活発化・大型化する日本のTOB市場、その狙いとは?|データから読み解く経営戦略
最近、ニュースでよく耳にする「TOB(株式公開買付け)」。東芝やローソンなど、名だたる企業のTOBは大きな注目を集めました。実は今、日本の会社の間でこのTOBがものすごい勢いで活発になっており、しかもその規模も大きくなっています。
このコラムでは、「TOBってそもそも何?」という基本から、データを使って日本企業に今何が起きているのかを見ていきたいと思います。
TOBってそもそも何?
TOBとは「Take-Over Bid」の頭文字で、日本語では「株式公開買付け」と言います。
通常、上場企業の株式は証券取引所で売買されますが、特定の企業や個人が一気に大量の株式を買い付けたい場合には、原則として公開買付けによらなければならないと金融商品取引法で定められています。具体的には、電子公告などで買付期間・価格・購入したい株数を宣言した上で、株主から広く株式を買い集める手続きを行います。
ニュースになりやすいのは、経営陣が公開買付に「反対」の意向を示す、いわゆる敵対的買収ですが、実際には経営陣も賛同の上で行われる友好的なTOBが件数としては大半を占めており、企業戦略の選択肢として広く活用されています。
グラフで見るTOBの推移
ではここで、2000年以降のTOBの実施状況を見てみましょう。
以下のグラフは、縦軸にTOBを開始した「年」、横軸にTOBを開始した「月」を表示したものです(公開買付期間は20~60営業日で設定されます)。
下に行くほど直近の案件になる点に注意してください。バブルの大きさがTOBの規模(買付総額)を表しており、上位50案件には規模の順位に応じて色を付けています。
[2000年以降のTOBの実施状況]
*自己株買付は除く(出所)日経NEEDSを基に作成
このグラフを見ると、TOBは2007年前後に一度ブームがあったものの、その後下火となり、そして2020年頃から再び増加していることがわかります。また歴代トップクラスの案件が2020年以降に集中していることに加え、2024年頃からはバブルの数自体がかなり増えており、中規模のTOBも非常に多く実施されています。
2025年はまだ途中ですが、件数的には既に過去最高ペースとなっています。
なぜ大型TOBが増えているのか?3つの基本パターンを紹介
では、大型のTOBが近年増加しているのはなぜでしょうか。
その背景を考えていくにあたり、TOBの主なパターンを整理しました。
1. 経営に集中するための「非公開化」タイプ
経営陣や投資ファンドなどが主体となり、上場企業を非公開化するために行うTOBです。特に経営陣が主体となるものを「MBO(マネジメント・バイアウト)」と呼びます。
上場していると株価など短期的な成果を意識する必要がありますが、非公開化することで、外部の意見に左右されず、中長期的な視点での大胆な経営改革に集中できるという利点があります。
2023年に大きな注目を集めた東芝の事例はMBOではありませんが、投資ファンドが中心となって行われた大規模な非公開化として、この類型に含まれます。
2. グループ一体経営を目指す「完全子会社化」タイプ
これは親会社が、すでにグループの一員である上場子会社の株式をTOBですべて買い取り、100%子会社にするパターンです。
グループ内に上場している子会社があると、その会社の一般株主(親会社以外の株主)への配慮が必要になるため、親会社がスピーディーな経営判断をしにくい場合があります。
そこでTOBによって完全子会社化し、グループ全体としての一体感を高め、意思決定を迅速化する狙いがあります。
2020年に実施された過去最大級のTOB、親会社の日本電信電話(NTT)による上場子会社NTTドコモのTOBがこれに該当します。
3. 成長戦略のための「事業拡大・多角化」タイプ
3つ目は、これまでの2つとは異なり、もともと資本関係のなかった会社同士が、一緒になることでさらなる成長を目指すTOBです。これには大きく分けて2つの狙いがあります。
一つは「事業拡大」です。同業の会社と組むことで、事業規模を大きくして、世界で戦える競争力を持つことを目指します。2020年に総合化学メーカーの昭和電工(当時)が、日立グループだった日立化成(現:レゾナック)をTOBしました。これは、もともと資本関係のなかった大手化学メーカー同士が一つになることで、世界トップクラスの機能性化学メーカーを目指すという大きな一歩でした。
もう一つは「多角化」です。全く違う分野の会社と組むことで、新たな事業やサービスを生み出そうとします。2024年に話題となった、KDDIによるローソンのTOBは、まさにこのケースです。通信とコンビニが力を合わせ、未来の新しいサービス作りに挑戦しようとしています。
いずれのパターンも増加傾向にありますが、特に「非公開化」と「完全子会社化」の動きは、近年のコーポレートガバナンス改革(企業統治改革)という大きな潮流に強く後押しされており、全体のTOB件数を押し上げる大きな要因となっています。
本稿で見てきたように、TOBの活発化・大型化は、日本企業が変化の時代を乗り越え、企業価値を高めようとする強い意志の表れといえます。
これからTOBのニュースに触れた際には、「これは3つのうちどのパターンだろう?」と考えてみてください。そうすることで、ニュースの裏側にある企業の戦略をより深く読み解くことができるはずです。
めまぐるしく変化する経済環境の中、競合他社や協業先の動きを素早く把握することが、精度の高いマーケティングや営業戦略を行う上でのカギとなります。
日経リサーチでは、ビジネスの羅針盤となる企業情報データベースに関する様々な知見を有しています。企業情報のタイムリーな収集・活用に関して課題を感じている方はぜひお問い合わせください。
この記事を書いた人

- デジタルキュレーション本部 DC第3部 部長
- 堀江 晶子
日本経済新聞社の媒体に掲載される財務情報を担う部門を統括する。スマートワーク経営調査などの企業評価調査の他、採用計画調査、賃金動向・ボーナス調査など人事・労務系調査や、アナリストランキング、銀行ランキングなど金融系調査をこれまでに担当。
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