働きやすく、風通しの良い職場では、コンプライアンス違反は起きにくいのか?~3万人のベンチマークデータから見る、組織風土との関連性~
日経リサーチは昨年12月、全国のビジネスパーソンを対象にコンプライアンス意識に関する自主調査を実施した。今回は民間企業に勤める国内の正社員約3万人から得られたベンチマークデータを紹介する。
はじめに
今回のポイントは2つ
① 風通しの良い職場は働きやすく、コンプライアンス違反は起きにくい
② コンプライアンス違反の通報が上がってこないリスクを避ける
風通しの良い職場では、コンプライアンスの理解に加え、経営理念やビジョン、行動指針も浸透し、それらを意識して行動する傾向があるため、働きやすく、コンプライアンス違反は起きにくい。風通しの良くない職場では、②のようにコンプライアンス違反が発生した際に通報制度が機能しないなど、問題が顕在化しないリスクが発生する。
いずれにせよ、上司・同僚に言うべきことが言える風通しの良い職場では、その効果が劇的にアップする。風通しの良い組織風土を醸成することが、コンプライアンス活動の推進には重要である。このように結論づけた背景を、データを基に説明する。
ベンチマーク調査の概要
今回のベンチマークデータは、職場における身近なテーマについて、様々な設問を様々な切り口で収集している。
その例として、「あなたは業務を遂行する上で他に手段がなければ、少しぐらいコンプライアンスに反する行動をしてもやむを得ないと思うか?」という設問の回答を、残業時間別に切り取ってみた。
この設問はネガティブな聞き方をしている質問文のため、「そう思わない」と答える方がポジティブ、「そう思う」と答える方がネガティブな回答になる。調査の結果、月平均100時間以上残業する人の中には、「とてもそう思う」と答えた人がなんと11%もいた。
働きやすく、風通しの良い職場とは
では、働きやすく、風通しの良い職場とは何か、調査結果から見ていこう。
厚生労働省は、企業における雇用管理の項目ごとの実施率で、以下の項目が高いと「正社員が働きやすいと感じる」としている。効果が高い順は以下の通り。
①能力・成果等に見合った昇進や賃金アップ
②有給休暇の取得促進
③職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化
④人事評価に関する公平性・納得性の向上
ただし、①は、そう簡単に変更・決定できるものではない。②~④を通じた風通しの良い職場づくりにより、それぞれを満たし、従業員が働きやすいと感じることが重要だと考える。
そこで、ここからは②~④を踏まえ、風通しの良い職場がコンプライアンスに与える影響を確認していく。
職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化
職場の風通しと直接関係するのが【③職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化】である。
今回の調査では、「言うべきことが言える風通しの良い職場である」という設問に対し、対象者全体で「とてもそう思う」と「ややそう思う」を足した44.2%、約1万3000人を「風通しの良い職場で働く層」として、他のデータを見ていく。
有給休暇の取得推進
【②有給休暇の取得促進】に関しては、「職場には休暇を取得しにくい雰囲気がある」という設問に対し、対象者全体では、「全くそう思わない」と「あまりそう思わない」を足した53.2%が「休暇取得しやすい」と回答しているが、右側のグラフを見ると、風通しの良い職場で働く層は全体より16.3ポイント高く、69.5%が休暇取得しやすいと回答している。
このことから、風通しの良い職場で働く層の方が、有給休暇の取得が促進されている傾向にあると考えられる。
人事評価に関する公平性・納得性
【④人事評価に関する公平性・納得性】の向上に関して、「職場では各自が公平に機会を与えられ、評価をされている」という設問に対し、全体では、「とてもそう思う」と「ややそう思う」を足した35.2%がポジティブな回答をしている。ただ、風通しの良い職場で働く層は、それより26ポイント高い61.2%がよりポジティブな回答をしている。
このことから、こちらも風通しの良い職場の方が、人事評価に関する公平性・納得性があるという傾向を示していると考えられる。
働きやすく、風通しの良い職場とコンプライアンス違反の関連性
働きやすく、風通しの良い職場と全体とで、コンプライアンス違反に関わるいくつかのベンチマークデータを比較した。
「自分の職場はコンプライアンスに関わる問題が起こらない体質である」に対しては、風通しの良い職場の方が「そう思う」というポジティブな回答割合が全体より24ポイント高い。
「職場はコンプライアンスより業績の向上を優先する傾向があると思う」は、反転質問で、濃い青色部分の「そう思わない」というネガティブな回答が、風通しの良い職場の方が全体より9.5ポイント高い。
いずれもスコアに大きな差があり、風通しの良い職場はコンプライアンスに関わる問題が起こりにくく、業績向上よりもコンプライアンスを優先する傾向であることが分かる。
会社方針に共感している層としていない層を比較すると、調査結果のほとんどの項目について、共感している方がポジティブな評価となった。
規定の理解、理念・ビジョンを意識した行動
次に、風通しの良い職場にいる回答者の理解度・意識と全体とのデータ差を見てみる。
「あなたは勤め先のコンプライアンスに関わる規程をどの程度理解しているか」は、風通しの良い職場の「そう思う」というポジティブな回答割合が全体より9.9ポイント高い。
「あなたは勤め先の経営理念・ビジョン・行動指針を意識して行動していると思うか」も、風通しの良い職場はポジティブな回答が19ポイント高い。
このことから、風通しの良い職場の回答者は、勤め先のコンプライアンスに関わる規程を理解し、経営理念やビジョンなどを意識して行動している傾向であることが分かる。
パワハラ・セクハラの有無
風通しの良い職場と全体とで、パワハラ・セクハラの有無に関するデータ差を見ていく。
上のグラフは「職場でパワハラが行われているのを見た・聞いたことがある」、下は「職場でセクハラが行われているのを見た・聞いたことがある」という設問に対する回答である。上・下とも反転質問で、濃い青色部分の「そう思わない」というネガティブな回答割合が、風通しの良い職場の方が上は12ポイント、下も11.5ポイント全体より高い。
風通しの良い職場はパワハラ・セクハラの発生可能性が少ない傾向であることが分かる。
また、青い枠線で囲った「どちらともいえない」の割合が風通しの良い職場はどちらも少ないことも特徴である。しっかりと状況を理解し、判断できているものと思われる。
コンプライアンス違反防止に必要な施策
風通しの良い職場は全体と比べ、コンプライアンス違反が発生しにくいことが分かった。
では、そのような職場で効果のある施策とは何か。職場でコンプライアンス違反防止に効果があると思う施策のデータ差をグラフにした。
効果が大きいのは、集合研修、eラーニング、ワークショップ、コンプライアンス意識調査、経営層からのメッセージ発信、内部通報窓口などである。青枠で囲った「特にない」が全体よりかなり少ないのも、風通しの良い職場の特徴だ。
効果が大きい施策を適切に実施し、コンプライアンス違反防止に努める必要がある。
相談・通報をためらうリスク
せっかくコンプライアンス違反防止に効果がある施策を打っても、違反が発生した時に通報が上がってこないリスクもある。そこで、相談・通報窓口の利用をためらうリスクについてのデータを紹介する。
「もしあなたがコンプライアンス上問題になりそうだと感じた時、勤め先のコンプライアンスに関する相談・通報窓口の利用をためらうとしたら、どのような理由があると思うか」という設問で、風通しの良い職場は「利用をためらうことはない」が3割を超え、その他ほとんどの理由は全体より回答割合が低くなっている。
コンプライアンス活動の土台には、風通しのよい組織風土が重要であることが分かる。
まとめ
改めて、今回の重要なポイントは2つ。
①風通しの良い職場は働きやすく、コンプライアンス違反は起きにくい
②違反が発生してしまった時に備え、通報が上がってこないリスクを避ける
コンプライアンス違反に関しては何の対策も実施していない会社はないだろうが、組織風土が悪ければ、求めるような効果が出ない可能性もある。
コンプライアンス活動の推進には、風通しの良い組織風土が重要となる。
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