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BtoBブランドの「認知の質」をどう設計するか ー社名変更からみる「認知の三階層」と社名戦略

近年、BtoB領域において大規模な社名変更やリブランディングを行う企業が増えています。これらの決断の背景には、既存のカテゴリーを超えた事業拡大や、グローバル市場でのプレゼンス向上といった経営上の強い意志があります。


しかし、マーケティングの視点で見ると、社名を変更することは、既存のブランド資産を一度リセットするリスクを抱えています。


本稿では、社名変更を行った3社のデータをもとに、BtoBブランドがいかに戦略的な意図を持って認知を形成していくべきかについて考察します。

 

 

 

 1. 顧客の検討リストに残るための「認知の3階層」

BtoBマーケティングにおいて、顧客がブランドを認識している状態は、以下の三つの階層に分けて考える必要があります。

  • 第一階層:社名認知(名前を聞いたことがある、ロゴを見たことがある)

     

  • 第二階層:カテゴリー認知(何をやっている会社か知っている)

     

  • 第三階層:専門性認知(何の専門家か、どんな強みがあるか知っている)

BtoBの購買場面において、購買は大きな投資となることが多く、確実な成果が求められます。その場合には、成果が出せる委託先という観点から、なんとなく名前を知っている大企業よりも、特定分野の専門家の中堅企業が選ばれることも多くあります。


多くの場合、BtoBの購買担当者が特定の課題を解決しようとする際、実際に検討リストに残りやすいのは、その課題に対して「第三階層の専門性認知」まで到達しているブランドです。単に名前を知っている、何をやっているか知っている企業よりも、自社課題にあった強みを持つ企業を知っていればそちらを選ぶのは必然です。

 

2. BtoBにおける社名変更の落とし穴

BtoBのブランドの多くは、既存のビジネスでの関係性やごく限られた範囲での情報発信からゆっくりと積み上げられてきたブランド資産によって形成されていることが多いことが特徴といえます。BtoCのビジネスと異なり、大規模な広告によって短期間に形成されていることは非常に少ないといえます。


そういった状況で社名変更があると、旧社名では接点があったが、直近で接点がない人にとっては、新社名が認知されていない(旧社名と結びつかない)という状態が発生します。また社名変更後に、仮に社名は知られていても、事業や専門性の認知まではたどり着けていないという事例も多く見られます。


以降では、2025年12月に日経IDリサーチサービスで実施した自主調査の結果をもとに、実際に社名変更をした企業の事例を取り上げながら、どのように社名変更後のブランディングを行っていくべきかを考えていきます。

 

3. 調査データから読み解く、社名変更後の「認知の現在地」

今回は、BIPROGY、ロジスティード、ニデックの3社の社名変更に関するデータ傾向を分析しました。社名変更の認知状況や、各社の社名戦略によって、 認知を定義する「三つの階層」に明確な差が出ていることがわかります。

調査概要
・調査時期:2025年12月
・回答者条件:有職者 のうち、課長クラス以上の役職の方
・調査方法:日経IDリサーチサービスで日経ID会員を対象にインターネット調査で実施
・回収数:1093人

ケース1:BIPROGY

「BIPROGY」は、2022年に「日本ユニシス」から変更になった社名です。


社名変更から調査実施時点で3年が経っているにもかかわらず、旧社名「日本ユニシス」の認知度が「よく知っている」「少しは知っている」合わせて57.5%であるのに対し、新社名「BIPROGY」は25.2%にとどまっています。

 

 [ 図1 ] 

図1-Apr-22-2026-04-24-07-7823-AM

 

 

図2は、社名変更を「知っていた」、「知らなかった」層ごとに、BIPROGYの事業をどう認知しているかを表したグラフです。社名変更を知っていた層のうち、BIPROGYが「システムの設計・開発・保守」を事業としていることを77.5%が正しく認識しており、第二階層のカテゴリー認知まで到達しています。しかし、社名変更を知らない層では、同項目が22.0%まで低下し、「わからない」が47.5%と約半数を占めています。

 

これは、社名変更の文脈を知る既存顧客には「進化」として伝わる一方で、未認知の新規層には「正体不明の壁」を作ってしまうリスクを示唆しています。

 

[ 図2 ]図2-3

 

 

図3は、企業に対するイメージ・評価を、社名変更の認知状況ごとに見たものです。社名変更を知っている層では、「信頼できる」37.8%、「優れた技術・ノウハウがある」22.1%、「専門領域に強い」29.7%といったイメージが高い評価を得ています。一方、変更を知らない層では「信頼できる」11.9%、「優れた技術・ノウハウがある」6.8%といったイメージが大きく落ち込んでおり、専門性についての評価が二極化している状況が見て取れます。

 

 [ 図3 ] 

図3-1

 

ケース2:ロジスティード

「ロジスティード」は、2023年に「日立物流」から変更になった社名です。

 

旧社名「日立物流」が「よく知っている」「少しは知っている」合わせて58.6%の認知を持つのに対し、新社名「ロジスティード」の認知は22.3%にとどまっています。しかし、社名の中に“ロジスティクス”というカテゴリーの響きを保持している点が、他の2社とは異なる特徴を生んでいます。

 

 [ 図4 ] 

図4-3

 

 

図5は、社名変更の認知状況ごとに見たロジスティードの事業認知のグラフです。注目すべきは、社名変更を知らない層であっても、56.7%が「物流」と正しく認識している点です。

 

BIPROGYでは社名変更を知らなかった層の「わからない」が5割近くに達していたのに対し、ロジスティードでは31.2%に抑えられています。社名そのものがカテゴリーを語ることで、第二階層のカテゴリー認知が維持されているといえます。

 

 [ 図5 ] 

図5-3

 

 

図6は、企業に対するイメージ・評価を社名変更の認知状況ごとに見たものです。社名変更を知っていた層では、「信頼できる」38.4%、「一流である」24.2%、「社会の変化に対応できる」16.2%と、信頼性や先進性のスコアが高くなっています。一方で、「専門領域に強い」はどちらの層でも20%台を維持しており、カテゴリーの解像度を守り、専門性への期待値を高めることに成功しています。

 

 [ 図6 ] 

図6-1

 

ケース3:ニデック

「ニデック」は、2023年に「日本電産」から変更になった社名です。下記図を見るとおり、ニデックは旧社名・新社名ともに極めて高い認知度を持っています。社名変更後の広告施策が目立っており、この効果が出ているといえます。

 

 [ 図7 ] 

図7-2

 

図8は、社名変更の認知状況ごとに見たニデックの事業認知のグラフです。 社名変更を知っている層は、「産業用・家電用モーター」という第二階のカテゴリー認知まで正確に把握していますが、社名変更を知らない層では「何をやっているか不明」という第一階層の社名認知で止まっているケースが多く見られます。

 

このことから、日本電産としては何をやっていたか知っているが、ニデックとしては、社名認知にとどまり、事業内容については必ずしも伝わっていないという点がデータから見えてきます。

 

 [ 図8 ] 

図8-2

 

 

図9は、第三階層の専門性認知について、同じく社名変更の認知状況ごとに見たものです。 特筆すべきは、知名度の高さから「信頼感」は一律で高いものの、「専門性への強さ」や「優れた技術」といった高度な評価は、社名変更の文脈を理解している層に限定されている点です。

 

[ 図9 ]  

図9-1

 

4. ブランディングの方向性を間違えないためには

ここまで、実際の調査データをもとに、社名変更後の各社の認知状況について確認しました。ここから得られる知見としては以下の2点です。


①    社名変更の認知を高められれば、旧社名のブランド資産を引き継げる

社名変更・リブランディングの一番の問題は、旧ブランドの資産をリセットしてしまうことです。意図的なリセットが必要な場合もありますが、多くの場合は「あの会社が、この名前に変わった」という紐付けを徹底することが、ブランディング効率の最大化のために必要になります。

 

②    社名にカテゴリを想起するワードが入っていれば、効率よく事業理解を高められる

社名に「ロジスティクス」や「コンサルティング」 といったカテゴリー名を入れる最大のメリットは、第二階層のカテゴリー認知までの到達スピードです。社名で”何屋”かが伝われば、初期のブランディング効率が最大化されます。しかし、それは同時に、事業領域が広がった際に、自らを縛る檻にもなり得ます。


一方で、ニデックやBIPROGYのようなカテゴリー想起に繋がらない社名は、将来の事業の器を広げるための「拡張性」への経営投資になりえます。しかしその代償として、第二階層のカテゴリー認知、三階層の専門性認知として、具体的な強みや専門性を自らの言葉で語り続けなければ、顧客の検討リストから漏れてしまうという課題を背負うことになります。

BtoBのブランディングには、長い時間がかかります。あらゆる接点で、専門性をアピールし続ける必要があります。社名変更やリブランディングを行った後、自社の認知がどの階層で止まっているのか。ターゲット顧客は、自社を「何の専門家」として認識しているのか。これらを正確に把握しないままブランディングを行うことは、方向性を大きく間違えるリスクがあります。


自社のブランドが今、顧客の脳内でどのフェーズにあるのかを客観的な数値で可視化すること。それこそが、無駄な投資を防ぎ、確実なブランド資産の蓄積へと繋げる第一歩となります。

ブランド認知調査設計
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ブランド認知調査設計ガイド

本コラムで触れた「認知の三階層」を、自社ブランドでどのように測定し、設計すべきか。具体的な調査手法をまとめたガイドブックを公開しています。

この記事を書いた人

鈴木真生さん_コラム
BtoBマーケティングリサーチャー
鈴木 真生

日経IDリサーチサービス」を主に担当するほか、BtoBビジネスのマーケティング課題解決をリサーチの視点から幅広く支援する。専門分野はBtoBブランディング、BtoBの新規事業やニーズ、業務課題などのマーケティングリサーチ、世論調査。社内のリサーチャー教育も担当する。専門統計調査士、Marketing Specialist、日本マーケティング学会員。

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