医師に聞く 製薬会社ブランド評価調査(2) がん領域の企業ブランド力向上につながるMRの評価とは
前回は血液がん領域で医師が高く評価した製薬3社(中外製薬、ノバルティスファーマ、セルジーン)について、それぞれどのような点が医師に評価されているのかを見た。
図1 MRの情報提供頻度と満足度
今回は医師とのコミュニケーション活動において欠かせないMRについて見ていく。MRの存在は企業ブランドの価値向上にも関わってくる。本調査ではMRの評価も聞いている。
図1は3社のMRの月あたりの情報提供回数と満足度である。
セルジーンのMRは他の2社に比べ、情報提供頻度が低いが、満足度は高くなっている。これはセルジーンのMRの情報提供価値が高いことを表していると思われる。
表1は3社のMRの項目ごとの評価である。セルジーンは「自社製品の知識」に加え、「他社製品の知識」も豊富であるという評価が高い。
表1 MR評価(抜粋)
セルジーンはレブラミド🄬のように、ある造血器腫瘍で主要なレジメンに欠かせないキードラッグを有している。そのため、MRには医師からレジメンとして組み合わされている他社の薬剤特性の理解が求められる場面が多くあることが想定できる。よってMRは現場からの期待に応えるため、より高い教育レベルを伴った説明を実施していることが反映されたものと予想される。
ノバルティスファーマは「担当領域に対する知識が豊富」なことに加え、「依頼事項への対応が速い」という評価も得ている。企業の製品開発力に加え、知識や対応力というMRへの評価がノバルティスファーマの魅力につながっているようだ。
それではこのような企業の取り組みやMRの活動が、企業のブランド力として医師にどのように効いているのか。稿を改めて、企業の信頼の向上につながる評価や活動とは何かを見ていくとともに、コロナ禍以降の医師の情報収集法についても見ていきたい。
調査概要
- 調査時期 2020年9月
- 調査対象 日経メディカル Onlineパネルに登録している医療従事者のうち、肺がん、乳がん、血液がんの各領域で過去3カ月以内に処方を行った医師
- 測定対象企業(50音順)
- 肺がん領域(10社):アストラゼネカ、MSD、小野薬品工業、第一三共、中外製薬、日本イーライリリー、日本ベーリンガーインゲルハイム、ノバルティスファーマ、ファイザー、ブリストル・マイヤーズスクイブ
- 乳がん領域(10社):アストラゼネカ、エーザイ、大鵬薬品工業、第一三共、中外製薬、日本イーライリリー、ノバルティスファーマ、ファイザー、ブリストル・マイヤーズスクイブ、ヤンセンファーマ
- 血液がん領域(12社):アステラス製薬(アステラスアムジェン)、アッヴィ、MSD、小野薬品工業、セルジーン、第一三共、武田薬品工業、中外製薬、ノバルティスファーマ、ファイザー、ブリストル・マイヤーズスクイブ、ヤンセンファーマ
回答数 肺がん 103人、 乳がん 100人、 血液がん 100人
質問数 20問(認知、イメージ、MR評価、情報提供経路、今後希望する情報提供経路等)
信頼の向上に結び付く開発力とMRの重要性
コロナ禍で求められる情報源のマルチチャネル化
前回は、血液がんの領域における中外製薬、ノバルティスファーマ、セルジーンのブランド総合力(MBI)と各項目の評価について見てきた。そこで、その評価が各社のブランド価値向上にしっかり結びついているか確認してみたい。その結びつきが弱ければ、せっかく得られている評価を医師との関係構築にうまく活かせていない可能性があるからだ。
ジャッカード係数※1(一致度)を使って、ブランド力を構成する「信頼度」とそれぞれのイメージ・評価項目の関係性を数値化し、各イメージ項目が指標にどれだけ寄与しているかを見ていく。
表2は企業や各社のMRに対する評価と信頼度との関係性が高い上位10項目を示している。一致度は信頼度の10段階評価の上位2段階を該当者として算出した。
セルジーンと中外製薬はMRの「自社製品の知識が豊富である」が最も信頼の向上に結び付いている項目に選ばれ、MRの重要性が裏付けられた。また、中外製薬は「優秀な製品を持っている」が、各項目の回答者の半数近くで「信頼」に結び付いており、信頼の向上に不可欠な要素となっている。
中外製薬の場合、ノバルティスファーマやセルジーンに比べ、上位項目と信頼の結びつきが強いこともわかった。「優秀な製品を持っている」「質の高い情報を提供している」のほか、MRの「人柄がよい」など上位項目はセルジーンと似ているが、「好感が持てる」など情緒的なイメージも信頼に結びつくなど、製品力に加え、MR個人の人としての魅力が信頼醸成に大きく寄与している。これもがん領域を幅広く手掛け、医師との関係性が強固になっている証であろう。
セルジーンは「差別化が明確な製品を提供している」が上位に入る。他社に比べ強いイメージであり、信頼にもしっかり結びついていることが重要である。
ノバルティスファーマは「優秀な製品を持っている」が最も信頼との結びつきが強く、「研究開発力がある」とともにR&D活動が信頼の向上に寄与していることがわかる。
ブランド価値を向上させるには、自社のブランド資産を十分に活用するとともに、自社の強み・弱みを理解してMRをはじめとするコミュニケーション活動を促進し、事業環境を整えていくことが重要である。
表2 信頼とのジャッカード係数(上位10項目)
セルジーン | ノバルティスファーマ | 中外製薬 | ||||||
項目 | 分野 | 係数 | 項目 | 分野 | 係数 | 項目 | 分野 | 係数 |
自社製品の知識が豊富である | MR | 36.0 | 優秀な製品を持っている | 企業 | 37.4 | 自社製品の知識が豊富である | MR | 48.8 |
質の高い情報を提供している | 企業 | 34.2 | グローバルな企業である | 企業 | 29.6 | 優秀な製品を持っている | 企業 | 48.0 |
優秀な製品を持っている | 企業 | 31.3 | 自社製品の知識が豊富である | MR | 28.6 | 質の高い情報を提供している | 企業 | 44.4 |
人柄がよい | MR | 31.3 | 人柄がよい | MR | 26.0 | 人柄がよい | MR | 44.2 |
グローバルな企業である | 企業 | 29.9 | エビデンスに基づいた正確な情報を提供してくれる | 企業 | 25.7 | 研究開発力がある | 企業 | 40.0 |
親しみやすい | MR | 29.6 | 研究開発力がある | 企業 | 24.8 | 好感が持てる | 企業 | 34.9 |
エビデンスに基づいた正確な情報を提供してくれる | 企業 | 28.1 | 親しみやすい | MR | 24.8 | 患者の視点を持っている | 企業 | 34.8 |
患者の視点を持っている | 企業 | 27.7 | 安全性情報提供、副作用発現時などの対応が迅速かつ的確である | 企業 | 23.2 | 製品の品質が高い | 企業 | 33.3 |
コンプライアンスを遵守している | 企業 | 25.2 | 製品の品質が高い | 企業 | 22.5 | 親しみやすい | MR | 32.7 |
差別化が明確な製品を提供している | 企業 | 24.5 | 経営が堅実である | 企業 | 22.0 | コンプライアンスを遵守している | 企業 | 31.9 |
マルチチャネル志向のウィズコロナ以降の情報源
現在のようなコロナ禍でMRは思うような活動ができず、情報を提供することが以前より難しい状況にある。それでは医師は今後どのような提供方法を望むのか。図2は製薬企業の情報源について、医師がコロナ発生前に情報提供を受けていたチャネル(今回調査対象とした血液がん領域のメーカー10社の回答平均)と今後の希望を聞いたものだ。
図2 医療従事者の望む情報源<コロナ発生前との比較>
MRはコロナ前後を通してニーズは高いが、MSLやWebセミナー、インターネットシンポジウムなどの要望が高まっている。
各社とも医師向けの情報提供活動は以前のように思うようにはできていないと思われるが、情報ニーズの高さを考慮すると、インターネットを含むマルチチャネルで情報を提供し、情報の必要性を感じている医師に自社の価値を伝えていくことが事業戦略上不可欠な要素となってくるだろう。
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※1 ジャッカー度係数(一致度)とは、その共通部分の元の個数を、和集合の元の個数で割ったもので、2つの集合がどのくらい似ているのか表す指標
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