イノベーションを起こすための未来洞察とは。そしてその手法は
未来は不確実なものであり、企業の事業展開においてその予想は容易なことではない。企業の進路を偶然のなりゆきに委ねるわけにいかない以上、未来に対してなんらかのアプローチをしていくべきなのだろうが、具体的にはどのような視点で進めていけばよいのだろうか。
変化が早く、多様化する一方の現代ビジネスシーンにおいて、可能な限りくっきりと近未来を洞察する力が求められている。そのための鍵となる「イノベーター理論」をもとに未来洞察について説明してみたい。
未来洞察とは、過去・現在の延長線上に未来を見ることではない
現代社会ではさまざまな分野の未来について、ある種の予想ともいえる情報が頻繁にメディアを通じて発信されている。多くの企業はそういった情報をベースとして、そこに自社の諸事情を重ね合わせて自社における未来予想を立てているのが現実だ。実際には予想するためのリソースとして「直感」や「経験値」も使われているものと思われるが、一般的には過去と現在の状況を総括・把握し、その延長線上に未来を描くという手法に頼っている。
こういった「未来予想」に対し、「未来洞察」は一線を画す概念である。未来洞察は当事者が主体性をもったうえで未来の変化を察知することであり、それは現在のマーケットの延長線上には作れないのだ。企業に内在するシーズを、どのような形でプロダクトにすればユーザーに対してどんなインパクトを与える可能性があるのか、というようなことを捉えるのが現代企業の大きな課題だが、そうした時には未来洞察という視点を持たざるを得ないのだ。
未来洞察を支えるイノベーター理論とは
イノベーター理論(「普及理論」とも称されるが、当ページでは「イノベーター理論」で統一する)は、新商品・サービスのマーケットへの普及とユーザーの関係性を理論化したものである。1962年に当時オハイオ州立大学の助教授であったエヴェリット・ロジャースによって提唱されている。未来洞察においてイノベーター理論の活用は極めて有効であるので、ここで概要を説明したい。
当理論では、マーケットに商品が普及していく時間軸に対して、普及段階ごとのユーザーを5つのグループに分類している(図)。それぞれのグループは普及初期から順に「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティー」「レイトマジョリティー」「ラガード」とラベリングされている。
イノベーターは、新しい情報に敏感で、「新しい」という価値だけで行動を起こすことができる。「革新者」ともいわれるこのグループの、全体に対する割合はたった2.5%にとどまる。
アーリーアダプターは、トレンドを掴もうという意識が旺盛だが、新商品やサービスがもたらす便益を考慮したうえで、購買に進む。よくキャズムという言葉を聞くが、アーリーアダプターからアーリーマジョリティ―に普及しないと、新商品やサービスが大きく売れることはない。そういった意味では、商品やサービスの普及の鍵を握るグループと言ってもよい。全体の13.5%を占める。
アーリーマジョリティーとレイトマジョリティーは、普及のピーク時に購買行動を起こすグループで、合わせて68%という圧倒的なボリュームゾーンを形成する。まさしく「普及した」と言わしめる状況をつくるグループなので、企業のマーケティング活動にも大きな影響をおよぼしてきた。ラガードは、商品やサービスを購入するスタンスが最も保守的なグループである。全体の16%を占める。
このイノベーター理論は、ポジショニングや市場のセグメント化など、マーケティングのさまざまなシーンで応用されてきた。それでは本稿のテーマである未来洞察にはどのように活用していけばいいのだろうか。
マサチューセッツ工科大学のE.V.ヒッペル教授は、多くのイノベーションのアイデアが、メーカー側ではなくユーザー側から発生していることを検証し、ユーザーが起こすイノベーションの可能性を説いた。この「ユーザー側から発生しているイノベーション」を自社のシーズと紐づけることが未来洞察であり、その点においてイノベーター理論は未来洞察のための有効なツールとなる。
イノベーション創出の鍵を握るイノベーターとアーリーアダプター
未来洞察にイノベーター理論を使う場合、必然的にイノベーターおよびアーリーアダプターに着目することになる。なぜならば、アーリーマジョリティが新商品を最も早く購入することはまずない。イノベーター、アーリーアダプターによる情報発信などにより、徐々にボリュームゾーンであるアーリーマジョリティやレイトマジョリティへの購買に移っていくからだ。
つまり普及のきっかけを作るのが、イノベーターやアーリーアダプターということになる。アーリーマジョリティとレイトマジョリティを対象とする「量」の市場価値を重視する従来のマーケティング手法では、イノベーション普及の未来を見通すことはなかなか難しい。
ところで未来洞察は過去や現在の延長線上に未来を見ることとは違う、ということは前述した通りだが、それはもとより過去や現在を無視することではない。まったくの「無」から未来が生まれるわけではないので、問題は「過去や現在をどう見るのか」に集約される。
ちなみに、このイノベーター理論の5つのグループは、ユーザーを単に〝新しもの好き〟の順に並べてそれを5等分したものではない。実際にはそのように勘違いされることが多いのではあるが、実はこの理論ではグループごとに行動特性が違うのだ。
イノベーターは新商品やサービスの購買行動の速さは突出している反面、商品・サービスを改良したり、新しい使い方を見つける力は思いのほか弱い。その一方でアーリーアダプターは商品やサービス開発時に意図された使い方とは違う使い方など、新しいアイディアを創る力が、他のグループと比べて極めて強いことがわかっている*。
このような特性によってこの二つのグループは、他のユーザーに先行して商品・サービスが本来持っている使い方や価値というものを、新しい使い方や価値に転換する力があるため、特に注目するべきだ。イノベーターとアーリーアダプターを足しても全体の16%でしかない彼らを捉えることは容易でないが、その購買・利用行動を観察することはイノベーションを起こすにあたって大きな意味を持つのである。
*一橋大学大学院 経営管理研究科 鷲田祐一教授の研究による
まとめ - 価値転換が未来をつくる
イノベーターとアーリーアダプターのようなユーザーを注視することで、新しい使い方や価値に転換するためのトリガーを見つけ出す(または創り出す)ことが未来洞察という考え方の本質である。まず価値転換の主導権がユーザーにあることを理解したうえで、ユーザーを観察することなのだが、あるシーズをユーザーが受け入れるのかどうか、どう使うのかをただ誰にでも聞けばよいというものではない。
良質なパネルを用いて、事業に関連する領域のイノベーターとアーリーアダプターの両方をしっかりした定義をもとにとらえ、両者の購買・利用行動を子細に観察することで、新しい商品や技術の価値が市場内でどう変化するのかを理解することが可能になり、それによって未来への扉が開き始めるだろう。
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