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「調査」と「観測」~世論のゆくえ 世論調査のルール(3)回収率を高めること

回収率とは抽出した調査対象者を分母として、何パーセントの人が回答したのかを示す割合である。回収率は調査の品質を表す数値として、古くから重用されてきた。抽出したリストが完璧に母集団の縮図であったとしても、回収率が低ければ、回答サンプルが偏る可能性が高まるためだ。

回収率は長期的に見ると、年々低下傾向にあるとされる。内閣府の世論調査は1947年の開始直後は回収率80%超が当たり前であったが、年々低下して現在では50%台となっている。電話調査も詐欺電話などへの警戒感からご協力いただける方が減ってきており、回収率が下がっているのが実情だ。突然の電話に警戒するのは当然のことで、調査の趣旨を調査員が丁寧に説明して調査対象者にご理解いただき、調査にご協力いただけるよう地道に努力することが重要になっている。この努力を怠ると、対象者は突然の電話でもご回答いただける無警戒な方の集団になり、結果が偏ってしまう。

しかし、回収率が高いことはイコール品質が高いことではない点にも注意が必要だ。例えば、回収率を高めるため、1問だけでもいいからと強引に回答を得たのでは、回収率が高まったとしても、その解答サンプルは無回答が不自然に多い、より偏ったサンプルになってしまう。また、比較的回答が得られやすい年配層からの回収に注力することで回収率を高めようとしても、それは年配層に偏ったサンプルになってしまう。

回収率という指標は、調査にご協力いただく努力をした結果として表れた数値を評価すべきであり、回収率を高めること自体を目的化してしまっては、むしろ調査の品質の悪化に繋がりかねず、そこが取り扱いの難しいところだ。回収率の数値はどれくらいあればよいのかという絶対的な基準もない。

そもそも、電話世論調査で用いられているRDD法の場合、回収率の定義や性質がかなり複雑なので、公表されている世論調査の回収率はもはや、他の調査手法による回収率と比較できるような数値になっていない。以下に詳しく説明しよう。

RDD法のサンプリングは電話番号リストを作成した段階では未完成で、その後、調査対象となる有権者を決定してはじめて完成する。RDD法における回収率の真の分母は、作成された電話番号リストの背後にいる調査対象となる有権者の数である。しかし、この数は確定できない。架電をしても電話に出てもらえないケースがあることに加え、電話した先に実際に有権者がいるのか、(電話番号が会社などのもので)いないのか、わからないためだ。従って、報道各社がRDD法の調査で回収率を公表する場合には、分母となる数値をそれぞれ定義したうえで提示している。

ただし、この定義は論文などに掲載されることはあっても、あまり表立って提示されることはない。因みに、日経世論調査の場合、固定電話の分母は「通話をして、有権者がいると確定した数」、携帯電話は「通話ができて、明確に法人利用など対象外である場合を除いた数」としている。ここの定義が各社で異なり、かつ「有権者がいる」とみなす場合の定義も異なっているため、もはや回収率の大小を異なる調査間で比較することは無意味である。また、同じ世論調査で回収率の推移をみるにしても、RDD法の場合、分子となる回答者の数が毎回変動するだけでなく、前述のように分母の部分も確定できないため、解釈はなかなかやっかいである。

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