企業の人権尊重体制の構築海外拠点の有無が実施を左右か
日経リサーチは日本経済新聞社が2019年に初めて実施した「SDGs経営」調査の結果を独自に分析しました。「SDGs戦略・経済価値」「社会価値」「環境価値」などテーマごとの日本企業全体の取り組み状況や、高評価企業の取り組み事例について紹介します。掲載は毎週木曜日、10回を予定しています。
今回は社会価値への各企業の取り組みの中から「海外拠点の有無と人権への取り組み」について紹介します。
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第2回日経「SDGs経営」調査は、外国人労働者の人権問題の設問(EQ29)を新設した。外国人技能実習生の劣悪な労働環境がクローズアップされたことが背景にある。非人間的な扱いが日本国内で発生していたことに、衝撃を受けた人は少なくないだろう。ほかにも、医学部入試における女子受験者への差別が発覚するなど、明らかな人権侵害が国内で起きている。日本はこうした問題に自分ごととして向き合う必要がある。
企業が主体となって行動する時代
問題解決のための行動主体は、これまで国連や各国の行政機関を想定してきた。しかし、SDGsは各ゴール達成のための取り組みを企業にも求めている。人権への注目が集まる中で、企業の果たす責任や役割を重視する見方も強まっている。例えば、英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)は、英国内で事業活動をする一定規模以上の企業に対して、人権に関する報告書の開示や研修の実施を求めている。この法律はもちろん日本企業に対しても適応されており、企業のHPでは人権に対する姿勢を宣言したり、取り組みを公開したりする事例が散見される。このように、海外で事業をする際には人権に関する何らかの行動を求められる場合があるが、海外展開する企業とそうでない企業では取り組みに差があるのだろうか。第1回日経「SDGs経営」調査の結果を使用し、海外拠点の有無の観点から、人権尊重への取り組みについて実施状況を尋ねたEQ27を分析する。
海外拠点の有無、取り組みを左右
EQ27には人権尊重体制の構築につながる12の選択肢がある。その中で「実施している」という回答が多かった項目を図に示した。「人権の尊重に関する方針の明文化」は、全体の71.0%が「実施している」と回答している。これに続く高い実施率の「人権相談窓口の設置」(58.7%)、「人権に関する教育・研修を実施」(57.1%)と比べても、「人権の尊重に関する方針の明文化」は多くの企業が実施している基礎的な取り組みであると言える。
図、EQ27.人権の尊重についてどのような取り組みを実施していますか。
次に、海外拠点の有無の観点から回答を分析する。AQ3で海外に拠点や連結子会社を持つと答えた企業(海外拠点あり)は調査に回答した637社中、511社(80.2%)だった。残る126社(海外拠点なし)は国内中心に事業を展開しているとみられるが、両者の差ははっきりとしている。「人権の尊重に関する方針の明文化」では「海外拠点あり」の80.8%が「実施している」と回答しているのに対し、「海外拠点なし」ではそれが31.0%にすぎず、両者の間には約50ポイントもの差が生じている。「海外拠点なし」は「人権相談窓口の設置」、「人権に関する教育・研修を実施」でも、それぞれ30.2%、23.0%にとどまった。
海外拠点の有無によって回答傾向が大きく変わることがわかった。海外に拠点を持たない企業は、体制構築が二の次となっている可能性がある。人権尊重は海外の話ではなく、身近な問題である。労働問題や性差別問題などは企業活動に深くかかわる。企業は社会の成員として責任と役割を自覚し、問題の解決に向け行動する必要がある。
「SDGs経営」推進プロジェクト 矢部 東志
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次回のテーマは「ビジネスとSDGsとの紐づけ実績と課題」です。
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