5割以上が気候変動に対応した目標を設定目標達成のための計画の策定や責任者の設置も
日経リサーチは日本経済新聞社が2019年に初めて実施した「SDGs経営」調査の結果を独自に分析しました。「SDGs戦略・経済価値」「社会価値」「環境価値」などテーマごとの日本企業全体の取り組み状況や、高評価企業の取り組み事例について紹介します。掲載は毎週木曜日、10回を予定しています。
今回は環境課題への各企業の取り組みの中から「気候変動の緩和および適応」について紹介します。
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近年、日本で大雨・洪水発生のニュースをよく目にするようになってきた。世界でも熱波や干ばつ、大型ハリケーンの上陸などが頻発しており、背景には気候変動があると言われている。気候変動には自然の要因と人為的な要因があり、自然の要因には海洋の変動、太陽活動の変化など、人為的な要因には人間活動に伴う温室効果ガスの増加や森林破壊などがある。
これら気候変動の人為的要因を減らすための取り組みが緩和策である。生産工程を工夫して使用電力量を抑える、物流を温室効果ガス排出の多い飛行機から鉄道に切り替える(モーダルシフト)などがあげられる。
もっとも、緩和策が効果を発揮するには一定の時間がかかる。その間、気候変動の影響に対して自然や人間社会のあり方を調整していくのが適応策である。具体的には、気温の上昇に応じて農産物の品種改良や作付け時期・種類を変えたり、大雨による河川の氾濫に備えてインフラ整備や警戒避難体制を整えたりする対応がある。
数値目標の設定、製造業と非製造業で開き
企業は気候変動にどう対応しているか。2019年に実施した『日経「SDGs経営」調査』で、「気候変動の緩和および適応についてどのような取り組みを行っているか」を複数回答でたずねたところ、半数以上の企業が「会社全体の数値目標を設定」「目標達成のための具体的計画を策定」「目標達成のための責任者を設置」と回答した。
最も回答が多かったのが「会社全体の数値目標を設定」(59.7%)で、業種別にみると製造業が78.8%、非製造業が40.4%と大きな差が出た。非製造業の中でも建設業(60.0%)と運輸(68.2%)が高い一方、倉庫・不動産(33.3%)、通信・サービス(26.2%)、小売り・外食(28.6%)などは3割前後と、業種によるばらつきの大きさが目立った。
また、「会社全体の数値目標を設定」は「売上高1兆円以上」の87.9%に対し「売上高1000億円未満」は17.4%にとどまり、売上高の大きい企業ほど高い傾向がみられた。
図1 気候変動の緩和および適応について行っている取り組み
温室効果ガスの削減に長期目標
実際にはどのような取り組みが行われているのだろうか。
「気候変動の緩和策」については、再生可能エネルギー利用の推進、アイドリングストップや省燃費運転の励行、共同配送など物流の効率化、植林活動、具体的な温室効果ガス排出量削減目標の設定などがあがった。2050年までに温室効果ガス排出量を80~100%削減するなどの長期目標を掲げる企業が多い。
「気候変動の適応策」では、気温や水位の監視システム、調達先の分散化、BCP計画の策定などがあがった。テレワークによる事業継続は、気候変動による災害時だけでなく、今回の新型コロナウイルス感染症拡大のような事態にも有効な対策といえる。様々なリスクが現実となる今、企業には幅広い備えが必要とされている。
■事例:気候変動の適応策
建設 | ・高温環境下における作業の暑さ対策として、ファン付作業服の利用 ・施工現場での熱中症対策として、基準値を超える温湿度や風速を検知すると表示灯や管理者へのメールで警告を通知するセンサーを設置 ・海面上昇に対応可能な海上都市や深海未来都市の研究・開発 |
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食品 | ・海洋生態系の変化によるリスク対策として、陸上養殖など完全養殖の実証実験を実施 ・主要原料の調達に影響が生じた場合に備え、代替原料を用いた製品を開発 ・異常気象による交通インフラン寸断に対して、PETボトルキャップなど供給資材の共通化 |
商社 | ・バナナ事業で約15カ国に調達先を分散化 |
航空 | ・気候変動対応の側面支援として、国際線定期便を使用して上空の温室効果ガスデータを収集 |
サービス | ・全国の事業所に非常用発電機、非常用蓄電池を設置 |
非鉄・鉄鋼 | ・海岸に近い拠点で防潮堤の強化や避難所設置 |
(「SDGs経営」推進プロジェクト 小山智子)
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次回のテーマは「人権への取り組み」です。
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