20カ国ベンチマーク調査に見る 各国のコンプライアンス意識の実態(後編)
2023年5月と12月の2回に渡り、日本と海外の19カ国・地域、合計20カ国のビジネスパーソンを対象にコンプライアンス意識に関する実態を調査した。この20カ国のベンチマーク調査の結果を基に、各国のコンプライアンス意識の実態をご紹介したい。
前編ではコロナ前後の国内の意識変化を説明したが、後編では20カ国の調査結果を比較し、各国のコンプライアンス意識の特徴を解説する。
データで見る20か国・地域の特徴
風通しの良さとハラスメントリスク
まず、風通しの良さについて見ていく。グラフは各国ごとに「職場の風通しが良い」と思う人の割合を示している。
多くの国で、6割以上が職場の風通しは良いと回答したのに対し、日本と韓国は4割に留まっている。風通しの良さは、日本全体で見てもまだまだ向上の余地がある。
続いて、コンプライアンス問題の中でも、度々ニュースで取り上げられるハラスメントについて見てみる。
このグラフは、海外はハラスメントや差別が行われているのを見聞きした割合、日本はパワハラのみに限定して聴取した結果である。
日本が他の国と比べてパワハラのリスクが高いことは想像に難くない結果だと思うが、インドが6割弱、ベトナムは4割を超えるなど、ハラスメントリスクが高い結果となった。両国は日系企業が製造拠点として多く進出しており、リスクの高まりに注意が必要だ。
コロナ前後の変化
今度はコロナ前後の意識の変化を見ていこう。
このグラフは、「職場ではコンプライアンスより業績の向上を優先する傾向がある」と答えた割合で、三角印が2019年、棒グラフが23年の回答結果である。インドとフランス以外の国は19年から23年にかけて、業績を優先する傾向が減っている。多くの国でコンプライアンスを重視する意識が高まっていると言える。
品質問題のリスクに関してはどうか。このグラフは「業務手順や体制に問題があり、品質的に問題がいつ起きてもおかしくない状況である」という項目の19年と23年の回答割合だが、中国は品質問題の発生リスクが大幅に改善されている。
具体的には、中国では2015年に「中国製造2025」という製造強国になるための政策が発表され、その第1段階である2025年に向け、目標の1つとして品質やブランド力の強化などが挙げられている。その計画が現在、終盤に差し掛かっていること、さらに2023年2月に品質強国を目指すための目標と取り組みが発表され、国全体で品質レベルを向上させる機運が高まっていることが、品質問題に関するリスクが減ってきた要因の1つと考えられる。
各国の心理的安全性
次に、各国の心理的安全性の特徴を見てみよう。
上段の棒グラフは「職場でミスを非難されない」割合で、下段は「自分の弱さや無能さをさらけ出しても安全であると感じる」割合である。
日本と韓国は同じような特徴があり、ミスを非難しない割合が高いので、ミスに寛容な職場であると言える。ただ一方で、自分の弱さや無能さをさらけ出しても安全だと感じられない職場になっている。
東南アジアや南アジアは、日本や韓国と逆の特徴が出ており、ミスを非難されない割合が低い。比較的ミスに厳格な職場だと言えるが、弱さや無能さをさらけ出しても安全であると感じる割合は高く、ありのままをさらけ出して自然体で仕事ができる職場だと解釈できそうだ。
北米や南米、オーストラリアは2つの項目で大きな差はなく、全体的に心理的安全性が確保されている職場だと分かる。
ミスに厳格な職場・安全だと感じる職場
では、ミスに厳格な職場にはどんなリスクがあるのか。
インド、タイ、ベトナム、インドネシアの4カ国に絞って、ミスに厳格な職場のコンプライアンスリスクを見てみる。
左側のグラフは、「担当者以外の目が届かない業務があり、問題が埋もれてしまっている」と思う割合、右側は「経費や各種手当をごまかして申告している人がいる」と思う割合だが、どちらもミスに寛容な職場と比べて、厳格な職場はリスクが約2倍になる。
このように厳格な職場では、問題の埋没や経費・手当のごまかしなどの不祥事が発生しやすくなる。
日本は、「弱さや無能さをさらけ出しても安全だと感じられない」とのことなので、安全だと感じる職場の特徴から、改善のヒントを探りたい。
「弱さや無能さをさらけ出しても安全」と感じる職場の方が、「上司が自分の仕事の状況を把握してくれる」、「家族のような組織。人の育成、成長や一緒に物事を進めることを重視する組織文化」だと感じる割合がそれぞれ高くなった。
このように、上司が自分の状況を把握してくれていることや、組織のメンバーと良好な関係性を築けているということが、自分らしくありのままの状態で働ける職場を作っていくことが分かる。そして、心理的安全性を高めていくことが、コンプライアンスリスクの抑制にも繋がっていく。
おわりに
ここで、前編の冒頭で挙げた3つのポイントを思い出していただきたい。
① コンプライアンス教育が機能するためには、会社方針の腹落ちが必要
② 経営層や上司が現場を理解する姿勢がコンプライアンス意識の向上につながる
③ 上司やメンバーとの良好な関係性が、心理的安全性を高め、コンプライアンスのリスク抑制につながる
コンプライアンス活動の推進にあたって、風通しの良い組織風土の重要性をご理解いただけたと思う。そして、この風通しの良い組織風土の醸成にとって必要なのは、経営層からの情報発信や上司が現場を把握する姿勢、一体感のある組織文化など、縦と横のコミュニケーションなのである。
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