グローバル事業運営の壁は「人材と組織」? |企業担当者アンケートから見えた課題と対応策
日経リサーチでは、連結売上高500億円以上でグローバル事業を展開している企業を対象に「海外の事業課題に関するアンケート」を実施した。
当調査は、事業責任者である役員や部長クラスから多くの回答を得ており、アンケートから得られた結果は、近視眼的ではなく事業全体を俯瞰したうえでの課題や取組みといえる 。このコラムでは、調査結果の一部を紹介する。今後グローバル事業を担当する方は、ぜひ参考にしていただきたい。
マネジメント課題は人材と組織
こちらの表は、「貴社(貴社グループ)において、現在、海外やグローバルにおける喫緊の事業マネジメント上の課題や取組みテーマは何ですか」の問いに対する回答結果だ。

上位10位までの回答の半数超は「人材」とその集合体である「組織」となっている。
人材についてさらに深堀りすると「現地採用営業スタッフが定着しない」(電気機器|営業企画部門)、「ローカル人材の育成、ガバナンス強化、海外での投資など」(運輸・倉庫関連業|内部統制部門)といった具合に、現地各国の人材不足とともに、「現地駐在員が数名は必要な状況だが、日本から派遣できるメンバーが限られており駐在員候補の確保が目先の課題」(鉄鋼・非鉄金属|マーケティング部門)、「事業規模拡大するにも国内も繁忙で次世代の担い手の派遣が難しい状況」(建設業|海外部門)といった具合に、日本側のグローバル人材不足が課題になっている状況も明らかになった。
組織についてはガバナンスに関する回答が最も多く、「海外現法における内部統制のハードルが高い(従事する人がいない)」(建設業|経理部門)と、こちらでも人材不足に関連した声があがっている。さらに「買収後のPMIを主導する組織が存在しない」(機械|経理部門)といったPMIにおける課題や、「海外進出後 50年以上経過している子会社では独自性が進み、連結としての管理の難易度が増している」(電気機器|経営企画部門)という海外進出を長く続けてきたことで生じた課題も指摘された。また、「グループ事業会社間シナジーの追求」(IT・情報業|海外部門)など、グループ企業としての運営も組織課題として大きいことがわかる。
将来におけるマネジメント課題とは?
下記の表は、「貴社(貴社グループ)において、今後5年後くらいに、どのような海外やグローバルにおける事業マネジメント上の課題が重要になると思いますか」の問いに対する回答結果だ。多少現在の課題の順位との入れ替わりはあるが、人材や組織に関する課題は、事業が継続していく上で、将来にわたって重要な課題であるということが良くわかる。
グローバルの成長に役立つ仕組み、制度とは?
下記の表は「貴社(貴社グループ)で、グローバルに成長していくために役立つと思う制度や仕組みはどれですか。」の質問に対する回答の上位項目と、それらをグローバルで統一して導入している比率だ。
これまで述べてきた通り、人や組織が重要な課題であるのは、事業の成長の観点からも同様であり、教育や研修が成長に役立つとの意見が多い。しかしながら、グローバルで統一した教育や研修制度の導入に関しては、将来の経営層・マネジャー候補者に対する制度でも32%、一般的な人材に対する制度ではわずか15%にとどまっており、課題として認識しているものの、具体的な実行、実施については十分にされていないということがわかる。
その補完というわけではないだろうが、「企業、グループ全体の経営理念やビジョン浸透活動」は45%の企業が役に立つと考え、グローバルで統一しての導入は80%と高く、多くの企業が取り組んでいる。
「本社指示をまたずとも、正しい対応をスピーディーに行える組織構築、維持」(輸送用機器|経営企画部門)の実現のためには、企業が何をお客様や社会に提供するのか、企業として何を大切にするのかという企業理念がきちんと定められており、現地やグループ企業において理解ができていることが重要である。
今後のグローバルでの成長を考えるにあたり、まずは、一度経営理念やビジョンがしっかり定まっているか、浸透できているのかを確認し、次にそれを具体的に実践するための人材教育、研修、幹部育成といった組織としての取り組みを行うことによって、組織の自律的な成長を促す基盤が出来上がっていくのである。
◆調査概要
調査対象 | 海外で事業展開をされている、原則上場しており連結売上500億円以上の企業 |
回答者数 |
154人 業種:製造業76%、サービス業24% 部門:経営企画部門35%、海外部門25%、営業企画部門14%など 役職:役員クラス39%、部長クラス44%など |
調査期間 | 2025年5月25日~6月23日 |
- よく見られている人気記事
-
期待高まるAI、それでも8割の医療機関は未導入。理由は「費用対効果わからない」
ルミネ新宿が3連覇!2024年版首都圏商業施設集客力ランキング|東京駅の2施設が急上昇 「施設と駅のセンサス」施設編最新データより
何が違うか?成功する社名変更と失敗する社名変更 ー分かれ道はここにある|「ブランド戦略サーベイ」を読み解く
記名か、匿名か。社員の本音を引き出す従業員コンプライアンス意識調査のコツ
企業におけるコンプライアンスの重要性とは
- メルマガ登録
- 最新の調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。 メルマガ登録はこちら
- メルマガ登録
- 最新の調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。 メルマガ登録はこちら
- よく見られている人気記事
-
期待高まるAI、それでも8割の医療機関は未導入。理由は「費用対効果わからない」
ルミネ新宿が3連覇!2024年版首都圏商業施設集客力ランキング|東京駅の2施設が急上昇 「施設と駅のセンサス」施設編最新データより
何が違うか?成功する社名変更と失敗する社名変更 ー分かれ道はここにある|「ブランド戦略サーベイ」を読み解く
記名か、匿名か。社員の本音を引き出す従業員コンプライアンス意識調査のコツ
企業におけるコンプライアンスの重要性とは
- メルマガ登録
- 最新の調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。 メルマガ登録はこちら
- メルマガ登録
- 最新の調査レポート、コラム、セミナー情報をお届けします。 メルマガ登録はこちら