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2019年からの医師の意識変化

医師のモチベーション:7年間の変遷と課題の分析【前編】

はじめに:医師の意識変化を多角的に捉える重要性

医療の質と持続可能性を議論する上で、医療従事者の就業意欲、すなわちモチベーションは重要な分析対象です。医師のモチベーションは、近年の医療環境の変動に伴って多様な要因から影響を受けており、個々の医師が経験した出来事と、その時々の感情といった定性的な理解も必要となります。

 

日経リサーチでは、日経メディカルOnlineに登録している医師パネル(2026名)を対象に、就業意欲の変遷を聴取する独自調査を実施しました。当社では定量調査の中における定性情報の重要性に重きを置き、回答者からより多くの情報を引き出すためのツールや機能の充実を図っています。本調査は、個々の医師のモチベーションを時系列で聴取することにより、定量データだけでは把握しきれないインサイトの抽出を目的としています。

医師のコロナ前後におけるモチベーション変遷

本稿では、2019年から2025年までの7年間における医師のモチベーションの変遷を分析しました。調査は2025年4月に実施したもので、2019年から各年ごとの「勤務先に対しての勤続意向」を10段階で聴取しました。また、その各年におけるモチベーションの状況を自由回答で回答いただきました。

 

下記の図1は、モチベーションが前期比プラスになった「モチベーションアップ」の人数と、マイナスになった「モチベーションダウン」の人数の集計結果です。前編では、COVID-19の拡大が医療現場に与えた影響(2019年~2022年)について、データと具体的な回答から考察します。

 

メディカルコラム用グラフ

図1:医師のモチベーション変化(ポジティブ/ネガティブ要因回答者数)
(出典:2025年4月 日経リサーチ自主調査 n=2026)

 

パンデミック以前の状況と初期の影響(2019年~2020年)

【2019年】 キャリア関連がモチベーションへ強いインパクト

グラフが示す通り、パンデミック以前の2019年は、ポジティブな変化を経験した医師(365人)がネガティブな変化を経験した医師(266人)を上回りました。医師といえども人の子、「転職」や「昇進」、「専門医取得」といったキャリアに関する出来事が、モチベーション向上の主な要因であったことがうかがえます。

一方で、「大学病院の労働環境が酷く、薄給」(麻酔科、30代、大学病院)といった、従前から指摘されていた労働環境に関する課題はネガティブ要因で上げられました。

 

【2020年】 パンデミック下の試練と職業意識

COVID-19のパンデミックという未曾有の事態に直面し、「コロナで患者数が激減した」 (小児科、60代以上、医院)、「未知のウイルスへの恐怖や社会からのプレッシャー」 (泌尿器科、50代、公立病院)、「専門外のコロナ対応や激務による疲弊」 (精神科、40代、私立病院)といった声が多数を占め、現場の混乱と業務負荷の増大がモチベーションにインパクトを及ぼしていました。さらに、「必要な資材、薬剤が入手困難となる」 (眼科、60代以上、診療所)、「大学病院のバイトがなくなり収入が減った」 (循環器内科、30代、私立病院)といった供給面・経済面での問題も、具体的な出来事として挙げられました。

他方、この厳しい状況下で、自らの職業的意義を再認識した医師も少なくありませんでした。「COVID-19初期対応をさせていただき、感染症・呼吸器内科医としての社会に対する役割を果たせたと自負」 (感染症科、50代、私立病院)、「医師になった天命を知る」(泌尿器科、50代、診療所)など社会的な非常事態において、自身の社会的役割がモチベーションを支える一因となっていたことがうかがえます。

コロナ禍の長期化と課題の変容(2021年~2022年)

【2021年】 長期化に伴う疲弊と、個人要因の顕在化

パンデミック2年目の2021年も、ネガティブな変化(346人)がポジティブな変化(297人)を上回る状況が続きました。回答からは「コロナ疲れ」 (耳鼻咽喉科、30代、私立病院)に代表される長期化に伴う疲弊が継続していたことが示される一方、発熱外来の設置など、業務への「適応」が進んだとする声もありました 。

このような緊急事態であっても「個人のキャリア・ライフステージ」のポジティブな変化、例えば「第2子出産」 (内分泌・代謝内科、30代、私立病院)や「専門医試験に合格」 (放射線科、30代、私立病院)などは、モチベーションの維持・向上に役立っていたようです。

 

【2022年】 感染症という突発的要因から国の制度など他の要因への関心の移行

2022年には、ポジティブな変化(435人)がネガティブな変化(320人)を上回り、モチベーションは回復基調に転じました。「徐々に普通の診療ができるようになった」 (産婦人科、50代、私立病院)という安堵感に表れています。もちろん「転職」 (内分泌・代謝内科、30代、私立病院)や「昇進」 (脳神経外科、40代、私立病院)といったキャリアイベントがモチベーション維持・向上の要因です。

一方、国の医療政策に対し、「リフィル処方制度が勝手に決まった」 (一般内科、30代、診療所)といった不満が表明されたほか、「働き方改革で給与が下がる」 (一般内科、40代、診療所)「同僚の退職で業務負荷増える」 (一般内科、40代、私立病院)といったコメントも散見されるようになり、医師の関心が感染症という突発的な要因から、国内の制度や所属組織の体制といったそれなりに発生する一般的な要因へと移行し始めたことが示唆されます。 

 

2023年以降は、後編(7月末公開予定)に記載します。

 

日経リサーチは、今後も信頼性の高いパネルと様々な調査手法・分析を駆使し、医療現場のリアルなインサイトを抽出・分析することで、クライアントの皆様が直面する課題解決に貢献してまいります。

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