顧客に選ばれる「自社の強み」の見つけ方
「機能には自信があるのに、なぜか競合に負けてしまう」「価格競争に巻き込まれてしまう」。その悩みは、社内で信じられている「強み」と、顧客が実際に求めているポイントにズレが生じているからかもしれません。
競争の激しいBtoB市場で勝ち残るためには、独りよがりのアピールを脱し、顧客にとって価値ある「真の強み」を見つけ出す必要があります。
本コラムでは、ターゲットの声から「選ばれる理由」を科学的に発掘するための、具体的な調査活用術を解説します。
BtoBだからこそ重要な差別化の基本
BtoBの商品・サービスは、BtoC(対消費者)と比較して合理的に選ばれるという大きな特徴があります。選定プロセスには複数人が関与したり、選定者と決裁者が異なったりすることが多いため、「なんとなく良い」という曖昧な理由では意思決定ができません。
この合理的な選定プロセスのなかで、競合他社と比べて明確な差がなければ、企業は価格競争に陥るか、「よくわからないから知っているA社にしよう」と、知名度が高い企業が選ばれることになります。
そのような状況を避け、競合に対して優位に営業・マーケティングを行うために差別化は非常に重要になります。
差別化に失敗する3つの落とし穴
差別化は非常に重要ですが、簡単にできるものではありません。差別化がうまくいかない典型的な失敗例として以下の3点が挙げられます。
- 魅力的ではない差 <例:過剰な高機能>
顧客が本当に求めている価値でない場合、その「差」は魅力的ではないと判断されます。 - 違いの判らない差 <例:サポートが充実>
競合他社も同様のことを主張している場合、微小な差しかない場合など、顧客に違いが伝わらないため「差」がないと判断されます。 - 誰も知らない差 <例:実は弊社も○○が強いです>
本来は強みとなるポイントであっても、ターゲットに認識されていなければ、差別化としての意味を持ちません。
この失敗例のように、「我々は○○である」と企業が主張するだけでは、差別化ができたとは言えません。最も重要なのは、ターゲットや顧客が「御社の商品はここが競合と比べて良い」と思ってくれることです。
これらの観点から、差別化は次のように定義することができます。
競合と比較して明確に異なる魅力的な価値を生み出し、
それがターゲット顧客に独自の魅力として認識されるように伝えていくこと
差別化を成功させる2ステップ
差別化は以下の2つのステップで行います。

ここでいう「価値」は、競合と比較して明確に異なり、かつターゲットにとって魅力的である必要があります。そして、その価値が「競合と違って魅力的」であるかどうかを判断するのは、差別化をしたい企業側ではなくターゲット顧客です。
したがって、ターゲットの声を抜きにして差別化戦略を推進することはできず、その声を具体的に得る手段として調査が不可欠となります。
では、そのためにどのような調査をしていけばいいのか、その点について具体例で説明していきます。
差別化を実現する4つの調査活用術
続いて、日経ID会員を対象に実施した「オフィスで使う資材の調達に関する自主調査」の結果から、差別化を実現するための4つの具体的な調査活用方法をご紹介します。
①重視点と強みで魅力的な差別化ポイントを見出す

ターゲット顧客が発注先選定時に何を重視しているか(重視点)と、自社や競合他社がその点でどのように評価されているか(印象・評価)を比較し、魅力的な差別化ポイントを特定します。
重視点と、各社の評価を重ね合わせることで、顧客が重視する項目の中で、自社が競合に対して優位性を持っている、または強化すべきポイントを特定できます。
②強みで競合との差を視覚的に見出す

自社と競合の印象・評価をコレスポンデンス分析により2次元マップ上にプロットすることで、 イメージの違いを視覚的に把握します。
資材調達サービスを例にとると、大塚商会が「他社との連携力」や「保守・サポート体制」に近い位置にあるのに対し、アスクルは「信頼性」に近いなど、各社のイメージの特徴づけを把握できます。
この分析は、自社が目指す差別化ポイントが、ターゲットに認識されているかを検証するのに役立ちます。
③ブランド連想の純粋想起で強みの定着を測る
自由回答形式で企業名やサービス名から思いつくことを尋ねる純粋想起質問は、顧客の頭の中に強く定着しているイメージを確認するのに有効です。

日経リサーチの自主調査では、MonotaRO(以降、モノタロウ)は「工具」「現場」といった現場向け商材のイメージが、アスクルは「事務用品」の他、「早い」「明日」「来る」といった配送スピードに関する連想が上位に現れました。大塚商会は「OA」「IT」「総合商社」といった、システムや法人サービスを提供する立ち位置として認識されていることが示されました。
これにより、自社が狙う差別化ポイントがターゲットに強く定着しているかを、選択肢にできないほど細かい視点から確認することができます。
④差別化ポイントを意識した社名純粋想起をKPIに
特定のシーン・文脈を想定した質問に対し、企業名・サービス名を自由回答で挙げてもらいます。これにより、差別化したいポイントが、顧客の購買行動につながるきっかけとして定着しているかを確認します。
これは、CEP(カテゴリーエントリーポイント)の考え方に基づいています。
企業の担当者が特定の課題や状況に直面したときに、そのソリューションカテゴリーを思い出すきっかけとなる文脈のこと。「どんな時にそのカテゴリを思い出すか」を表す。 多くの重要なCEPで思い出されるほど、購買機会が増える。

「オフィスで使う資材の購入先」と比べ「急ぎ必要なオフィスで使う資材の購入先」というシーンを想定した場合というシーンを想定した場合、アスクル(+5pt)やAmazon(+8pt)の想起率が上昇しました。これは、両社が「急ぎで欲しい」というCEPにおいて強く想起されていることを示します。

差別化戦略においては、大きなカテゴリーでトップを目指すのではなく、サブカテゴリーでトップを目指すことが必要です。アスクルの「明日ほしい」やモノタロウの「現場で今すぐ必要」のように、どのサブカテゴリーでトップを目指し、思い出してもらうかという視点も、差別化ポイントを強化するための検討軸となります。
重要なのは、競合他社も同じサービスを提供していても、ターゲットの頭の中で明確に差があると認識されていることです。実はアスクルだけでなく、たのめーるやモノタロウも即日発送など「急ぎ」をカバーする取り組みを行っています。にもかかわらず、「急ぎ」のシーンではアスクルの想起が上位になっています。
実態として差がなくても、ターゲットに認識させることができれば、差別化を達成しているともいえます。
差別化のための調査設計のポイント
差別化戦略のステップを効果的に進めるには、調査で得られたデータに基づいて価値を決定し、価値を生み出し、作り、強化し、その価値が伝わっているかを確認しつつ、あらゆる接点でアピールし続けることが重要です。
調査設計を行うにあたっては、以下の3要素を考慮する必要があります。
■ だれに
■ どんな項目を聞いて
■ どう分析する
「どんな項目を聞いて」、「どう分析するか」は、4つの調査活用術として、実際の自主調査結果を用いながら説明しました。
「だれに聞くか」については、単なる「ビジネスパーソン」ではなく、特定の業務に関わる業務関与者、職場で中心的な役割を果たす業務中心層、あるいは選定関与者など、誰の意見が最も重要なのかを詳細に定義する必要があります。

BtoB調査では、限られたターゲット層からの声が重要となるため、量よりも質が重視されます。1万人のビジネスパーソンよりも100人の関与者の声のほうが重要なはずです。
また、調査設計におけるもう一つのポイントとして、定期的な調査の重要性があります。差別化は長期的な取り組みであるため、市場や競合の変化に合わせて1年に1回程度の頻度で調査を実施し、自社の立ち位置を定点観測することが重要です。
おわりに
BtoB市場における競争は、最終的には「顧客の合理的な判断」によって勝者が決まります。
どれほど優れた技術や手厚いサポートを持っていても、それが顧客の意思決定プロセスの中で「他社とは違う明確な強み」として認識されていなければ、残念ながらその努力は報われません。
本コラムで解説した通り、差別化の成否を分けるのは、「企業が何を言いたいか」ではなく「顧客がどう受け取っているか」という一点に尽きます。調査データを活用することで、勘と経験をもとにした差別化を脱却し、差別化が成功しているのか、どのように進めていくかを客観的に確認・判断することができます。
また、差別化戦略は、一度策定して終わりではありません。市場環境は常に変化し、競合もまた動いています。だからこそ、今回ご紹介したような調査手法を用いて、「誰に(ターゲット選定)」「何を(聴取項目)」聞くかを明確にし、定期的に自社の立ち位置を観測し続けることが重要です。
実態としての「価値」を磨き上げると同時に、それが顧客の頭の中でどう描かれているかを常に客観視する。この地道なプロセスの繰り返しこそが、価格競争に巻き込まれず、「御社だから頼みたい」と指名される「自社の強み」を生み出す唯一の道なのです。
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「日経IDリサーチサービス」では、日経電子版読者などの日経ID会員に調査できます。日経ID会員は、情報感度が高く、企業活動の意思決定にかかわるようなビジネスパーソンが多くいます。
当社は長年のBtoB領域における調査実績と経験から得た豊富な知見と実績をもとに、単にデータを提供するだけでなく、「活用できる調査フレーム」を提案し、お客様が自信を持って意思決定できるようご支援しています。
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- サービスの概要、特徴
- アウトプット例/事例のご紹介
この記事を書いた人
- BtoBマーケティングリサーチャー
- 鈴木 真生
「日経IDリサーチサービス」を主に担当するほか、BtoBビジネスのマーケティング課題解決をリサーチの視点から幅広く支援する。専門分野はBtoBブランディング、BtoBの新規事業やニーズ、業務課題などのマーケティングリサーチ、世論調査。社内のリサーチャー教育も担当する。専門統計調査士、Marketing Specialist、日本マーケティング学会員。
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