「調査」と「観測」~世論のゆくえ「世論観測」はじめました(3)携帯と固定はなぜ7対3なのか
電話世論調査はかつて固定電話だけを対象に実施していた。2016年、これに携帯電話を加えるときに問題になったのは、別々に実施した固定電話調査と携帯電話調査をどのように合算して(混ぜて)集計するのかという点である。
同年、世論調査協会やマスコミ各社が共同で実施した携帯電話RDDの実験調査*には当社のほか、大手新聞社やNHKなど複数の報道機関が参加した。調査手法については内容が広く公表されたため、共通の見解となったが、固定電話と携帯電話の調査結果をどのように混ぜ合わせるかは課題として残され、各社独自の研究・知見に基づいてノウハウが形作られていった。当社以外の多くは**、米国の先進事例などを参考に、携帯電話と固定電話という2つの別々のフレーム(デュアルフレーム)に対する調査ととらえ、これを一定の論理に基づいて統合するという考えを取っている。
一方、当社の考えはもっとシンプルだ。固定電話も携帯電話も関係なく、すべての電話番号から無作為抽出を行い、抽出確率の違いによる補正だけを行う***。携帯電話と固定電話の比率は保有台数などに基づいてあらかじめ規定するのではなく、どちらの電話のほうが利用しやすいのかといった状況まで織り込んだ上で、自然の成り行きによって定まるという考え方だ。この考えに基づけば、携帯電話と固定電話の比率は電話の利用実態を反映していると言え、仮に今後、固定電話の利用が更に減っていき、携帯電話の利用が更に増えていっても、自然とその状況が比率に反映されることになる。
直近(ただしコロナ自粛の影響を受ける前)の日経電話世論調査における携帯電話と固定電話の比率(抽出確率補正後)は、携帯7対固定3となっている。世論の実態に近づけるために、当社の世論観測もこの携帯7対固定3の割合で集計することとした。今回実施した調査では携帯電話と固定電話のサンプルを同数獲得していたため、集計時に携帯7、固定3に調整されるようなウエイトをかけることで対応した。
もし今後、定期的に世論観測を実施するなら、はじめから携帯7対固定3の割合でサンプルを獲得しておけば、ウエイトをかけずにシンプルに結果を集計できる。ただし、世の中の変化にあわせて、この割合も見直していく必要があるだろう。
ただし、世論観測という観点で言うと、割合に拘ることは実は本質的にはあまり意味がない。いくら割合を実態にあわせてもサンプルの代表性が確保できるわけではなく、いずれにしても偏ったデータを扱っていることに変わりがないからだ。科学的には小さな拘りにすぎない。
しかし、世論調査や今回のような世論観測の手法には、科学的な正しさだけではなく、一般の人にもわかるような説得力も必要だ、というのが筆者の考えだ。かつて固定電話だけを対象に世論調査を実施していたとき、様々な検証結果から携帯電話を混ぜなくても調査の精度は十分に保たれている、という科学的結論が出ていた。しかし、世間からは携帯電話を含めない世論調査なんて信用ならないという声が多くあがっていた。
当時、世論調査を携帯電話を含めた調査に切り替えても、データの正確性向上という意味での貢献はほぼなかったが(ただし、現在では状況が異なり、携帯電話を含めた調査でなければ世論を捉えることは困難になっている)、携帯電話を調査対象に含めることで世論調査の信ぴょう性は格段に上がったわけで、これは大きな成果と言えるだろう。
世の中で固定電話の利用が減り、携帯電話の利用が拡大している中で、携帯電話と固定電話を同数調査して単純に混ぜることには疑問を持つ人も多いと思う。携帯と固定の比率を科学的な論拠に基づく7対3とすることで、調査の信ぴょう性も高めたいというのが日経リサーチの考えである。
(世論調査部長 佐藤寧)
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* このレポートの25ページ目以降に記載がある。
世論調査協会 2015年3月 携帯電話RDD実験調査結果のまとめ
http://www.japor.or.jp/pdf/RDD_Report.pdf
** 例えば、
福田昌史 固定電話と携帯電話を対象とした電話調査の導入と推定値の評価 行動計量学 44(1), 85-94, 2017 ※読売新聞社
萩原潤治 電話世論調査 固定電話に加え携帯電話も対象に 放送研究と調査 2017年5月号 ※NHK
では、デュアルフレーム形式で、携帯電話と固定電話の比率は1対1にしているとある。
*** 当社の手法については、下記論文で詳しく紹介している。
槙純子 シングルフレームによる固定電話・携帯電話併用式RDD調査 社会と調査 第18号, 2017年:62-73
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