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トップメッセージはSDGs経営の推進に本当に有効?

日経リサーチは日経「SDGs経営」調査、全国市区「SDGs先進度調査」など、企業や自治体の取り組みを評価する様々な調査を実施しています。喫緊の課題になっている気候変動対策、カーボンゼロ達成の取り組み状況や先進事例、SDGs経営で得られるアウトカムを紹介します。掲載は6回を予定しています。
今回は、トップメッセージ発信の効果について紹介します。

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「SDGs経営」推進プロジェクト
大森崇史

 

ここ数年、円形のカラフルな「SDGsバッジ」を着けた企業の経営トップが、インタビューやセミナーなどの場でSDGsについて語るのを目にする機会が増えました。トップメッセージの発信は、企業としての理念や姿勢、トップの想いなどを共有できることから、SDGs経営を推進するための有効な手立ての一つと言われています。経営トップだけでなく、従業員全員にバッジを配布し着用を義務付けることで、SDGsに対する意識が高い企業であることをステークホルダーに対しアピールする企業もあります。

 

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目にする機会が増えたSDGsバッジ
(国連本部では10個35.00ドルで販売)

 

一方で、表面的にはSDGsに取り組んでいるようにみせかけて、実態が伴っていないことを表わす「SDGsウォッシュ」が問題となっており、そのようにみなされた企業は信用を失墜させることとなります。そこで、SDGsに関するトップメッセージを発信した企業のSDGs経営の実態は本当に進んでいるのかを、日経「SDGs経営」調査(以下、SDGs経営調査)の結果から分析してみました。

新たにトップメッセージを発信した企業のSDGs経営は大きく前進

SDGs経営調査は2019年から始まり、今年で3回目の実施となりました。「経済価値」、「環境価値」、「社会価値」、「ガバナンス」といった分野における企業の総合的な取り組みを、総合偏差値として評価しています。
トップ自らがSDGsへの貢献を明確に打ち出した企業とそうでない企業のSDGs経営の推進状況の違いをみるため、企業を4つのグループに分けて総合偏差値を比較してみました。
A.「2019年には発信していなかったSDGsに関するトップメッセージを2020年に新たに発信した企業」、B.「2019年以前から発信していた企業」、C.「2019年も2020年も発信していない企業」、D.「2019年は発信していたが、2020年は発信しなかった企業」――です。
第1回調査から第2回調査にかけての総合偏差値は、「新たに発信した企業」が4グループの中で最も大きく上昇しました。(図表1) 多くの回答企業がSDGsの取り組みを加速させる中で、相対的な評価である総合偏差値が2.3ポイント上昇したことは大きなプラスの変化です。「以前から発信していた企業」よりも大きく上昇したことから、トップメッセージは、新たに発信した直後、組織に特に強い刺激を与え、SDGs経営が大きく前進する転機となっていることが推察できます。「発信しなくなった企業」の総合偏差値が最も大きく低下していることからも、トップメッセージの発信は、SDGs経営を推進していく上で重要であると言えそうです。

図表1:トップメッセージの発信状況の変化とSDGs経営調査総合偏差値の変化
SDGs関するトップメッセージの
発信の変化
発信有無の回答状況 総合偏差値の
変化幅
2019年調査 2020年調査
A.新たに発信した企業 × ▲+2.3
B.以前から発信していた企業 ▲+0.8
C.発信していない企業 × × ▼-0.3
D.発信しなくなった企業 × ▼-1.0
※総合偏差値の変化幅は、A~Dそれぞれに属する企業の第1回調査から第2回調査の変化幅の平均値
※第1回(2019年)調査、第2回(2020年)調査いずれも回答した464社を対象

トップメッセージを株式市場も好感、新たに発信した企業はTOPIXを上回る

次に、SDGsに関するトップメッセージの発信を、投資家はどのように受け止めているかを分析します。2018年6月末を100とした過去3年間の株式時価総額の推移をみると、2021年5月末時点では、「新たに発信した企業」が114.4、「以前から発信していた企業」が109.8、「発信していない企業」が85.9、「発信しなくなった企業」が92.2となりました。(図表2) TOPIX(東証株価指数)の111.1を「新たに発信した企業」が上回り、株式市場においてもこのグループが評価される結果となりました。SDGsに関するトップの新たなメッセージ発信を機に、SDGs経営を加速させ企業価値を向上させていく姿を投資家がイメージし、その期待や思惑が時価総額の上昇につながったと考えられます。なお、「発信しなくなった企業」の時価総額は、新型コロナウイルス感染症の流行により経済が大きな打撃を被った時期に大きく下落しているものの、その後の回復力(レジリエンス)は他と比較して高い水準となりました。当然ながら、投資家は企業のSDGs対応のみで投資判断を行っているわけではありません。しかし、2020年調査の時点でSDGsに関するトップメッセージの発信を行っていた2グループ(A、B)と行っていない2グループ(C、D)には時価総額の推移で大きな差が開いており、トップメッセージの発信は、投資家の投資行動にもポジティブな効果を与えていると言えます。

図表2:トップメッセージ発信状況の変化と時価総額の推移

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※2018年6月~2021年5月。2018年6月=100とするA~Dそれぞれに属する企業の毎月末時点の時価総額平均
※第1回(2019年)調査、第2回(2020年)調査いずれも回答した464社を対象

2つのデータ分析により、SDGsに関するトップメッセージの発信はSDGs経営の推進や投資家へのアピールに有効な手段であることがわかりました。特に、「以前から発信していた企業」より、「新たに発信した企業」の方が、トップメッセージから享受できるメリットは大きいという結果は興味深く感じました。
このことからも、「以前から発信していた企業」も、一度発信した内容のままにしておくのではなく、環境の変化に応じてトップメッセージを更新して再度新たに発信することが起爆剤となり、社内外にポジティブなインパクトを生み出す可能性も考えられます。
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SDGs経営調査は、「SDGs戦略・経済価値」、「環境価値」、「社会価値」、「ガバナンス」の4つの柱から構成され、SDGsを経営に結びつけ企業価値の向上につなげる企業を評価しています。(図表3)

図表3:SDGs経営調査の構成

大分類 中分類
SDGs戦略・
経済価値
SDGsに関する方針
報告とコミュニケーション
推進体制・社内体制
ビジネスでの貢献
業績
環境価値 環境方針
温室効果ガス
消費電力
廃棄物
水資源
気候変動、資源、生物多様性
脱炭素に向けた取り組み
社会価値 人権の尊重
消費者課題への対応
社会課題への対応
労働時間・休暇
ダイバーシティ
ガバナンス コーポレートガバナンス方針
取締役会と指名・報酬委員会
役員報酬
執行と監督の分離
ガバナンスの実効性と継続性
※中分類は変更の可能性あり
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ベンチマークレポートでは、中分類に加え、さらに詳細な「経営トップによる発信」、「気候変動関連リスク・機会の開示」、「サプライチェーンにおける人権尊重」、「スキルマトリックスの開示」といった小分類ごとの分析データも記載しています。(図表4) 評価結果を同業他社などと比較し自社の現状を相対的に把握することで、今後のSDGs経営推進の指針とすることが可能な内容となっています。調査へのご回答とともにぜひご活用ください。その他SDGs関連サービスも含め詳細は以下のページをご覧ください。
※小分類は変更の可能性あり
https://www.nikkei-r.co.jp/service/management/sdgs/

図表4:ベンチマークレポート(サンプル)

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