人材活用に独自のKPI社員の意識改革促す
日経「スマートワーク経営」調査の回答企業は、人材活用に関する施策導入の成否を測る指標として、どんなKPIを活用しているのか。また、KPIの活用をどのように生産性の向上につなげているのか。KPIと生産性に関する調査結果と、独自の指数で人材活用に取り組む企業の事例を紹介します。
丸井グループ
小売業・フィンテック事業を行う丸井グループは、2008年から働き方改革に着手、「社員一人ひとりが活躍できる場」の提供を進めてきた。すべての人が幸せを感じられる豊かな社会の実現を目指し、16年11月に「インクルージョン(包摂)」の視点で、4つの重点テーマを掲げた(図表1)。
図表1 インクルージョン(包摂)視点での4つの重点テーマ
すべての顧客に喜んでもらえる商品・サービス・店舗、環境負荷の低減、すべてのステークホルダーの利益との調和と並び、「社員一人ひとりが活躍できる場」を提供する「ワーキング・インクルージョン」がその1つになっている。このためのKPI(重要業績評価指標)の中に、独自のグループ会社間異動率と「女性イキイキ指数」がある。
「職種変更」で共感力と革新力を磨く
グループ会社間異動率(図表2)は、13年4月以降に12のグループ会社間を異動した社員の累計割合を指す。18年4月には社員の約43%に達した(役員・管理職は除く)。
同社グループの社員5,548名(2018年3月期)は全員、純粋持ち株会社の社員であり、入社後に2~3年間を目安に店舗で接客を経験する。顧客の多様なニーズを学び、「他者の視点」での共感力を養うためだ。その上で、クレジットカードを中心としたフィンテック事業やWebによる販売、不動産賃貸など12のグループ会社間を異動する独自の人事制度により、「職種変更」する。新たな業務で違った見方ができるようになり、革新力を身につけることができると同社では見ている。16年11月に実施した、異動した社員のアンケートによると、約86%が異動後に自分の成長を実感している。
「職種変更」を受け入れる側も、「多様な視点」を共有できる。今後、事業領域を拡大する際に、いくつかの事業で得た能力を掛け合わせた力を発揮することも期待されている。
「女性イキイキ指数」でプロセスを可視化
一方、「女性イキイキ指数」は、女性の活躍の場を増やすプロセスを示すKPIとして14年3月期から作成している。同社の人事上の階層は6段階だが、一番上とその次の2階層(部課長級に相当)である女性管理職を増やすには、その一歩手前の階層のリーダー数を増やさなければならない。また、社内の意識改革や風土づくりも前提になる。こうした考えから、意識改革・風土づくりを進めるための「女性活躍浸透度」「女性の上位職志向」などの3つの数値と、活躍推進を定量的に示す4つの数値から指数を構成した。「女性活躍浸透度」は、社員アンケートで「女性活躍の重要性を理解できた」と答えた割合で、14年3月期の37%から18年3月期には97%まで上昇した。「女性の上位職志向」は、現在より上位職を目指したいと答えた割合で、14年3月期の41%から18年3月期には67%に上昇している。
図表2 「グループ会社間異動率」と「女性イキイキ指数」
2014年3月期 | 2016年3月期 | 2018年3月期 | 目標 *注5 | |||
グループ会社間異動率*注1 | 8% | 25% | 43% | |||
女性 イキイキ指数 |
意識改革・ 風土づくり |
女性活躍度浸透度*注2 | 37% | 74% | 97% | 100% |
女性の上位職志向*注2 | 41% | 62% | 67% | 80% | ||
男性社員の育休取得率*注3 | 14% | 66% | 109% | 100% | ||
女性の 活躍推進 |
育児フルタイム復帰率*注4 | 36% | 66% | 63% | 90% | |
女性リーダー数 | 545人 | 603人 | 643人 | 900人 | ||
女性管理職数 | 24人 | 29人 | 40人 | 55人 | ||
女性管理職比率 | 7% | 9% | 11% | 17% |
注1 2013年4月以降にグループ会社間で異動した社員(役員・管理職を除く)の累計割合
注2 女性活躍浸透度と上位職志向は、社員のアンケート結果(本文参照)
注3 配偶者の出産と育休の取得年度がずれる場合があるため、100%を超えている
注4 ある一定の年に育休から短時間勤務で復帰した社員数を分母としたときのフルタイムに戻った女性社員の割合
注5 目標の数値は2021年3月期のもの
ワークライフバランスの実現には男性の意識改革も欠かせないとして指数に加えた「男性社員の育休取得率」は、14年3月期にはわずか14%だった。その後、上司が育休取得を促したこともあって、18年3月期には対象社員のほとんどが取得した(出産時期とのずれから数値上は109%)。
女性の活躍を定量的に示す4つの数値も上昇している。育休から短時間勤務で職場に戻ってきた女性社員のうちフルタイム勤務に復帰した比率(育児フルタイム復帰率)は14年3月期の36%から18年3月期には63%にアップ。女性のリーダー数や管理職数も着実に増加した。女性管理職比率は14年3月期の7%から18年3月期に11%へと上昇している。
女性イキイキ指数上昇に向けて、女性社員の周りにいる男性社員に対する研修と、女性社員自身のマインド向上を促すという両輪の取り組みをしてきた。管理職に対して、「アンコンシャスバイアス・プログラム」を実施し、無意識の偏見に対する取り扱い方を学んでいる。また、女性社員のマインド向上の取り組みの一つに階層別共有会があり、席上、社外取締役の岡島悦子氏が「キャリアは自分で作っていくもの、ライフイベントがあっても仕事を続ける意義がある」と説いたりした。
働き方改革で一人ひとりが活躍できる場に
15年3月に多様性推進を中期経営計画でうたい、16年にスタートした「健康経営推進プロジェクト」では50年に「わたし、健康」と言える人を100%にするとビジョンに掲げる。08年から始めた働き方改革により、全社での1人あたり月間平均残業時間は08年3月期の10.9時間から18年3月期には3.5時間に大幅に減った。お互いを認め合い、革新を生み出しやすい職場づくりを推進することで、人が育ち、誰もがチャンスを得られる場を整える。
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