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日経読者に聞く|新型コロナ5類移行後「生産性上がった」2割 -「コミュニケーションとりやすい」、「通勤時間増で負担」の声-

 新型コロナウイルスの5類移行後、経済の正常化が進むのに伴って、仕事の生産性や働き方はどう変わるのだろうか。日本経済新聞の読者を対象に実施した調査によると、「生産性が上がった」と答えたのは全体の23%で、「下がった」との回答(11%)を上回った。

 

 出社が増え、コミュニケーションがとりやすくなったと評価する声が多い一方で、通勤時間が負担になるとの指摘もあり、ワークライフバランスについては「悪化した」との回答が目立った。

 政府は2023年5月8日、新型コロナの感染症法上の扱いを季節性インフルエンザなどと同じ5類に変更、外出自粛などの制限がなくなり、感染対策は個人や事業者の判断に委ねられた。日経リサーチの調査は、その約1か月後の6月5~8日、日経電子版などの購読に必要な「日経ID」の所有者にオンラインで実施し、ビジネスパーソン850人から回答を得た。

 

 なお、出社・テレワークの状況や、オフィス街の人流データの結果とあわせた働き方の傾向については、7月29日付けの記事で詳しく分析している。

 

日経電子版記事:出社×在宅、5類後も4割弱併用 残業・飲み会は減少

1.5類移行後の生産性「変わらず」が66% 一般社員では「下がった」の比率高く

 

 新型コロナが5類に移行されてから、「あなたの仕事の生産性はどう変わったか」を聞いた質問では、「変わらない」との回答が66%と多数を占めた。5類移行後まもない時期の調査でもあり、影響を見極めている段階の回答者も多かったようだ。

 

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 生産性が「大きく上がった」との回答は3%、「やや上がった」は20%で、この合計が23%となった。一方で「大きく下がった」は2%、「やや下がった」は9%だった。

 回答者の役職別に、「経営者・役員クラス」「本部長・部長クラス」「課長クラス」「主任・係長クラス」「一般社員」「契約社員・派遣社員・その他」に分けて集計した。いずれの層でも生産性については「変わらない」が最も多く、60~70%台だった。

 生産性が「上がった」の比率が最も高かったのが本部長・部長クラスで32%だった。一方で、一般社員では「上がった」との回答が合計で13%と最も低く、「下がった」(合計18%)が優勢となった。主任・係長クラスでも「下がった」との回答は17%と、一般社員についで高い数字だった。 

2.生産性が上がった理由「意思疎通が円滑化」「部下に仕事を振りやすく」

 

 「生産性が上がった」理由を、回答者の自由回答から探ると、コミュニケーションの質の向上を挙げる人が多かった。「意思疎通が円滑化・効率化した」「対面での打ち合わせ、相談の場が増え、意思疎通や決定がスムーズになった」といった声が数多く見られた。こうした指摘は役職や職種にかかわらず、幅広い層から出ていた。

 サービス業の課長クラスの回答者は、「部下の状況がわかりやすく、仕事を振りやすくなった」と指摘した。目の前にいない部下に対しては上司も指示を出しにくい、といった声はコロナ禍のさなかでもしばしば聞かれた。出社の増加でそうした状況が改善しつつある。

 また社内の意思疎通の円滑化だけでなく、顧客との対面ミーティングが増えていることもビジネスには追い風になっており、生産性の向上にもつながっているようだ。

 

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 「家では緊張感が出ない」「職場の方が電子機器やデータが豊富」など、働く環境の改善を指摘する声も自由回答には目立った。在宅勤務、テレワークと生産性の関係を巡っては、コロナ禍が始まってから、様々な議論があった。業務を変革したり、イノベーションを起こして新しい商品やサービスを開発したりするには、テレワークだけでは限界があり、対面での議論が必要になるとの見方は専門家の間でも多い。自由回答においても出社によって「周囲との会話が増え、アイデアの増加につながる」と期待をする声があった。

 

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3.生産性が下がった理由「通勤時間の負担」「不必要なコミュニケーションが増加」 

 

 「生産性が下がった」と回答した人はどんな理由を挙げているのだろうか。予想通り多かったのが通勤時間の負担だった。「通勤によって作業時間が減少した」「時間の自由度が減った」などの回答が多く見られた。

 

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 一方で「不必要なコミュニケーションが増えた」「雑談が増え、集中する時間が減った」「『ちょっといいですか』が激増した」など、出社が増えたことに伴って、無駄と思える会話ややり取りが多くなったと訴える回答も見られた。仕事においては、「ちょっといいですか」から始まる雑談から新たな着想が生まれたりすることも多々あるが、こうした仕事の仕方を非効率ととらえる人も少なくない。一般社員、主任・係長クラスで「生産性が下がった」という回答の比率が高いのも、コミュニケーションのとらえ方の違いから来ている面があるようだ。

 

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 今回の調査では新型コロナの5類移行後の職場内コミュニケーションの変化についても聞いた。それによると、「変わらない」が最も多く68%、「大きく増えた」「やや増えた」の合計は28%となった。出張や飲み会などは着実に復活しているが、職場のコミュニケーションのあり方に様々な議論もあるなかで、コロナ禍前のように戻るかどうかはなお不透明だ。

 

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4.ワークライフバランス「悪化」が33%、出社に伴い業務量も増加か

 

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 5類移行後のワークライフバランスの変化については「大きく悪化した」「やや悪化した」の合計が全体で33%となり、比較的高い数値となった。「大きく改善した」「やや改善した」の合計の19%を10ポイント以上も上回った。

 

 在宅勤務が減り、通勤時間の増加、出社に伴う業務量の増加などが響いているとみられ、「出社頻度が増えた結果、残業も増えてきた」「出社頻度が高くなり、通勤時間に割かれ、自由な時間が少なくなった」といった声があがった。

 特に中間管理職層の課長クラスでは、ワークライフバランスが「やや悪化した」が39%と多数となった。管理職になればやるべきことも増え、ひとたび出社すれば何かと手をつける仕事が発生する。そのためか「不必要な在社時間が増えた」という回答もあった。「出社が原則義務づけられた」、「会食が増えた」と訴える人もいた。

 それ以外でも、「家事や子どもの送り迎えに支障が出ている」という回答もあった。在宅勤務だからこそ出来ていた用事が、出社の増加でできなくなることに戸惑う声も多かった。


 もっとも新型コロナが5類に移行してからも、在宅勤務がなくなったわけではなく、出社と在宅を併用するハイブリッド型勤務の人が多い。今回の調査でも週5日以上の出社は62%にとどまり、残りの4割近くがハイブリッド型の勤務だった。

 在宅勤務を今後どのくらいの頻度で実施し、その際にはどんな業務をやるのか。生産性への影響や働き手のワークライフバランスを見ながら、しばらく試行錯誤が続きそうだが、その判断がこれからの各社の競争力を左右するかもしれない。

 

調査概要

    「新型コロナ5類移行に関するアンケート」

実施日: 2023年6月5日~6月8日
対象者: 20歳以上のお勤めの方(日経ID会員)
回答者数: 850人
調査手法: インターネット調査

 

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