「キャリア自律」の現況を探る
HR総研と日経リサーチの共同調査として、企業の人事担当者(企業、以下同じ)と管理職から一般職までの正社員として働く人(従業員、以下同じ)の双方に対する「キャリア自律」に関するアンケートを2020年9月~10月に実施しました。企業(有効回答267社)と従業員(有効回答1213人)の回答結果から、現在、多くの企業や従業員の間で関心が高まっている「他人任せでない自律したキャリア形成の進め方」の現状と課題について、諏訪康雄法政大学名誉教授にご寄稿いただきました。
調査結果からは、全体的に「キャリア自律」への流れが感じられるものの、企業規模、産業、地域などによるかなりの違いが認められます。本稿はその前編です。
※ 「キャリア自律」とは「自分のキャリア形成を企業に委ねるのではなく、個人が自分のキャリアに興味を持ち、自律的にキャリア開発を行っていくこと」と設問では定義しています。
※ 以下の集計結果では、小数点1位以下を四捨五入した数値を用いていますので、その関係で合計が必ずしも100%となっていない場合があります。
【概要1】企業調査と従業員調査で「比較対照」が可能な項目について
まず説明します。
1.「キャリア自律」についての認知の度合い
さすがに企業はけっこうよく知っていましたが、逆に従業員は知らなかった人が多数です。
「キャリア自律」という言葉を「知っていた」のは、企業調査で64%、従業員調査で22%。逆に、調査時点まで「知らなかった」のが企業調査で20%、従業員調査で62%です。
なお、「知っていた」は「以前から知っていた」と「以前から少しだけ知っていた」との回答を足したもの。「知らなかった」は「今回初めて聞いた」との回答です。
図表1「キャリア自律」の認識のパターンには企業と従業員で大きな違いがある
2.「キャリア自律」についての重視の度合い
「キャリア自律」を重視しているのは、企業の半数近く、従業員は5人に1人程度。
「キャリア自律」を会社の方針として「重視している」のは企業調査では45%、従業員調査で自身のこととして「重視している」人は22%です。逆に、「重視していない」のは企業調査で27%、従業員調査で35%です。
なお、企業調査では「『社員のキャリア自律』への現在の方針」を、従業員調査では「お勤め先では『社員のキャリア自律』を重視していると思うか」を質問し、それぞれ「重視している」は「重視している」と「やや重視している」との回答を足したもの。「重視していない」は「重視していない」と「あまり重視していない」との回答を足したものです。なお、他に「どちらともいえない」の選択肢があり、企業調査で28%が、従業員調査で34%がそう答えました。また、従業員調査には「わからない」という選択肢もあり、これを選択した人が10%いました。
図表2 企業は重視する傾向にあるものの、従業員はそれほどでない
3.コロナ禍の影響
コロナ禍の前後で「キャリア自律」意識に変化なしが、企業も従業員も大多数です。
今回のコロナ禍が「キャリア自律」意識に与えた影響を聞いたところ、コロナ前に比べて「変化ない」が多数で、企業調査で76%、従業員調査で73%です。他方、企業調査で「会社のキャリア自律を社員に促進する動き」が「強まった」のは21%、従業員調査では「自身のキャリア形成を考える上で、何らかの影響」で「真剣に考えるようになった」のは20%です。
なお、企業調査で「強まった」は「強まった」と「やや強まった」との回答を足したもの、従業員調査で「真剣に考えるようになった」は「キャリア自律を真剣に考えるようになった」と「やや真剣に考えるようになった」との回答を足したものです。
図表3 コロナ禍の「キャリア自律」への影響度は、企業と従業員で同様の認識具合
(注)選択肢の文言は、上段が企業調査、下段が従業員調査。表現が異なっているが、両者は比較可能と思われる。
図表4 ジョブ型雇用かどうかで従業員調査を、企業戦略タイプで企業調査を深掘り
図表4にあるとおり、従業員調査(従業員)では、勤務先がジョブ型雇用かそうでない(メンバーシップ型など)かで、「キャリア自律」意識へのコロナ禍の影響の大きさに差が出ています。
ジョブ型雇用の企業で働いている従業員は、「キャリア自律」への思いを強めている人が多い(34%)のに対して、メンバーシップ型などの企業の従業員では少ないです(14%)。また、企業調査では、企業の経営戦略における違いにより、「キャリア自律」へのコロナ禍の影響の大きさの受け止めに差が出ています。
また、革新型経営戦略を取る企業はコロナ禍を「キャリア自律」推進のきっかけとする例(44%)が顕著で、成り行き任せの自然型経営戦略の企業(同8%)とは対照的です。
「ジョブ型雇用」は「ジョブ型雇用の傾向が強い」と「どちらかといえばジョブ型雇用の傾向が強い」と従業員が意識した場合を、「それ以外」は「どちらともいえない」と「どちらかといえばメンバーシップ型雇用の傾向である」と「メンバーシップ型の傾向が強い」とした場合をまとめたものです。
また、企業調査における経営戦略の違いの分類は、「リスクを取っても積極的に幅広く新規事業・市場を開拓し、市場変化に他社より迅速に対応する(革新型)」、「高品質の製品・サービス、低価格製品等により、業界変化に関係なく限定した領域の事業を守る(保守型)」、「既存事業を守りつつ将来性のある事業等に高品質の後発製品・サービスを展開する(バランス型)」、「特定の戦略にこだわらず、市場や競合の動きに翻弄されながら事業展開する(自然型)」のうちからのひとつを選択してもらったものによっています。
コラムの続きは下記よりPDFをダウンロードしてお読みになれます。
PDFでご覧いただけます(845KB)
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諏訪 康雄
法政大学 名誉教授/日本テレワーク協会アドバイザー/HR総研 特別顧問
【略歴】
1970年に一橋大学法学部卒業後、ボローニャ大学(イタリア政府給費留学生)、東京大学大学院博士課程(単位取得退学)、ニュー・サウス・ウェールズ大学客員研究員(豪州)、ボローニャ大学客員教授、トレント大学客員教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、厚生労働省・労働政策審議会会長等を経て、2013年から法政大学名誉教授。
【主な論文・著書】
『雇用政策とキャリア権』(弘文堂・単著)
『雇用と法』(放送大学教育振興会・単著)
『労使コミュニケーションと法』(日本労働研究機構・単著)
『労使紛争の処理』(日本労使関係研究協会・単著)
『外資系企業の人事管理』(日本労働研究機構・共著)
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