Report

BtoBマーケティングで勝率を高める「3つのカギ」 AIでは見えない本音のニーズを調査で掴む

本コラムでは、日経リサーチが開催したウェビナー「BtoBで勝率を高める3つのカギ  AIではつかめない本音のニーズを見つける調査活用術」の内容をもとに、いかにして顧客の「本音のニーズ」を捉え、その調査結果を実際のマーケティング戦略に落とし込んでいくのか、その具体的なユースケースとデータの読み解き方を紐解いていきます。

 

 

 

 はじめに:BtoBマーケティングの勝率はなぜ上がらないのか?

「自社の製品は素晴らしいはずなのに、コンペになるといつも価格競争に巻き込まれて負けてしまう」「顧客の反応は非常に良いのに、なぜか先方社内での検討が一向に進まない」——BtoBのマーケティングや営業活動において、このような課題に頭を抱えている担当者は決して少なくありません。
WebサイトをリニューアルしてCPA(顧客獲得単価)の改善を試みたり、ABテストを繰り返したりと、多くの企業が日々「施策の改善」に注力しています。しかし、BtoBマーケティングがうまくいかない根本的な原因は、実は「施策(手段)」が悪いからではないかもしれません。多くの場合、マーケティングの土台となる「前提」、すなわち「ターゲット理解」が大きくズレていることに起因しているのです。
たとえば、「もっと高度な機能を増やせば売れるはずだ」という仮説のもとに機能追加を繰り返しても、実際の顧客は「機能は今のままで十分だ。これ以上複雑にならないでほしい」と思っているかもしれません。このように前提が間違ったままでは、いくら施策を磨き上げても成果には結びつきません。

 

 「わかっているつもり」の危険性 〜 営業活動と生成AIのリサーチに潜む罠 

「ターゲット理解が重要だ」とお伝えすると、多くの営業部門やマーケティング部門の方からは「日々お客様と直接対話をしているから、顧客のことは十分に理解している」という声が返ってきます。確かに、日々の営業活動から得られる一次情報は極めて重要です。しかし、営業活動を通じて得られる情報だけに依存することには、大きなリスクが潜んでいます。

画像5

なぜなら、対面での商談や会話は「バイアスの宝庫」だからです。営業担当者を前にして、顧客が「あなたの会社の製品は絶対に買いません」と本音をぶつけてくることは稀です。大抵は「いい製品ですね」と気を使った返答をしつつ、ふんわりとお断りされるのが現実です。特にすでに取引関係がある場合、厳しい本音は一層引き出しにくくなります。また、営業担当者が直接接点を持てる顧客は、広大なターゲット市場の中の「ごく一部」に過ぎず、情報に偏りが生じてしまうことは避けられません。
では、最近トレンドとなっている「生成AI」を使って調べれば解決するでしょうか。AIを活用してターゲット市場を分析することは効率的ですが、これにも落とし穴があります。AIは入力するプロンプト(指示語)のニュアンスに強く影響を受けるためです。たとえば、「格安なシステムよりも、高品質なシステムにこそニーズがあると思うがどうか?」と問えば、AIは「とても妥当な見方です。高品質なシステムに明確なニーズがあります」と返してきます。逆に、「高品質なシステムよりも、格安なシステムにこそニーズがあると思うがどうか?」と問えば、「本質的な視点です。格安なシステムに強いニーズがあります」と、全く逆の回答を生成してしまうこともあります。
これはまさに、自分の仮説を肯定する情報ばかりが集まる「エコーチェンバー現象」であり、自らの仮説を裏切るような新たな発見や、耳の痛い真実を得ることは困難です。さらに、特定の地方自治体やニッチな業界の悩みなど、インターネット上に自発的な情報発信が少ない領域については、AIは情報を網羅的に拾い上げることができません。
だからこそ、営業活動やAIのリサーチに加えて、第三者である調査会社を通じた客観的な「マーケティングリサーチ」 を併用し、バイアスのない網羅的なデータを取得することが不可欠なのです。こうして得たデータをもとに、データドリブンなターゲット理解を深めることで、初めて「前提のズレ」を正すことが可能になります。

画像6 

 マーケティングプロセスを俯瞰する「3つのカギ」 

データドリブンに市場を理解するといっても、闇雲にアンケートをとれば良いわけではありません。BtoBのマーケティングや営業のプロセスを俯瞰し、重要なフェーズごとに適切なデータを取得する必要があります。
一般的なBtoBの購買プロセスは、「①日々の情報収集」→「②きっかけ・初期情報収集」→「③問い合わせ・比較検討」→「④稟議・承認」→「⑤発注」という流れを辿ります。この一連のプロセスの中で、勝率を飛躍的に高めるために押さえるべき中心的なフェーズが3つあります。それが本コラムのテーマである「3つのカギ」です。 

 

画像7  1.    トリガー:「②きっかけ・初期情報収集」のフェーズにおいて、ターゲットが検討を始める引き金となる事象です。

 2.    ギャップ:「③問い合わせ・比較検討」のフェーズにおいて、ターゲットの真のニーズと、製品の実態や競合との間に生じているズレのことです。

 3.    ボトルネック:「④稟議・承認」のフェーズにおいて、契約や導入を最終的に阻害するターゲット社内の壁のことです。

 

次章からは、この3つのカギとなるデータをどのように調査し、その結果を「単なる集計データ」として終わらせるのではなく、実際のマーケティング施策に直結する情報としてどう読み解いていくのかを詳しく解説します。

 

1.「トリガー」を読み解き、競合より先に接触する

〇 調査の目的と背景

BtoB営業において、「公正なコンペだと思って提案書を提出したが、実は最初から競合他社が有利な『当て馬』に過ぎなかった」という苦い経験はないでしょうか。これは、自社が「問い合わせ」の段階で初めて案件を知ったのに対し、競合他社は「検討が始まるきっかけ(トリガー)」の段階でいち早く顧客と接触し、自社に有利な要件をRFP(提案依頼書)に組み込ませていたために起こる現象です。勝率を上げるためには、顧客が検討を始める「トリガー」をあらかじめ調査で把握し、他社より先にアプローチする体制を作ることが重要です。

 

〇 データの取得 

「検討が始まるきっかけ」を直接聞くのが基本的な形です。

たとえば、「システムの設計・開発・保守」「DXコンサルティング」「経理系SaaS」という3つの商材について、「検討が始まるきっかけは何ですか」と聞いた結果が以下の図1です。システム開発であれば「既存システムが古くなった」、DXコンサルであれば「自社内の課題が無視できなくなった」「業界全体のトレンド」、経理系SaaSであれば「法改正・制度変更への対応」といった項目に高いスコアが表れます。

 

画像1-3

 

〇結果をどう読み解き、アクションに繋げるか

この結果から、商材によってきっかけに特徴あることがわかると思います。広く一般的なきっかけだけではなく、商材によって固有のきっかけがあるはずです。

まず重要なのは、自社の扱う商材で考えられるきっかけを盛り込んで調査を設計することです。ここでは、一般的な項目になっていますが、さらに具体的・詳細な聞き方にすることが必要です。

そのうえで分析の活用としては、以下の2つが主要なパターンです。

 1)トリガーを捉えて有利な営業活動に:検討が始まるその瞬間にアプローチできれば、自社に有利な条件を検討のポイントに盛り込んでもらうこともできるはずです。

 2)目につきやすい訴求の参考に:例えば「インボイス制度への対応はできていますか」のように、特定のきっかけに強く訴えかけるメッセージは効果的です。

 

また、発生したきっかけと、普段の情報源や部署などをクロス集計することで、その動機を持つターゲット像の属性やメディア接触を明らかにし、施策を最適化するといった活用も可能です。

 

2.「ギャップ」を読み解き、真の差別化ポイントを見出す

〇 調査の目的と背景

「自社の製品は機能も豊富で最高水準なのに、なぜか競合に負け続けている」というケースが起きることがあります。これは、顧客の「本音のニーズ」と自社が提供・アピールしている「強み」の間に大きなギャップが生じている典型例です。実は顧客は「多機能」を求めておらず、「必要最低限の機能で十分だから、トラブル時のサポートのレスポンスを早くしてほしい」と願っているかもしれません。このギャップに気づかずに高機能を訴求し続けても、戦う土俵が間違っているため勝つことはできません。

 

〇 データの取得

このギャップを可視化するために、同じ選択肢を用いて2つの質問を投げかけます。一つは「外注先を選定する際に、どのような点を重視しますか」、もう一つは「○○社や○○社の製品・サービスの強みは何だと思いますか」です。たとえば会計ソフトの調査では、ニーズとして「価格の妥当性」「保守・サポート体制」「信頼性」「機能・品質」「導入・活用支援」などが上位に挙がります。一方で、企業ごとの評価を見ると、C社は「価格」、D社は「信頼性」といったように強みが分かれます。

ここでも、トリガーと同様に商材によって重視点として挙がる項目が異なるはずです。自社の商材に合わせた項目を設定しましょう。

 

画像2-1

 

〇結果をどう読み解き、アクションに繋げるか

分析の活用としては、以下の3つが主要なパターンです。

 1)魅力的な差別化ポイントを見出す:ターゲットが重視している、他社が弱いなどの選定条件から魅力的な差別化を見出すことができます。

 2)差別化ポイントでどのように認識されているか調べる:差別化ポイントを設定した後は、そのポイントが強みとして認識されているかを確認します。ターゲット層にこの会社はこの部分が違うと思ってもらうことで初めて差別化が達成されたといえます。差別化の達成を定量的に評価しましょう。

 3)プロットを用いて視覚的に理解する:縦軸に「顧客の重視度」、横軸に「自社の評価」を取り、各項目をプロットします。



画像3-1

    • 右上(重視度・高 × 評価・高):顧客が強く求めており、かつ自社が高く評価されている項目。ここは自社の「コアな強み」として、引き続きプロモーションの主軸に据えるべき領域(現状維持・強化)です。
    • 右下(重視度・高 × 評価・低):ここが最も注目すべき「重点改善エリア」です。顧客は強く求めているのに、自社が全く評価されていない(あるいは認知されていない)ポイントです。もし「保守・サポート」や「導入支援」がここに来ており、かつ競合他社もこの領域で誰も突出した評価を得ていないのであれば、こここそが「競合を回避し、自社が独り勝ちできる差別化軸」になり得ます。

 

さらに一歩踏み込んだ分析として、自社の顧客満足度調査のデータと、この市場調査のギャップ分析を重ね合わせる方法もあります。市場全体が求めているものと、既存顧客が自社に満足しているポイントに乖離がないかを確認することもギャップを理解する良い分析の一つです。

 

3.「ボトルネック」を読み解き、クロージングを確実にする

〇 調査の目的と背景

トリガーを掴み、ギャップを埋める提案ができて、顧客の担当者からは「今の古いシステムは使いにくいので、御社のクラウドサービスにぜひ乗り換えたい」と好感触を得たとします。しかし、「来月検討します」「繁忙期が明けたら進めます」とずるずる延ばされ、一向に稟議が通らない。BtoBではよくある光景です。これは、担当者レベルでは納得していても、社内決裁を通すプロセスに潜む「ボトルネック(導入の障壁)」を解消できていないために起こります。

 

〇 データの取得

「社内の承認を得る上で、最も説明に苦労する・障壁となることは何ですか」などと質問します。経理系SaaSの例では、「費用対効果」「現状からの切り替えメリット」「現場スタッフへの定着・活用が進むか」「業務フロー変更による現場の反発」といった項目が上位に並びます。

例えば障壁となる人や部署について聴取したり 、契約後の導入活用の障壁を確認することも重要です。また、選択肢もこれまで同様に自社商材に合わせて選定しましょう。

 

画像4

 

〇結果をどう読み解き、アクションに繋げるか

分析の活用としては、以下が主要なパターンです。

 ・ボトルネック解消の付属サービスや訴求:ボトルネックがわかれば、あとは提案でそれを感じさせないという手当てが必要です。費用対効果を訴求する資料や、定着・活用の支援サービスを無料付帯するなど結果によって優先順位をつけて取り組みましょう。

 

現場の営業担当者であれば、「大体この辺りで顧客はつまずいているな」という肌感覚は持っているはずです。しかし、調査結果を読み解く最大の意義は、「客観的なデータで『量』を確認し、組織として対策の優先順位をつけること」にあります。

すべてのボトルネックに対して専用の資料やサポートを手作りするのは、膨大なコストがかかります。そこでデータを活用します。「なんとなく現場の定着が課題だと思う」という個人の意見ではなく、「調査結果によれば『費用対効果の説明』と『切り替えメリットの提示』が市場全体の最大の障壁である」という客観的な事実に基づき、社内のリソースを集中投下します。

 

 

 本音のニーズを引き出すための「調査パネル」の重要性

ここまで、「トリガー」「ギャップ」「ボトルネック」という3つの視点から、調査データをいかに読み解き、マーケティング・営業の成果に結びつけるかを見てきました。しかし、これらの成果のためには、大前提として「誰に調査をするか」が重要です。
BtoBの調査において、自社のターゲット層が全く含まれていない一般消費者にアンケートを取っても、意味のある結果は得られません。特に「トリガー」「ギャップ」「ボトルネック」のような重要項目は、選定導入の関与者レベルでなければ正確な回答は得られないでしょう。そんな重要なターゲットがいるような調査パネルへの調査こそが必要となります。
日経リサーチでは、「日経IDリサーチサービス」というビジネスパーソン向け調査サービスを提供しています。日経電子版登録者などの日経ID会員を対象とした調査サービスで、社内の重要業務に関与したり、自ら動いて新しいサービスを導入したりするようなビジネスの中心となるリーダー層を中心に調査をすることができるサービスです。
また、「自由回答」による具体シーンの深掘りについても、ビジネスへの関心度が高いモニターであればあるほど、単に「高かったから」といった短い回答ではなく、「上司から〇〇という課題を指摘され、その解決策として自発的に情報を探し始めた」といった、背景や文脈を伴う長文の回答が得られやすくなります。この「文字数の多さ」や「定性的な文脈の豊かさ」こそが、数字の集計だけでは見えない「顧客の本音」を浮き彫りにし、次なるマーケティング施策の強力なヒントとなります。

まとめ

BtoBビジネスにおける勝率低下の要因は、施策の巧拙だけではなく、「ターゲットへの理解不足(前提のズレ)」にもあります。営業の肌感覚やAIによる簡易なリサーチだけでは、どうしてもバイアスやエコーチェンバーに陥りがちです。
客観的な市場調査を通じて、
 1.    トリガーを把握し、競合より先に適切なチャネルでアプローチする
 2.    ギャップを可視化し、自社が本当に戦うべき差別化の軸を再定義する
 3.    ボトルネックをデータで定量化し、優先順位をつけて稟議の壁を壊すツールを用意する

 

調査結果を単なる「レポート」として棚にしまうのではなく、このような成果に結びつく活用の視点を持って読み解き、自社の営業・マーケティング戦略というアクションに変換していくこと。それこそが、BtoB事業を持続的に成長させ、勝率を劇的に高めるための最も確実なアプローチと言えるでしょう。

この記事を書いた人

鈴木真生さん_コラム
BtoBマーケティングリサーチャー
鈴木 真生

日経IDリサーチサービス」を主に担当するほか、BtoBビジネスのマーケティング課題解決をリサーチの視点から幅広く支援する。専門分野はBtoBブランディング、BtoBの新規事業やニーズ、業務課題などのマーケティングリサーチ、世論調査。社内のリサーチャー教育も担当する。専門統計調査士、Marketing Specialist、日本マーケティング学会員。

 



お気軽にご相談ください

「日経IDリサーチサービス」では、日経電子版読者などの日経ID会員に調査できます。日経ID会員は、情報感度が高く、企業活動の意思決定にかかわるようなビジネスパーソンが多くいます。


当社は長年のBtoB領域における調査実績と経験から得た豊富な知見と実績をもとに、単にデータを提供するだけでなく、「活用できる調査フレーム」を提案し、お客様が自信を持って意思決定できるようご支援しています。

日経IDリサーチサービス
資料ダウンロード

サービスの詳細や活用事例のご紹介をしています。
ビジネスパーソンを対象とした調査をご検討の方はご一読ください。
ダウンロードはこちら 
ico_information

課題からお役立ち情報を探す

調査・データ分析に役立つ資料を
ご覧いただけます。

ico_contact

調査の相談・お問い合わせ

調査手法の内容や、
調査・データ分析のお悩みまで気軽に
お問い合わせください。

ico_mail_black

メルマガ登録

企業のリサーチ、データ分析に役立つ情報を
お届けします。