「調査」と「観測」~世論のゆくえ 世論調査のルール(1) 「無作為抽出」
広く生活者などを調査対象とした調査の企画をする際に、「この調査の結果を公表するときは、『世論調査』という言葉は使わないほうが適切です」という説明をお客様にすることがある。それはその調査が厳密に「世論調査」とは呼べないからだからなのだが、では、「世論調査」という言葉の定義が明確にどこかに記されているかというと、はっきりとした統一見解はWebを探しても見当たらない。
では、世論調査には定義がないのかというと、そうではない。長年、調査に携わってきた立場で言うと、我々の先人たちは日本で科学的な世論調査がはじまったその時から、いくつものルールを守るべき常識として調査に取り組んできた。そうした世論調査のいくつものルールの1つに「サンプルは母集団から無作為抽出して作成すること」というのがある。(実際の抽出には「枠母集団」を使う。これについては、弊社ホームページの調査・統計用語集「母集団」の項を参照されたし)
性年代や地域など各属性の対象者の比率が全体で合っていれば問題ないと思うかも知れないが、そうではない。例えばWeb調査では、高齢層を人口構成比にあわせて集めても、インターネットに関するリテラシーが高い人たちばかりになってしまう可能性がある。そのようなサンプルを組み込んで全体のサンプルを人口構成比にあわせてつくっても、調査によっては結果の歪みが大きくなり、時には、高齢層ほどネットリテラシーが高い奇妙なサンプルになってしまうこともある。
属性だけでなく、思想・宗教などの定性的な側面も含め、全てにおいて一定の誤差の範囲内に収まるような、母集団からの縮図となるようなサンプルをつくることができる唯一の方法が無作為抽出である。これは世論調査をつくりあげてきた先人たちから受け継がれてきた重要な知見であり、科学的かつ論理的な結論である。
自動音声応答通話(オートコール)を使った調査を、「世論観測」という新しい手法として規定し、世論調査ではないと明確に断言した理由の1つはここにある。オートコール調査のサンプリングは無作為抽出とはいえないからだ。調査対象の電話番号は無作為抽出(RDD法)で作られているから問題ないのでは、と思うかもしれないが、RDD法による調査のサンプリングは、固定電話の場合、無作為抽出した電話番号にかけた後、電話口に出た人にお住いの有権者数を聞き、その中から調査対象になってもらう人を無作為抽出するところまでやって完成する。オートコール調査は電話口での無作為抽出ができないので、調査の回答者は電話口に出やすい人に偏ってしまうのだ。(オートコールによる調査を世論調査と呼べないもう1つの大きな理由は回収率の低さだが、その説明は稿を改めたい)
オートコールを使った調査を、世論調査だと誤解を招くような形で報道し、数値(%)の大きさを取り上げて世論調査のように分析している記事を目にすることがあるが、それは正しい使い方ではない。せっかく素晴らしい調査手法なので、その論理と特性を正しく理解して活用されるよう、引き続きこの日経リサーチレポートを通じて情報発信していきたい。
(世論調査部長 佐藤寧)
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