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【特別寄稿】独自商品の限界とネオバンクの台頭に見る金融業の未来

日経リサーチ・金融チームがお客さまに定期的にご案内しているコラムメールの100号目を記念し、特別に経営コンサルタントであり金融庁金融研究センター顧問もされている大庫直樹氏に寄稿をいただきました。

【寄稿】独自商品の限界とネオバンクの台頭に見る金融業の未来

 

ルートエフ株式会社 
代表取締役 大庫直樹

 

 金融商品・サービスはどこまで独自性を持つことができるか――経営コンサルタントとして、改革支援に携わるとき、常に頭をよぎる疑問である。

 

金利面以外での差別化が難しい金融商品

 

 特に個人分野で独自性を打ち出すのは難しい。たとえば、預金はどうだろうか。時に地元のプロスポーツチームが優勝した場合に金利が上がるような預金や、かつては抽選によって賞品が提供される預金もあった。しかし、そうしたおまけ要素があったとしても、抜本的な競争優位性とは結びつかない。そのため、預金商品の競争は金利競争へと進展する傾向がある。
 また、ローン商品でも事情は似ている。確かに住宅ローンでは3大疾病、8大疾病などと病気になったときの備えを充実させることで差別化を図ることもできる。しかし、すぐに追随されてしまう。審査基準の柔軟性(どこまで信用リスクをとれるか)や審査スピード、そしてここでも金利水準が差別化要素になってくる。
 昨今の潮流として、銀行アプリの使いやすさも大切な独自性ではあるだろう。しかし、抜本的に他行と差がつくようなUIやUXはなかなか実現できない。せいぜい三井住友銀行がOliveというキャッシュカード、クレジットカード、デビットカードとVポイントの複合商品を生み出し、独自の世界を顧客に見せ、健闘しているくらいではないだろうか。ただ、このようなケースは例外だろう。金融商品の差別化はそれほど簡単なことではない。

 

非金融パートナーの特徴を生かすネオバンク

 

 一方で、最近のネオバンクの台頭には目を見張るものがある。住信SBIネット銀行はJALやCCC、ヤマダデンキを皮切りに20社とネオバンクを展開し、2024年度の上期の決算では、業務粗利益の15%超を占めるほどの重要度まで到達している。また、楽天銀行もJR東日本向けにJRE BANKを立ち上げた。
 いずれのネオバンクもそれぞれの非金融パートナーの特徴をうまく活用したサービスが付加されている。たとえば、F NEOBANKはプロ野球の北海道日本ハムファイターズとのネオバンクである。ファイターズのファンクラブFAVのマイレージに取引内容が反映され、ファンクラブ限定商品や練習見学、サイン会などの限定イベントに参加しやすくなる。球場では専用入口があり、スムーズな入場が可能だ。ファンの心理をうまくくすぐる商品や機会を特典にして、差別化につなげている。

 

融合による価値創造が拓く金融フロンティア

 

 ネオバンクの台頭は、金融商品自体での独自性を作り出すことが困難であることの裏返しのようにも見える。金融と非金融の融合に新しい付加価値が生まれる余地がある。それを上手に具現化することによって独自の世界が創造されている。間違っても、非金融のパートナーが持つ顧客ベースを銀行が活用できると思うべきではない。膨大な顧客ベースを確保できても、マネタイズできないケースはいくらでもある。あくまでも金融と非金融が融合する意義は新しい価値創造の次元が一気に拡大することにある。 
 これからの金融業の在り方は、非金融との融合による価値創造によってフロンティアを開拓していくことにあるのではないだろうか。

 

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大庫直樹(おおご・なおき) 


1985年、東京⼤学理学部数学科卒、マッキンゼー・ アンド・カンパニー⼊社。銀⾏、ノンバンクなど様々な⾦融機関の経営改⾰を担当。GEを経て2008年に独⽴し、ルートエフ株式会社を設⽴、代表取締役に就任。2017年、ルートエフ・データム株式会社を設⽴、データサイエンス分野に進出し、代表取締役を兼務。⼤阪府・市特別参与、⾦融庁参与などを歴任し、現在は同志社⼤学⾮常勤講師、⾦融庁⾦融研究センター顧問、広島県特別参与、広島銀行顧問も務める。

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