」や「現場の実感」と異なり、信頼性が疑問視される。例えば、自社がCMをほとんど行っていないにもかかわらず、多くの回答者が「CMで会社を知った」と回答しているなど。 - 調査結果の活用不足
調査は行ったものの、その結果が戦略や施策に十分に活かされず、「眠ったまま」になってしまう。 - 結果の信頼性の懸念
上司や関係者から「この結果は信頼できるのか」と問われた際に、根拠を持って説明できない、あるいは説得力のある回答ができない。 - 調査設計における知識不足
そもそも、自社の課題に対してどのような調査設計が適切なのかわからない、適した調査の実施自体が難しいと考えている。
これらの課題の原因は、往々にして「精度が高い」とは言えない調査設計です。精度が高い調査とは、「本当に聞きたい人」の意見が正しく反映されている調査です。誰に、何を、どのように聞くべきかという「調査設計」が適切でないと、的外れな結果しか得られず、活用へと繋がりません。
調査精度を高める3つの重要ポイント
BtoBブランド調査の精度を向上させるためには、以下の3つのポイントを詳細に検討し、調査設計に落とし込むことが重要です。
調査対象者(Who)を詳細に定義する
1つ目のポイントは誰に調査するのか詳細に決めることです。図1に示すように、ブランドにかかわるステークホルダーは多様です。その対象ごとに、ブランディングの目的は異なります。ブランディングの目的を明確にすることが、調査対象者を詳細に定義する第一歩です。
図1.ブランディングにかかわる代表的ステークホルダー
- 優秀な人材の獲得が目的なら、求職者や就業者。
- 投資拡大が目的なら、投資家。
- 収益拡大が目的なら、市場や顧客、つまりビジネスターゲット。
BtoB企業がブランディングをするときの目的は競争力強化が多いと考えています。競争力強化・収益拡大のためにはビジネスターゲットへの調査が必要ですが、この「ビジネスターゲット」を詳細に考えることが重要です。BtoBにおける市場や顧客は、BtoCと比較して非常に限定的なケースが多いです。例えば、ビールのブランド調査であれば20歳以上の数千万人が対象となり得ますが、経理システムに関する調査であれば、対象は企業のなかでも経理担当者や選定・決済に関わる数名に絞られます。さらに、業種、企業規模などで企業が絞られ、職種、役職、担当業務、具体的な購買プロセスにおける関与度合い(選定関与者、決済者など)によって、そのターゲットはさらに細分化されます。ビジネスターゲットを対象とする場合には、「役職者」「経営層」「特定の業務の関与者」「選定の関与者」「選定の決済者」といったように、誰にブランドを理解してほしいのかを細かく考える必要があります。
例えば、あるB2B部品メーカーのケースでは、「ビジネスパーソン500人」という漠然とした対象者条件を設定しており、広告など上辺のイメージしか把握できず、取引先としての実態が掴めませんでした。ですが、調査設計を見直し、対象を「ターゲット業種で売上高5000億円以上の企業において、部品調達・選定に関与している人200人」に絞り込んだ結果、肌感覚に近い業界内部のイメージを把握できるようになりました。
重要なのは、「誰に」聞くかを徹底的に深掘りし、関係ない意見を排除して、本当に聞くべき人の意見を確実に収集することです。
質と量のバランスを意識し、コストをかける場所を決める
2つ目のポイントは質と量のバランスを意識してコストをかける場所を決めることです。調査の精度を上げるために、単に回収数(量)を増やせば良いという考え方は誤りです。アンケート調査には、「標本誤差(全員に聞かないことによる誤差)」と「カバレッジ誤差(聞きたい人に聞けないことによる誤差)」の2種類の誤差が存在します。
回収数を増やして減らせる誤差は標本誤差のみのため、カバレッジ誤差にも留意する必要があります。カバレッジ誤差を考慮しないまま回収数を増やしても的外れなデータが増えることになります。このため、BtoB調査では特に「量より質」が重要になります。限られたビジネスターゲットに響く情報を得るためには、数よりも対象者の質を重視する必要があるのです。経理システムに関する調査で「主婦1万人」に聞くよりも、「経理担当者100人」に聞く方がはるかに有効な結果を得られることは明白です。
例えば、システム開発企業B社のケースでは、「情報システム部門2000人」を対象とした調査で、競合との認知度やDXの現状理解度が肌感覚と異なり、回答の精度が低いという問題がありました。これに対し、対象者を「DX推進関与者400人」に絞り込み、高品質なビジネスパーソンが多く含まれる日経IDリサーチモニターを活用することで、回収数を減らしたものの回答の質が向上し、活用できる調査結果を得ることができました。
質に注力すると、量にも注力するのは予算の問題で難しくなるでしょう。無限の予算があれば理想的な対象者全員に聞くことも可能ですが、現実にはそうはいきません。そのため、回収数と対象条件、パネルの質といった要素のどこにコストをかけるかを、目的と照らし合わせて慎重に判断する必要があります。
知りたいこと(What)を詳細に決める
3つ目のポイントは何を知るのか詳細に決めることです。これは以下の3つのステップで考えることが有効です。
KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)と連動させ、最終的にどのような状態を目指すのかを明確にします。例えば、「指名買いを受ける」「検討候補に入る」「ビジネスモデル変革をアピールする」など、具体的な目標を設定し、その達成を検証できる指標を盛り込みます。
最終目標へ一足飛びに進むことは稀です。例えば、指名買いに至るまでには、「名前の認知」「事業内容の認知」「ポジティブなイメージの定着」といった段階的なマイルストーンが存在します。これらの途中経過を測れる指標を調査に含めることで、進捗を把握し、戦略の調整に役立てることができます。
調査結果が単なる現状把握で終わらないように、具体的な施策の指針となるような情報も併せて収集します。例えば、ターゲットとなるキーパーソンがどのような情報を求めているか、どのような情報源を利用しているかなどを把握することで、「これから何をすべきか」という戦略・戦術の立案に直結する洞察が得られます。
これらの要素を詳細に洗い出し、調査設計に落とし込むことで、戦略や戦術に役立つ、より深い示唆が得られる調査となります。
お気軽にご相談ください
「日経IDリサーチサービス」では、日経電子版読者などの日経ID会員に調査できます。日経ID会員は、情報感度が高く、企業活動の意思決定にかかわるようなビジネスパーソンが多くいます。
当社は長年のBtoB領域における調査実績と経験から得た豊富な知見と実績をもとに、単にデータを提供するだけでなく、「活用できる調査フレーム」を提案し、お客様が自信を持って意思決定できるようご支援しています。
おわりに
BtoBブランド調査の成功は、漠然とした「肌感覚とのズレ」を解消し、確実なデータに基づいた意思決定を可能にすることにかかっています。そのためには、「誰に(対象者)」、「質と量のバランス」、「何を(質問内容)」という3つのポイントを徹底的に考え抜いた調査設計が不可欠です。この設計の精度を高めることで、得られた調査結果は単なる数字の羅列ではなく、企業の成長戦略を加速させる強力な羅針盤となるでしょう。
質問のご回答
この記事を書いた人

- BtoBマーケティングリサーチャー
- 鈴木 真生
「日経IDリサーチサービス」を主に担当するほか、BtoBビジネスのマーケティング課題解決をリサーチの視点から幅広く支援する。専門分野はBtoBブランディング、BtoBの新規事業やニーズ、業務課題などのマーケティングリサーチ、世論調査。社内のリサーチャー教育も担当する。専門統計調査士、Advanced Marketer、日本マーケティング学会員。
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