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米在住の日経読者に聞く|注目するアメリカのエリア・都市、1位はオースティン -成長企業・優秀な人材が集中

 東京一極集中する日本からは見えにくいが、米国は各州によって風土や慣習、法律まで違う多様性の国である。企業がどこに拠点を構えるかによって、経営環境は大きく変わる。

 日経リサーチが在米の日経電子版の読者らを対象に、「会社として注目する米国の都市・エリア」を聞いたところ、1位はテキサス州オースティンだった。生活や事業面のコストが低く、成長企業や優秀な人材が集積している点が評価されているようだ。

 調査は日本時間で4月16~22日、日経電子版などの利用に必要な「日経ID」を登録している米国居住者を対象に、日経リサーチがオンラインで実施した。今回は有職者55人に絞り、調査結果を分析した。

 前回のコラムでは米大統領選の影響についてまとめたが、今回は注目するエリア・都市の他、米国で事業や生活をする上での課題、さらに関心があるテーマ・分野について紹介する。

 事業上の課題については、様々な情報の収集が求められること、各州の規制や法律について十分な知識が必要なことなど、多様性の国であるがゆえの困難さを指摘する回答が目立った。生活面では「円安で消費力が低下した」、「物価の高騰に賃上げが追いついていない」といった切実な声が多数あった。

1.注目の都市、テキサス州に多く 2位はヒューストン、5位にダラス

 

 「会社として注力・注目しているエリア・都市」を聞く質問では、英フィナンシャル・タイムズと日本経済新聞が共同で実施した「国際ビジネスにふさわしい米国の都市ランキング」を参考に、15都市を選択肢としてピックアップし、それ以外については自由回答でエリア・都市名を挙げてもらった。

 

 

米在住の日経読者に聞く_図1

 

 1位のオースティンは米国の中南部・テキサス州の州都で、かつては第二のシリコンバレーとも呼ばれていた。IT大手のデルやオラクル、電気自動車メーカーのテスラなどが本社を置く。テスラを所有するイーロン・マスク氏は、CEOを勤めるスペースXとX(旧Twitter)の本社もオースティンに移転させる意向も表明している。

 

 不動産が比較的安く手に入るなど生活・事業のコストが割安で、規制も緩く、企業が成長しやすい環境とされ、イノベーションの源泉となる人材も集まりやすい。テクノロジーと映画・音楽の祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」の開催でも有名になったが、米在住のビジネスパーソンの間でも注目度が高まっているようで、55人の回答者のうち2割がオースティンを挙げた。ちなみに日本企業では、リクルート・ホールディングスがオースティンに米国拠点を置いている。

 

米在住の日経読者に聞く_図2

[弊社ニューヨーク駐在員がコロラド川より撮影したオースティン市内]

 

テキサス州議会議事堂

[オースティン中心にそびえ立つテキサス州議事堂]

 

 

 2位は、同じテキサス州のヒューストンだった。主力産業はエネルギー関連だが、近年では航空宇宙、IT、医療、物流など多様化が進んでいる。米国の東海岸と西海岸の主要都市とは、ほぼ等距離に位置しており、交通・物流の要所でもある。2021年には、日本製鉄が米国の本社機能をニューヨークからヒューストンに移転した。5位にはトヨタ自動車の北米拠点があるダラスが入るなど、上位にはテキサス州の都市が目立った。個人所得税や法人所得税がゼロといった税負担の軽さも魅力だ。

 「自動車、半導体が進出する南部地域、アリゾナ、テキサス、アラバマなどを中心に関心がある」(運輸)との回答もあり、米国在住のビジネスパーソンにとって南部は注目のエリアのようだ。

 3位には、西海岸北部のシアトル(ワシントン州)が入った。アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトなど巨大企業の本社がある都市で、日本に距離的に近く、同じ西海岸のサンフランシスコなどと比べて賃料などコスト面でも安いため、日本企業の間でも関心が高まっていると見られる。

 6位以下では、マイアミ(フロリダ州)、ローリー(ノースカロライナ州)、ロサンゼルス(カリフォルニア州)、シカゴ(イリノイ州)、ニューヨーク(ニューヨーク州)などの都市の名前が挙がった。

2.「物価高騰でも、賃上げがない」在米ビジネスパーソン、生活面での苦悩訴え

 

 「円安と物価上昇の影響が給与に反映されない」(自動車・輸送機器)
 「物価が高騰しているが、賃上げ等の対応がなされない」(自動車・輸送機器)
 「円安による消費力の低下」(教育・教育学習関係)

 ここ数年の円安の進行は、米国在住のビジネスパーソンの生活にも大きな影響を与えているようだ。「生活するにあたり、個人として感じている課題」について聞いた質問では、円安・物価高の負担を訴える回答が相次いだ。

 給与をドルで受け取っているか、円で受け取っているかで、違いもあるだろうが、日本から現地に赴任しているビジネスパーソンの多くは、円安、物価高とは無縁ではいられないと見られる。

 特にニューヨークなどの大都市においては物価高騰が厳しい。日本企業で十分な賃上げがなければ、現地の駐在員の購買力は落ちることになる。60代の旅行業の男性からは「高額な医療費」を指摘するコメントもあった。

 それ以外では、「大都市の治安が悪くなってきていて心配」(旅行業)、「以前にないほど安全な生活が脅かされていると感じる」(教育・教育学習支援関係)など、治安の悪化を懸念する回答者も目立った。

 

3.業務上の課題、ローカル社員や日本本社とのコミュニケーションに苦心

 

 一方、「業務を行う上での課題」については、それぞれの立場も踏まえて、多様な回答が見られた。大きく分けて「情報収集」、「文化・慣習・法律の違いへの対応」、「コミュニケーション関連」に3つに整理できよう。

 

 情報収集においては、環境対応技術や電池関連など、それぞれの業界に専門的な知識・情報に加えて、業務に影響が出かねない国際情勢についてもいち早く情報を把握することが必要とされている。

 

米在住の日経読者に聞く_図3

 

 

 文化・慣習・法律の違いへの対応については、日米の違いだけでなく、州ごと、都市ごとにも差異があり、きめ細かな対応が求められているようだ。

 

米在住の日経読者に聞く_図4

 

 

 コミュニケーション関連については、ローカル社員への対応に加えて、日本の本社との連絡、意思の疎通でも苦心している様子がうかがえた。日本の本社との「スピード感」の違いに言及した回答も複数あった。

 

米在住の日経読者に聞く_図5

 

 

4.関心あるテーマ、8割が「電気自動車・燃料電池車」「人工知能」と回答

 

 在米のビジネスパーソンはどんなテーマ・分野に関心があるのだろうか。最も多かったのが「EV(電気自動車)・FCV(燃料電池車)」、「人工知能(AI)技術」で、いずれも78.2%が「関心がある」と答えた。 

 

米在住の日経読者に聞く_図6

 

  次いで、「温暖化ガス削減」(58.2%)、「半導体」(52.7%)、「ロボット」(52.7%)、「ライフサイエンス・バイオ・ヘルスケア」(47.3%)などで、「関心がある」の回答の比率が高かった。

 回答者の業種によって、関心があるテーマにも違いが表れた。半導体については、金融・証券・保険関連の企業にお勤めのビジネスパーソンがとりわけ高い関心を示した。EV・FCVについては、素材や電機・電子機器、自動車・輸送機器といった製造業関係の回答者が関心を示す一方、教育・教育学習支援関係で「関心がある」と答えたのはゼロだった。

 米国の大統領選挙で民主党、共和党のどちらが勝利するかによって、こうした分野の将来性も大きく左右される可能性がある。米国在住のビジネスパーソンも、様々なシナリオを想定しながら、より的確な情報収集が求められそうだ。

 

調査概要

    「大統領選挙による会社への影響アンケート」

実施日: 2024年4月16~22日
対象者: アメリカ合衆国に居住かつ有職者の方(日経ID会員)
回答者数: 55人
調査手法: インターネット調査

 

 


 

日経リサーチが提供する「日経IDリサーチサービス」では、日経電子版の読者を主な調査対象とし、幅広い層のビジネスパーソンの意識や動向を把握できます。貴社のビジネス課題解決に、「日経IDリサーチサービス」をぜひご活用ください。

 

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