コロナ5類移行へ 現場で働く医師たちの声は
2023.5.11
新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが、令和5年5月8日をもって5類感染症となった。今までは「2類相当」として入院勧告や外出自粛の要請が行われてきたが、「5類」となることでこれらが緩和され、季節性インフルエンザと同等に扱われることとなる。
日経リサーチは2023年3月に日経BPが運営する「日経メディカルOnline」の登録者に対して独自調査を実施。その中で新型コロナウイルス感染症を5類感染症に移行する方針を政府が決定したことについて、約6,000名の医師を対象に、賛成/反対を聴取した。併せて、その意見に対する理由を自由回答形式で募った。
全体としては、「賛成」「どちらかと言えば賛成」を合わせた賛成計が57.8%、「反対」「どちらかと言えば反対」を合わせた反対計が9.4%、「どちらとも言えない」が32.8%となり、賛成が過半数を占める結果となった。
診療科別の内訳を見ていく。全体の結果と比べて賛成の割合が多かったのは、腎臓内科(賛成:62.8%)、放射線科(69.8%)、産婦人科(69.5%)、心臓血管外科(65%)脳神経外科(65.9%)、整形外科(61.4%)などであった。理由として、これらの科ではコロナ診療に関わる頻度が少ないため、感染状況に関して楽観視する傾向にある可能性がある。外科系診療科では、コロナ禍の手術枠制限や手術室の感染対策等により、通常診療に影響が出ることに対して苛立ちを感じていた医師は多いだろう。
反対意見の割合が多い診療科として、内分泌代謝内科(13.8%)、リウマチ・膠原病科(15.5%)などがあった。これらの科では、原疾患もしくは投薬により患者が免疫抑制の状態にあることが多く、他科と比較してコロナの再流行をより懸念している可能性がある。
また、呼吸器内科(11.8%)、耳鼻咽喉科(13.3%)も反対の割合が多かった。これらの科は実際にコロナ患者を診察していることが多いと考えられ、感染状況をよりシビアに考えている医師が多いのではないだろうか。
また救急科(14.3%)と、サンプル数は少数だが集中治療科(19.2%)でも反対の割合が多かった。これらの科ではコロナ感染の重症例を扱うことが多く、感染対策の緩和に伴い重症例が増加することへの懸念があると思われる。
医師が診療を行う施設の形態別の結果として、介護老人保健施設・介護療養型医療施設において反対の割合が多かった(反対:16.6%)。感染対策の緩和に伴い感染者が再増加した場合、施設内クラスターの発生や重症例の発生など、再度厳しい状況に陥ることを懸念しての意見と思われる。
ここからは自由回答で寄せられた声を紹介する。
賛成の声は大まかに4種類
1)「感染の収束」「重症患者の減少」「医療費削減」などが多数
賛成派の意見で多かったものとして、感染が収束傾向にあることや重症化例が減少していることが挙げられた。また、5類感染症への移行により検査費用や医療費の公費支援が終了もしくは一部自己負担となることを受け、医療費削減の観点から5類移行を支持する声も多かった。
- だいぶ感染が収まってきた。(消化器内科 60代以上男性 私立一般病院)
- 疾病の重症度や対策による経済への影響を考慮して妥当と言えるから。(感染症内科 60代以上男性 国公立・公的病院)
- 医療費削減のため。(精神科 30代男性 国公立・公的病院)
2)感染対策、行政手続き、入退院調整…コロナ対応に追われる現状の改善に期待
院内における感染対策や患者の届け出等の行政手続きなど、コロナ流行後に新たに生じた業務のため通常診療に影響が生じていると考えている医師は多かった。また、救急車の受け入れや退院調整についても通常時とは異なる配慮を要求され、ストレスを感じる声もあった。
- 感染対策が楽になる。(精神科 30代男性 私立一般病院)
- 事務手続きが煩雑だった。(一般内科/消化器内科 60代以上男性 私立一般病院)
- 届け出が面倒だったから。(呼吸器内科 40代女性 私立一般病院)
- 退院調整が容易になる。(精神科 30代男性 私立一般病院)
- 本来の診療業務ができる。(血液内科 40代男性 国公立・公的病院)
- いつまでも特別扱いしていては通常診療に戻れない。(呼吸器内科 60代以上 男性 国公立・公的病院)
(3)指定医療機関の負担軽減は切実な願い
これまでコロナ症例は、限られた医療機関での特別な対応が必要な疾患として扱われてきたが、5類移行によって幅広い医療機関で診療が可能となる。コロナ禍を通して感染症指定医療機関における負担は大きく、特にコロナ感染を合併した妊婦の出産等で、一部の医療機関に患者が集中する状況があったと想定される。
- 他施設でもちゃんと患者を受け入れてもらうため。(産婦人科 50代男性 国公立・公的病院)
- 納得できない理由での患者搬送。(産婦人科 60代以上 女性 大学病院)
(4)濃厚接触者扱いによる休暇など、医療スタッフの不足によるダメージ
賛成派の中には、感染や濃厚接触者扱いなどで自身や他の医療スタッフが出勤できない状況が改善されることを期待する声もあった。
- 濃厚接触で仕事ができないのは困る。(眼科 50代女性 医院・診療所・クリニック)
- 過剰な休暇取得となっている。(泌尿器科 30代男性 私立一般病院)
反対の声は大まかに2種類
(1)パンデミックの再来の危惧
反対意見としては、感染が完全に収束しきっていないことへの指摘や、流行の再燃を危惧する声が挙がった。特に、高齢者施設でのクラスター発生等、患者の重症化のリスクが高いケースを不安視する声が挙がった。
- 再度パンデミックになる可能性がある。(集中治療科 40代男性 大学病院)
- 精神科病棟や、高齢者施設におけるクラスターの発生は更に増加する可能性が高い。(一般内科/消化器内科 60代以上男性 医院・診療所・クリニック)
(2)指定施設以外でのコロナ診療への不安
また、これまでコロナ診療を行なっていなかった施設が、新たにコロナ患者を受け入れることへの不安の声も多かった。
- 今までコロナ患者を診てない病院が対応出来るのか不安。(耳鼻科 60代以上男性 医院・診療所・クリニック)
- 診療所レベルでは対応が困難。(耳鼻科 60代以上男性 医院・診療所・クリニック)
- 中小病院では対応できない。(一般内科/内分泌代謝内科 60代以上男性 私立一般病院)
その他:感染対策の継続や、治療の適応に対する理解を望む声
5類への移行は妥当としながらも、基本的な感染対策の継続や重症例での治療方針について、国民の協力や理解が必要であるとの意見も見られた。
- 法律上の五類への変更は妥当だが、一方で国民の理解が不十分。 マスク着用に関して、最終的に個人の判断という結論は、不誠実。(感染症科 40代男性 国公立・公的病院)
- インフルエンザと同じ扱いにするならば、高齢者等は人工呼吸器装着やエクモはしないので、死亡者が増えることを国民に伝えるべきである。(一般内科/循環器内科 60代以上男性 私立一般病院)
おわりに
現在の感染状況に見合った対応として、コロナ5類移行に賛同する医師は過半数を超えた。感染対策や事務手続きなどで強いられていた負担が軽減することを喜ぶ声は多く、いずれはコロナ禍以前と同じように通常診療を行える日常が戻ってくることが期待される。一方で、感染状況が再度悪化することへの懸念は拭いきれず、マスク着用や手指衛生等個人の感染対策に対しては、継続を望む声も多い。
参考文献
厚生労働省 新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について
https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html
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