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「調査」と「観測」~世論のゆくえ「世論観測」はじめました(2)結果はなぜ違うのか?

 今春実施した日経電話世論調査と世論観測の結果を比較すると、同じタイミングで実施した調査であっても、かなり結果が異なっていることに気が付く。各項目の数値(%)が異なるのは当然(これまでのコラムをご参照ください)としても、時系列での傾向が異なる部分もある。例えば、3月末から5月にかけての内閣支持率の変化をみると、不支持率が横ばいという傾向は同じだが、世論観測では、支持率が下落しているように見える。政党支持率の変動も一部で異なる。ここでは、そのような違いが発生する要因となる、世論調査と世論観測の違いを整理したい。

① サンプリング方法の違い
 世論調査は調査対象者が有権者の縮図となるよう、固定電話の電話口で、居住者の中から1人を無作為抽出しているので、偏りがない。これに対して、世論観測は電話口に出る人がそのまま調査対象者となるため、電話口に出やすい人に偏る傾向がある。

② 回収率の違い
 世論調査は回答サンプルをできるだけ設定サンプルに近づけるため、回収率を高める目的で、繋がらなかった電話番号や調査対象者が不在だった世帯に電話をかけ直すほか、できるだけ調査に協力してもらえるよう調査員が電話口で対象者を説得したりする。逆に、世論観測はそのようなことをしないので、対象者は協力的な人に偏る。

③ 設問や選択肢の違い。選択肢では読み上げの有無の違い。
 例えば、賛否を問う設問で、世論調査は「賛成ですか、反対ですか」と問いかけて、2つの選択肢から1つを選択してもらうが、そう問いかけたにもかかわらず、選択肢を選べない・選ばない人については(わからない・無回答)と記録して集計する。一方、世論観測は賛成・反対のほかに、「答えたくない」「わからない」といったそれ以外の選択肢も読み上げて選択させている。

 特に、日経電話世論調査は内閣支持率について、最初の設問で支持・不支持の態度を表明しなかった人に対して、同じ質問を重ねて聞き、その回答を足し合わせた結果を内閣支持率と定義して公表しているが、世論観測は重ね聞きなどは行っていない。

 また、世論調査は政党支持率を調査する際、政党名を読み上げず、支持政党を表明しなかった人に対しては「好意を持っている政党」を聞いて、その回答を足し合わせた結果を各政党の支持率と定義して公表しているが、世論観測は政党名を読み上げる一方、好意政党の重ね聞きは行っていない。

 市場調査では、選択肢を読み上げない設問を「純粋想起」、読み上げる設問を「助成想起」と呼んでおり、その回答傾向が大きく異なることが知られている。内閣の支持・不支持や支持政党を問う設問には、世論調査と世論観測でこのような違いがあるため、特に政党支持率の回答傾向が日経定例世論調査と今回の世論観測とで異なったと考えられる。

 ①と②は代表性のある世論調査か、そうでない調査かという違いの問題であり、数値が一致しなくても当然といえるが、それだけの違いであれば、時系列的な傾向は世論調査と世論観測がもっと一致してもよいはずだ。

 しかし、③のように、テーマは同じであっても同じ設問とは言えない場合、時系列的な傾向は必ずしも同じにはならないことが分かる。ただし、これはオートコール調査や世論観測に限った問題ではなく、オペレーターを使った調査でも、設問文や選択肢を「読み上げ」に変えれば同様のことが起きることが想定される。オートコール調査や世論観測の特性と勘違いされないよう、注意していただきたい。

 世論観測はできるだけ調査対象者に負担をかけない設計にするため、重ね聞きは採用しなかった。また、調査手法の特性上、必ず選択肢を読み上げた上で、選んでもらう必要があるため、選択肢を読み上げないこともある世論調査と全ての設問文や選択肢を同一にすることはできなかった。
 今回は2つの異なる結果が出たが、それが問題なのではなく、異なる手法で多角的に世論を捉えてみると、異なる傾向が出ることがあるということを示したに過ぎない。これは新聞社によって世論調査の結果が異なるのと同じことだ。世論はたった1つの調査で明らかにできるほど単純なものではない。様々な手法で多角的に捉えていくのが望ましいのではないだろうか。

(世論調査部長 佐藤寧)




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日本経済新聞電子版 2017年7月25日
「内閣支持率、なぜ各社で違う? 「聞き方」で差異 日経は支持・不支持高く」

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