製薬会社の医療サポートに対する医師の評価 データ活用編
2023.07.04
前回のコラムでは、大腸がんの治療薬を取り扱う製薬企業13社、血液がんの治療薬を扱う14社を対象に、製薬会社が医療関係者や患者向けに実施しているサポートに対する医師の評価結果を紹介した。
今回はこれらの調査結果を使いながら、データの活用方法について紹介していく。
各製薬会社が実施している製品以外のサポートは、各社の企業イメージにも反映されている。医師に、「製品以外のサポートを積極的に行っていると感じる企業」についてトップ3をあげてもらった結果が下記である。
図1.サポートを積極的に行っていると感じる企業1位に選ばれた企業ランキング
どのような特性をもった医師が、どのような印象、評価を各社にあたえたかを見てみよう。日経リサーチオリジナルの分析手法、KeyExplorerを使って説明したい。
KeyExplorerは、調査で聴取した多くの数値、選択肢、自由回答などの文字の情報の全データを一気通貫で解析して、特定の集団の特徴の強いものをあぶり出すことができる。利点は、膨大な集計表を見落としなく、恣意性を排除して、客観的な結果が短時間で得られることだ。結果は特徴量の多い順にランキング化して示される。他の回答者の集団と比較して、際立つ特徴について示したもので、見方としては、特徴量が3以上は特徴がみられる、6以上は特徴がある、20以上はかなり特徴的であるとしている。
図2~4は大腸がんの領域で「製品以外のサポートが積極的な企業」として1位に大鵬薬品工業、中外製薬、武田薬品工業をあげた医師の特徴をあぶりだしている。医師本人の特性は、日経リサーチが開発した医師の特性・行動を表す17項目を用いて「あてはまる」~「あてはまらない」までの4つの尺度で聴取した回答を用いた。
1位にあげた医師が最も多かった大鵬薬品工業は、情報提供の活動、姿勢が評価の源になっており、製品、製品以外、患者向けの情報提供と幅広いことがわかる。
特に、「企業サイト、疾患サイトの情報提供の充実」がトップの点も興味深い。大鵬薬品工業をトップにあげる医師は、しっかりと情報を集め、治療効果が高い薬を使う中で、製品の効能・効果、副作用などのエビデンスに基づいて行動している様子が見られる。大鵬薬品工業に対する情報提供の評価は、同時に、その情報の質も評価をされているのだろう、企業の信頼感にもつながっていることが結果からも分かる。
図2.大鵬薬品工業を評価する医師の特徴
図3.中外製薬を評価する医師の特徴
中外製薬は、MRという人の接点を通じての評価が、全体評価を形成していることが見てとれる。製品を通じた印象に関しても、製品そのものというよりは、「治療に役立つ情報を提供してくれる人材が多い」が特徴としてあがる。同時に、「疾患啓発のための資材の提供」、「地域医療連携、地域包括ケアへの貢献」など、具体的な項目が上位にあがっており、中外製薬から受けるサポートとして、印象づけられていることがわかる。
図4.武田薬品工業を評価する医師の特徴
武田薬品はどうだろうか。前述の大鵬薬品や中外製薬とは大きく異なり、対企業への評価が目立つ。患者治療を医療従事者と一体になって進める姿勢があるがトップ。研究開発力に優れているとの評価も高い。医師の特性としては、最新治療や治療効果が高いとされる薬を取り入れる早さが目立つ。
結果は、3社それぞれの現場の活動の違いや、戦略の違い、企業姿勢の違いが色濃く反映されているといえるだろう。実際に現場のMRは、それぞれのドクターの特性を、このような調査結果以上に細かく把握し、日々、適した方法でアプローチされているであろう。処方につながるケース、成功パターンは十分に把握されているのではないだろうか。
一方で企業として訴求したい点がしっかり医師に届いているかを確認することは、マーケティング戦略上必要になる。もし訴求したい点が届いていない、違う印象を持たれているということであれば、戦略の再考が必要になる。
また、例えば採用が進まないケース、他社が優先選択されていくケースの場合は、そこにどのような違いがあったかは、なかなか自社内のデータだけでは把握はしきれないのではないだろうか。同時に、各社が評価される特徴や、強み、弱みを把握していければ、効率的に全体のマーケティング戦略を練ることも可能と考える。
製品以外の活動が企業イメージに影響しやすい医師の特徴
さてここからは同じ手法で、医師の特性、パーソナリティそのものと評価の関係を見てみよう。下記は、製品以外の製薬会社に対して抱く企業イメージに「とても影響をあたえている」と回答する医師の特徴だ。
図5.製品以外の活動が企業イメージにとても影響を与える医師の特徴
製品以外の活動が企業イメージにとても影響があると回答する医師は、情報収集に積極的で、結果的に最新治療、新薬の処方も早いようだ。同時に、海外の留学経験があるという特徴もあげられる。企業を見る目は、製品だけではなく、製品以外、つまり総合的に判断している様子がうかがえ、院内での発言も多いこと、相談に乗ることが多い状況からも院内でのキーマンという側面も持ち合わせていそうだ。
医師と接触している製薬会社や卸の担当者からすると、最終的には個々の医師が診療にあたっている患者の情報と、医師本人の特性によると考えるに違いない。それぞれの医師に合わせて、アプローチの工夫をしているのが実態だろう。このように調査を通じても、医師の特徴で分類することができ、営業現場での傾向と対策に活かす方法もありそうだ。
調査手法 | インターネット調査 |
---|---|
調査対象者 | 日経メディカルオンラインに登録している、 直近1年以内に大腸がんの治療薬処方の実績がある医師 |
調査実施期間 | 2022年5月16日~20日 |
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