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サポート力、MR、製品力、各社で異なる強み~ 肺がん領域における製薬会社を医師が評価

製品情報、営業情報、医師のプロフィール情報、処方箋データ… 製薬業界ではDXの流れの中でデジタル化された様々な情報を戦略立案に活かしている。製薬会社と医師との間にある情報だけでも、採用された自社製品の治療の情報、患者のニーズ、副作用の情報など多岐にわたる。MRやMSが収集したそれらの情報は営業日報やコンタクト記録としてデータ化され、自社のWebサイトのアクセスログなどを含めデータ分析・解析に取り組む企業も増えている。

このようにデータの蓄積と分析が進む一方で自社だけでは分からないこともある。例えば、ドクターはどう行動したか、結果は分かるが、何を評価して行動したか、他社と比較して優位なのか、といった理由・要因・今後の意向は、MRやMSからの情報だけでは正確に分からない部分だ。このコラムでは、肺がん領域における製薬企業各社の評価をきいた独自調査結果を一部紹介する。今回の調査では免疫チェックポイント阻害薬の主な製造業者15社としたが、製品評価以外は製品を限定せずに肺がん領域における企業活動全体の評価をたずねている。

1.会社によって分かれる リアルorオンライン

 情報提供評価の一つとして直近3カ月の接点状況をたずねた。接点とは面談だけではなく、オンラインでの情報提供のほか、ドクターの能動的な接触も含む。図は今回の調査で対象とした15社のうち接点が多かった上位10社の状況である。タグリッソを持つアストラゼネカやテセントリクの中外製薬は接点が多かったことが分かる。

具体的に接点の内容と量を見ると表のとおりだった。各チャネルにおけるトップスコアを赤枠で示した。

対面によるMRからの情報提供ではアストラゼネカ、中外製薬が多いことが分かる。中外製薬はMR以外にもMSL(学術担当者)からの情報提供、セミナーでの接点が見られる。オンラインでのアプローチも各社で見られるが、ノバルティスファーマのMRはリアルとオンラインの両方を活用して接触している状況がうかがえる。各社が対面とオンライン、どちらの接点に注力しているかを比較すると、アプローチの違いがよく見える。総合的に接点量全体では中外製薬が最も多いが、活動全体の中での対面の比率はアストラゼネカがやや多いという結果になった。

2.肺がん治療の頼りになる「アストラゼネカ」「中外製薬」「MSD」

各社の接点状況を背景として、総合評価を見ていく。図は「肺がん治療薬のメーカーの中で、あなたの肺がん治療において、総合的に見て頼りになる企業のトップ5を教えてください」と尋ね、1位に上がった企業を示した。これはすべての薬物療法を含んだ評価である。トップはアストラゼネカ、続いて中外製薬、MSD、小野薬品工業、日本イーライリリー、ブリストル・マイヤーズ、ファイザーの順となった。 

3.「中外製薬」「アストラゼネカ」の高いNPS®

今回の調査ではもう一つの総合評価の指標としてNPS®聴取した。NPS®はネット・プロモーター・スコアの略で、顧客の推奨度・ロイヤリティを測る指標として普及している。今回の調査では「あなたの全体的な経験に基づいて、各製薬会社の肺がん領域における製品・活動・情報提供などを総合的に見て、どの程度推奨するか」と尋ねた。0~10点のスケールで、9点と10点を付けた医師を推奨者。0点~6点を批判者と位置づけ、推奨者の割合から批判者の割合を引いたスコアがNPS®となる。
実際の結果を表にまとめたが、中外製薬とアストラゼネカのスコアの高さが目立つ。8位のファイザーから下、9位以降のNPSはマイナスで、15社平均は5.6だった。当社は他業界でもNPSを測定しているが、このように高いNPSは製薬業界の特徴と言える。

4.最新情報、臨床試験、カンファレンス…各社で異なる評価ポイント

「頼りになる」上位3社の評価ポイントを図にした。各項目とも高い評価を受けているが、評価ポイントに各社の特徴がみられる。アストラゼネカは最新情報を他社よりも定期的にフォローし、医師自身も関心を持って担当者の話を聞いており、他社よりも優先して選択したいと評価された。MSDは臨床試験により多くの患者を登録しており、担当者の話も関心を持って聞いている。中外製薬は2社と比較してやや低い評価の項目が多いが、カンファレンス等には他社よりも多く参加して情報をインプットしている点が評価されている。

5.MRの評価が全般的に高い中外製薬

MRに対する評価項目の一部を図にした。「頼りになる」企業の2位だった中外製薬は、MRの評価はいずれも高かった。その高評価の中外製薬を、自身の治療に「必要なパートナー」「期待するスピード感」「先端治療の情報が豊富」といった項目ではアストラゼネカが上回る。MSDは「疾患に対する理解が深く、知識が豊富」で、「必要なパートナー」という評価は2社と同様に高いが、「ネガティブな情報も適切に提供」、「患者視点での提案」、「製品以外でのサポート」では評価が低かった。

6.高く評価される「キイトルーダ」

続いて製品評価を見ていく。今回は免疫チェックポイント阻害薬を取り上げ、総合的に判断してTOP1の製品を挙げてもらった。アストラゼネカの高い総合評価の理由の1つとなっていると思われるタグリッソの評価は未聴取となる。図では全体に加え、診療科別の結果を示しているが、特に呼吸器系でキイトルーダの高い評価が目立つ。

順位とともに理由も尋ねたが、診療ガイドラインの準拠、エビデンスの納得性、奏効率の高さが支持されている。一次治療での普及が進むオプジーボも腫瘍内科では支持が多く、キイトルーダと同様の理由に加え、再発までの期間延長が期待できるとして支持した医師もいた。中外製薬のテセントリクは奏効率の高さが支持され、なかには、臨床試験デザインの評価、投与のしやすさを挙げた医師もいた。

7.アストラゼネカ:MRはパートナー 強い推奨意向

 ここまでは総合評価、製品評価、情報提供評価、MR評価について各社の結果を確認した。ここからはその評価の差がどこにあるのか、総合評価で「頼りになる」企業として多く挙げられた、アストラゼネカ、中外製薬、MSDをさらに深掘りして分析していく。

今回は当社独自の分析ツール「KeyExplorer」で数値と自由回答などの文字の情報の全データを横断的に一気通貫で解析し、各社を頼りになる企業Top1に挙げた医師とそれ以外の医師を比較し特徴をあぶり出した。特徴量は3以上で「特徴が見られる」、 6以上は「特徴がある」、20以上は「かなり特徴的である」と解釈できる。

アストラゼネカをTOP1に選んだドクターの特徴を、特徴量の多い順にランキング化した。

上位11項目が9ポイント以上で、「特徴がある」項目が並び、MRを「治療において、必要なパートナー」と評価し、高い推奨意向が見られた。また、7位以下からは製品以外の対応を支持している様子も見て取れる。また、アストラゼネカをTOP1に選ぶドクターは、2位に中外製薬を挙げた。

8.中外製薬:スピード感のある対応

続いて中外製薬をTOP1に選んだ人を見てみよう。

こちらも高い推奨意向が見られるが、特徴としては「常に期待するスピード感で対応」「ネガティブな情報も適切に提供」などMRの対応力に対する評価が目立つ。また、アストラゼネカを「患者視点での提案が優れている」や「先端治療の情報が豊富」が「どちらとも言えない」と評価しており、同社に対して強い支持が見られないドクターが1位に中外製薬を挙げる傾向が見られた。

 

9.MSD:製品への信頼

 もう1社のMSDも同様に高い推奨意向が見られるが、先の2社とは異なり、製品(キイトルーダ)の評価が支持をけん引していると思われる項目が並んだ。

まとめ|評価が分かれるポイント

前編と後編のここまでで見てきた独自調査の結果からみえたアストラゼネカ、中外製薬、MSDの評価ポイントと課題を表にまとめた。

図11「頼りになる」と評価された3社には同様に評価が高い点もあったが、それぞれ異なる評価ポイントが見えてきた。
アストラゼネカは「治療のパートナー」として認知されており、疾患啓発など製品以外の活動や医師以外の医療従事者へのサポートも評価されている。課題として挙げるなら、患者視点での提案は今回の調査では中外製薬の評価の方が上回る傾向が見られたことだ。
その中外製薬は期待するスピード感でMRが対応していることや、疾患に対する理解や知識の豊富さも評価されている。課題としては、MRの評価が全体評価を左右する傾向にあることが今回の調査結果から分析できた。MSDはキイトルーダの評価=同社の評価になる傾向があり、製品以外の活動評価が見られず、NPS自体は決して高くない。

このように自社の顧客のニーズや特徴、他社と比べた自社の強み・弱みを把握し、各種戦略の立案や検証・改善に活かすことでドクターエンゲージメントを効率的に強化していける。MRやMSによるドクターによるヒアリングも重要な情報になるが、ドクターとの関係値が深いほどバイアスのかかった情報になる懸念もある。第三者による調査によって医師の率直な評価・意識を把握することや、市場や自社の状況の変換点では定量的なデータをふまえた判断が望ましいケースもある。ドクターエンゲージメントを他社との差別化、競争力強化につなげるには社内の保有データと外部評価データの両方を活用し、顧客の声を多角的に分析していくことが効果的である。

 

調査手法

インターネット調査

調査地域

日本国内

調査対象条件

専門領域:腫瘍内科、呼吸器内科、呼吸器外科

実績:NSCLC、SCLCの患者の管理に携わり、
治療方針の決定権限を持つ医師・関与する医師

回収数

307サンプル

内訳:腫瘍内科 69s、呼吸器内科 164s、呼吸器外科74s

対象者パネル

日経メディカルOnline登録者

調査実施期間

2022年 10月

 

※ネット・プロモーター®、NPS®、NPS Prism®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

ドクターの評価・意識調査にご関心がある方はお気軽にご相談ください。

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