コロナ禍においての製薬業界に対する医療従事者の声
2023.7.12
2023年3月、日経リサーチは日経BPが有する「日経メディカルonline」の登録者に対し、コロナ禍における製薬業界に対する満足度を調査した。約6000人の医師を対象に、「とても満足」「まあ満足」「どちらともいえない」「やや不満」「とても不満」の5段階で満足度を評価し、自由回答形式でその理由についても聞いた。
まず全体の結果として、「とても満足」「まあ満足」の回答を合わせた「満足計」の割合は29.6%、「とても不満」「やや不満」の回答を合わせた「不満計」の割合は21.3%、「どちらともいえない」と回答した割合は49.1%となった。「満足計」の割合が「不満計」の割合をやや上回り、半数は「どちらともいえない」と答えた結果となった。
また同様の調査を2021年にも行っており、そちらの調査結果と比較してみると全体としては「満足計」の割合は27.5%、「不満計」は20.3%、「どちらともいえない」は52.2%となった。過去の調査と比べると「満足計」の割合が2.1ポイント上昇、「不満計」の割合は1.1ポイント上昇していた。また下記の表の通り、診療科別では透析科、呼吸器外科、救急科が他の診療科と比較して満足度が2021年と比べて上昇していた。逆に内分泌・代謝内科、乳腺外科、小児科は2021年と比べて不満度が上昇していた。
今回の調査に話を戻そう。下記のグラフは2023年度調査の診療科別の満足度を示したものであり、満足の声が多かった診療科、不満の声が多かった診療科のそれぞれ回答数の多かった診療科5つを取り上げた。
まず満足の声が多かった診療科別の内訳を見ていくと、上から順に呼吸器外科(43.9%)、腎臓内科(42.6%)、血液内科(41.4%)、透析科(37.5%)、呼吸器内科(35.8%)となった。
また不満の声の割合が多かった診療科の内訳は、上から順に内分泌・代謝内科(30.8%)、耳鼻咽喉科(30.7%)、産婦人科(28%)、皮膚科(28%)、精神科(27.3%)となった。
ここからは自由回答で寄せられた意見を紹介する。
満足の声は大まかに2種類
1)オンラインでの活動の普及・浸透
コロナ禍で多くの医療機関が訪問規制をかけた影響で、製薬メーカー担当者の医師との対面による面会の機会が減り、オンラインでの面会の機会が増えたことが功を奏した模様。対面での面会を好まないと感じていた医師にとっては、不要な面会や回数そのものが減り、適正な頻度になった印象をうけたという声もみられた。
また対面でなくとも、オンラインでの面会でも必要な情報を収集できることがわかったこと、web講演会などの実施回数が増えたことで進んで情報を得られやすくなったという意見もあり、医療現場においてもオンラインでの情報収集、情報提供などの活動が浸透したと思われる
- 訪問機会が減り、情報提供の頻度が適正になった印象を受けるため(腎臓内科 40代男性 国公立・公的病院)
- 不要な面会が少なくなった。(血液内科 40代男性 国公立・公的病院)
- WEB講演会などが進んで情報が得られやすくなった(腎臓内科 40代男性 私立一般病院)
- オンラインでの情報提供が増えてやりやすい(循環器内科 30代男性 国公立・公的病院)
- 対面でなくても必要な情報は得られている(血液内科 50代女性 大学病院)
2)コロナウイルスに対する製薬メーカーの対応への評価
コロナウイルスに対するワクチンや治療薬の速やかな開発、供給を評価している意見が多かった。ワクチンにおいてはファイザー、モデルナ、アストラゼネカが相次いで開発、日本での供給が行われた。また治療薬においては、ファイザー、ギリアド・サイエンシズ、MSD、塩野義製薬などが開発を行い、そのスピードや供給量を評価する声が多かった。
- ワクチンが早期に開発されたこと(呼吸器外科 30代男性 国公立・公的病院)
- ワクチンなどが充実しているので(循環器内科 30代男性 国公立・公的病院)
- ワクチンの供給も十分であるし、新薬の開発も行われている(循環器内科 40代男性 国公立・公的病院)
- 迅速にワクチン・新薬が開発・提供されたため(腎臓内科 40代男性 私立一般病院)
不満の声は大まかに3種類
(1)製薬メーカー担当者の訪問回数の減少
オンラインでの面会が増えたことに満足と答えた意見とは逆に、コロナ禍においても面会は対面が基本と考えている医師にとっては、訪問制限がある中でも対面での面会の機会が減ったことについて不満に思っているという意見がみられた。
- MRの来訪がなくなったから(産婦人科 60代以上男性 私立一般病院)
- 訪問回数が減った(内分泌・代謝内科 60代以上男性 国公立・公的病院)
- 顔の見える付き合いがなくなった(耳鼻咽喉科 50代男性 国公立・公的病院)
(2)医薬品の供給状況
医薬品の供給不足に対する不満の声が多く見受けられた。コロナウイルス感染患者に投与が必要な解熱剤や鎮痛剤の供給不足、また2020年末以降に生じた後発品メーカー不祥事による後発品を中心とした供給不足に対する意見も含まれていると思われる。
- 薬品不足が解消されないから(精神科 30代男性 私立一般病院)
- 供給不足が多かった(内分泌・代謝内科 30代男性 国公立・公的病院)
- 薬の欠品が多く、診療に支障が出ている(内分泌・代謝内科 30代男性 国公立・公的病院)
- 薬の在庫が不足がちで、使用したいときに出荷制限がかかっていること。(産婦人科 60代女性 医院・診療所・クリニック)
(3)国産ワクチン・治療薬の開発のスピード感
国産のコロナウイルスワクチンの開発について不満に思う声が見受けられた。ファイザー、モデルナなどの外資系企業の開発したワクチンの普及により、日本でもコロナウイルスワクチンの接種が進んだが、国産のワクチンはいまだ実用化に至っていない。複数の国内製薬企業が開発に着手しているが、実用化できていないそのスピード感の遅さを不満に思っているようだ。また治療薬についても開発、承認の遅さを不満に思っていることが分かった。
- 国産ワクチンの開発の遅れ(糖尿病科 60代男性 私立一般病院)
- 国産ワクチン開発の遅延(小児科 50代男性 私立一般病院)
- 自国でのワクチン、治療薬開発の遅れ、遅さ(循環器内科 50代男性 医院・診療所・クリニック)
- 治療薬の承認に時間がかかった(一般内科 30代男性 大学病院)
おわりに
コロナウイルス感染拡大によって、医療機関への訪問規制など医療現場、製薬業界双方に多大な影響があった。互いの接触方法も変化し、オンラインでの面会を受け入れ、それを推奨する医師もいれば、従来通り対面での面会を望む医師もいる。オンラインでの面会や講演会の実施が浸透する一方、徐々に訪問規制も緩和されていく中で、医療機関それぞれの状況を把握し、オンライン・対面の両方を駆使しながら変わらず情報提供を行っていく必要がある。
また、医薬品の供給不足が医療現場に深刻な状況をもたらしていることが、今回の調査で改めて浮き彫りになった。後発品メーカーの件に加えコロナウイルス感染患者の急増により、多くの製品で出荷調整がかけられ、医療現場に必要数の医薬品が届かないという事態が多発した。この問題が医師からの不満として挙げられた意見の中でも多くの割合を占めており、医薬品の安定供給について、早急な対応が必要とされている。加えて、コロナウイルスに対するワクチンや治療薬には、供給量やスピードを評価する声が上がる一方、治療薬の承認が遅いと指摘する医師も一定数いた。ワクチンでは国産のものの早期の実用化を望む声も見受けられ、今でも課題は残されている。
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