患者視点から見たバイオシミラー普及のカギは?
バイオ医薬品は従来の医薬品では十分な治療を行うことの出来なかった病気への治療効果が期待されている。治療効果が高く、副作用も少なく、適用できる病気の範囲も広いという利点がある一方で、従来の医薬品(低分子医薬品)と比べて製造が難しく、価格は高い。ただし、従来の医薬品でいうところの後発医薬品に相当する薬剤が存在し、バイオ後続品(以下、バイオシミラー)と呼ばれている。バイオシミラーは先行バイオ医薬品と同等・同質の効果や安全性を有し、価格は原則として先行バイオ医薬品の70%に設定されている。乾癬、関節リウマチ、糖尿病などの疾患に対応しており、2021年12月には加齢黄斑変性の治療薬で初のバイオシミラーが発売となった。
21年9月の薬価調査によると、現在の後発医薬品の使用割合は79%で、厚労省はその数量シェアを23年度末までに全ての都道府県で80%以上とする目標を掲げている。一方、バイオシミラーの使用割合は後発医薬品と比べると低い傾向にあり、16年度で32.5%と、同時期の後発医薬品の約70%と比べると半分以下となっている。
日経リサーチは22年3月、バイオ医薬品による治療を受けている患者に対して現状の治療課題とバイオシミラーの認知や使用状況を明らかにするために調査を実施した。加齢黄斑変性、乾癬、関節リウマチ、糖尿病の治療中の患者各100名、計400名から回答を得た。グラフ中の4疾患合算値は本調査で測定した4疾患における全体値であり、実際のバイオシミラーの利用者全体値を表すものではない。(調査概要は文末に記載)
バイオ医薬品を使用している患者は金銭的な負担が課題となっている
各疾患で治療を継続するにあたり困っていることを複数選択で尋ねた。 いずれの疾患においても「金銭的な負担が大きい」ことが突出して高く、乾癬でこの傾向が強い。バイオ医薬品を使用し続ける中で、患者目線では経済的な負担が課題となっている様子が伺える。その他に、「注射をすることが不快」、「治療効果が実感できない」等を挙げる声もみられる。【グラフ1】
実際、金額的な負担が大きいと回答した患者では、月あたり1万円以上の窓口負担をしている割合が9割以上であり、負担が大きいと回答しなかった患者と大きな違いがある。【グラフ2】
【グラフ1】各疾患の患者が治療継続で困っていること(数値は%)
【グラフ2】金銭的な負担が大きいと回答した/回答しなかった患者のひと月当たりの医療費(数値は4疾患合算における%)
バイオ医薬品を使用している患者のバイオシミラーの認知度は3割弱
現在の使用者を含め、バイオシミラーを知っている患者は3割弱であり、認知度に課題がある。 疾患別にみると、加齢黄斑変性の患者の8割超が知らないと回答しており、今回調査した4疾患のうち、最も認知度が低い。また、「バイオシミラーを使っている」と回答した患者の割合が最も高かったのは関節リウマチで1割超、加齢黄斑変性では2%と疾患による認知や使用に違いがあることがわかる。【グラフ3】
【グラフ3】バイオシミラーの認知・使用状況(数値は%)
バイオシミラーの使用意向は5割強、金銭的な負担の軽減が訴求ポイント
バイオシミラーの特徴(先行バイオ医薬品と同等・同質の効果や安全性を示す、原則として特許が切れたバイオ医薬品の70%の薬価)を提示したうえで、使用意向を確認したところ、使用したいと回答した割合は5割強であった(「使用したい」「まあ使用したい」の合計)。【グラフ4】
【グラフ4】バイオシミラーの使用意向(数値は%)
使用したい理由を自由回答で確認したところ、ほとんどの患者が費用負担の軽減に期待することを挙げている。また、高額療養費制度を利用していない患者は使用意向が高く、金銭的な負担の軽減は患者にとって魅力的な特徴であるといえる。
疾患別にみると、加齢黄斑変性では他の疾患に比べてやや使用意向が高めで、さらにその中でも高額療養費を利用していない患者では7割弱の患者が使用したいと考えていた。加齢黄斑変性は他の疾患に比べてバイオ医薬品の薬価自体が高く、価格メリットが大きい。バイオシミラーのニーズが高い可能性がある。【グラフ5】
【グラフ5】高額療養費制度の利用有無別のバイオシミラー使用意向(数値は%)
一方でバイオシミラーの使用意向については、全体で「どちらともいえない」が4割弱を占めている。【グラフ4】バイオシミラーの認知度の低さも考慮すると、使用意向を判断するための理解がそもそも十分ではないのかもしれない。
バイオシミラーの情報源、使用のきっかけとして医師がキーパーソン
疾患に関する情報について、普段は約9割が医師から入手しており、メインの情報源となっている。【グラフ6】
バイオシミラーの情報源としても医師が最も高く(【グラフ7】)、使用の経緯においても医師の勧めが大半である。【グラフ8】
使用していない理由としても医師の勧めがないことが主な理由となっており(【グラフ9】)、バイオシミラーの認知から使用のプロセスに至るまで医師が軸となっていることがわかる。
他の情報入手経路としては、インターネットの疾患情報サイトもよく活用されている。【グラフ6・7】
【グラフ6】疾患についての普段の情報源(数値は%)
【グラフ7】疾患についての普段の情報源とバイオシミラーの情報源
(数値は4疾患合算における%)
【グラフ8】バイオシミラーの使用経緯(数値は4疾患合算における%)
【グラフ9】バイオシミラーを使用していない理由(数値は4疾患合算における%)
使用したいと思わない理由として医師からの勧めがないことや薬剤自体への懸念がみられる
バイオシミラーの自己負担額の例を示したうえで、使用意向がない患者にその理由を確認した。結果、医師が勧めないことが3割超と要因としては最も多い。また、薬剤自体への不安も3割弱が感じていた。金額差についてはメリットを感じないという意見も全体で2割みられる。【グラフ10】
医師からの勧めがあれば3割以上の患者は使用する可能性があるとみられ、医師から患者への働きかけが最も重要となりそうだ。
いずれの疾患でも主治医の勧めにより使用する可能性は向上するとみられるが、乾癬では医師の勧めに加えて、薬剤への不安や金額差にメリットを感じないことが高く、他の疾患との違いが確認できた。
【グラフ10】バイオシミラーを使用したいと思わなかった理由(数値は%)
まとめ バイオシミラーの使用は患者だけでなく、医師への働きかけも重要
以上の結果から、加齢黄斑変性、乾癬、関節リウマチ、糖尿病の患者がバイオ医薬品を使用した治療を継続していくためには、金銭的な負担が課題になっているという現状の一方、価格メリットを持つバイオシミラーについて知らない患者も多いことが明らかになった。また、バイオシミラーの認知から使用の過程において医師が重要な役割を果たしていることもわかった。
患者がバイオシミラーを認知する手段として、基本的には医師がカギになる。今回は患者調査であり、医師への調査は実施できていないが、医師のさらなる認知や理解向上が必要かもしれない。
バイオシミラーは、医療費の抑制に貢献するだけでなく、金銭的な理由でバイオ医薬品での治療を躊躇している患者に対して治療アクセスの改善が期待できる。今後、バイオシミラーをさらに普及させるためにも、患者側に対するアプローチのみならず、政府・製薬メーカー側から医師への働きかけや啓発活動(医療施設側の薬剤採用を含め)等を展開していくことも、欠かせない。
■調査概要
調査対象者と回答者数:下記の疾患でバイオ医薬品を使用中の患者
・加齢黄斑変性 :100名
・乾癬 :100名
・関節リウマチ :100名
・糖尿病 :100名
グラフ中の4疾患合算値は本調査で測定した4疾患における全体値であり、実際のバイオシミラーの利用者全体値を表すものではない。
実施期間 | 2022年3月7日~14日 |
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サンプリング | 弊社提携会社の登録モニター |
調査方法 | インターネット調査 |
■患者の属性情報
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