“お客様は神様”はホント?日本企業のCX理解、誤っていませんか? -「CX向上セミナー」CX最前線アメリカから現地報告(1)
アメリカでは「ダメなCXは、ダメな製品より悪い」が共通認識
第1回はCX視点でビジネスを捉えるにはどうするかに焦点をあてる。
今、アメリカのCX関係者の間では「ダメなCXは、ダメな製品より悪い」( Bad CX is worse than a bad product.)ということがほぼ共通認識となっている。いくら良い製品でも、体験によってはすべてが台無しになる可能性があると言う意味である。
実際、たった1回きりの悪い体験でブランドと疎遠になることもあれば、SNSでその体験が拡散したりすることも珍しくはない。体験は事業にとってクリティカルであり、事業の在り方自体を根底から見直す動きが出ている。
「お客様は神様」という呪縛から脱却し、CX視点で事業を見直す
日本企業には「お客様は神様」という考えがいまだに根強く残っているように思う。だが、誤解を恐れずに言えば、顧客視点は重要だが、「お客様は神様」という姿勢はCXの観点からは問題があり、日本企業はこの呪縛から脱却する必要がある。それはなぜか。
CX=Customer Experienceにおいて、往々にして日本企業はカスタマーを重視しがちだが、CXで注目すべきはExperienceの方だ。だが、現状、日本企業は一人一人の顧客を大事にしすぎて、全体にどういう体験を提供すべきかが抜けているのではないか?そのため、CX視点で事業を回していくことが出来にくくなっていると考える。
CXが取っつきにくいとすれば、それは従来からの概念を引きずっているからではないか。
例えば、Product・Price・Place・Promotionというマーケティングの4PもCX視点で見ると、カスタマージャーニーのような時間軸での捉え方、パーソナライゼーションに代表されるマス消費からの脱却、などをフォローしきれず、時代にそぐわない点が多いように思う。また、セールスやデジタルマーケティングで今も使われているマーケティングファネルの考え方も、直線的で一部しか見ていないところもあり、CXをあてはめることを難しくしているのではないか。こうした枠組みが全く使えないわけではないが、CXはこれらとは違う次元にあることを理解しておくべきだ。
CXを考える上でカスタマージャーニーは重要な役割を果たし、下図のように顧客の導線を描いたり、タッチポイントを整理したりして、ペインポイントやニーズを探り、体験を再設計していくことに活用できるが、どうもその絵を完成させることが目的化してしまっているケースも多いように感じる。
CXをデザインし、コントロールする
カスタマージャーニーを作成する上で重要なのは、現状を俯瞰するだけにとどまらず、その先の自分たちの理想のカスタマージャーニーをデザインし、そこに意図的に顧客を流していく。それがカスタマージャーニーの本当の使い道ではないかと思うし、正にCX視点でのビジネスと言えるのではないか。
ここからは、世界的な企業の3つの事例を紹介しよう。
▼ペプシコ:飲料販売ではなく、水分補給の「体験」を提供するビジネス
ペプシコ(PepsiCo, Inc.)の「ソーダストリーム・プロフェッショナル」はオフィスや大学に炭酸水の製造機を設置し、顧客が持参したマイボトルに飲料を入れて水分補給してもらうというBtoB型ビジネスである。
ペプシコがサービス開始前に、人はどういう水分補給を求めているのかリサーチしたところ、物理的に水分を摂取するだけでなく、人によって手段や嗜好に違いがあり、その上でリフレッシュや楽しさといった感情も大事な要素であることが分かったという。
ペプシコはソーダストリームを新しい飲料の提供ではなく、「どういう水分補給の体験を提供できるのか」と捉えたわけで、これが正にCX視点で考えるということである。
設置したオフィスや大学にとっても、パーソナライゼーション、ストレス軽減、ウェルビーイング向上といった効果が想起でき、エコ意識の高まりにもフィットしていることから、顧客側だけでなく、企業やサプライチェーンも含めた全部にとってビジネスとして収まっている。同社のグローバルCMOは「楽しさを忘れてはいけない」「新しいアイデアはパートナーのコストや自社が取り組む意義などとも一番見合ったところに落とし込んでいく」と述べているが、それがCX視点でのビジネスのポイントだと思う。
▼Google Cloud×TeamViewer:みんなをストレスフリーに、業務効率化からのCX向上
生鮮食料品のデリバリーサービスは非常に便利で、私自身もよく利用するが、注文した商品が届かなかったり、別の商品が来たりとミスが多い。これは店舗の多くで店員が端末片手に陳列棚から商品を探してきてパッキングするからで、起こるべくして起こるミスである。
Google Cloud×TeamViewerが提案する小売り向けのソリューションは、Google Glassとスキャナーを使ってバーコードを読み取り、商品管理やデリバリーのサポートを行うサービスである。
この事例のように、CX向上を包括的に捉えた場合、内部に目を向けて手を打つ方が良いことがままある。ミスが発生すると、顧客への返金対応などで、事業者にはコストがかかる。また、ミスが起きやすい、ある種ストレスフルな職場は、従事者の働きやすさからも問題がある。その点でこのソリューションはスタッフを心身ともにハッピーにさせることに目を向けた上で、カスタマーもハッピーかつストレスフリーにさせ、それにより収益性が高められる。
ミスを誰かの責任にするのでなく、仕組みの問題と捉え、そういう視点で全体の設計を見直して手を打つ。それがCXを回していくための神髄ではないかと考える。
▼ネスレ×Soul Machines:デジタルヒューマンがインタラクティブにあなたのクッキー作りを支援
カスタマージャーニーのデザインから発展し、顧客の感情の起伏までうまく誘導しようという、やや近未来的なCX事例として、ネスレ(Nestlé Ltd.)とニュージーランド発のスタートアップSoul Machinesが共同開発したクッキーコーチを最後に紹介する。
ネスレはクッキーの完成品だけでなく、材料である粉製品も販売している。そこで購入者に対してPCを通じ、AIを使った、外見上は人間と違わないデジタルヒューマンがクッキー作りを教えてくれるチャットボットを開発した。ルースという名前のこのデジタルヒューマンは、よりインタラクティブでパーソナライズされた体験を提供する目的で開発された。
ネスレの出発点は、あくまで体験の提供であり、ネスレはさらに先を見据えているように思う。つまり、自社製品を使いながら、インタラクティブかつリアルタイムで、究極のパーソナライズされた体験を生み出していく、そういうカスタマージャーに向けた最初の一歩を踏み出したのではないか。
このデジタルヒューマンは単にテンプレ通りの反応をするのではなく、人間が発した言葉の文脈を理解し、それにどう反応するか、自分はどういう表情、声色で言葉を返すべきか、といったことを実現しようとしているそうだ。さらに将来的には、人間の表情や声色、しぐさを読み取り、その結果を踏まえた反応や、精神面で相手をポジティブな方向へ導く、コーチングも可能になると予想されている。
そうした次の世界を見据え、ネスレとSoul Machinesは、対峙している相手が人間だからこそ生まれる感情や関係性なども踏まえてシステムを設計しようとしているように感じる。デジタル化やAIの発展が加速しているが、相手が人間だという観点が抜けると、テクノロジーに振り回されるだけで機能しない“Bad CX”になる恐れがある。全体はロジカルに設計しつつ、相手は人間だという意識をいかに大事するか、次回以降でさらにお話したい。
以上
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