Report

【寄稿】公益通報者保護法と内部通報制度

改正も行われた公益通報者保護法。企業はどのように対応し、実効性のある内部通報制度を運用していくべきなのでしょうか。公益通報者保護法と内部通報制度について、国広総合法律事務所の國廣弁護士に寄稿いただきました。

公益通報者保護法と内部通報制度

 

国広総合法律事務所 弁護士 國廣 正

 

 兵庫県の斎藤知事に関する元局長の内部告発文書をめぐり、今年3月、第三者委員会は、告発が「公益通報」にあたり、通報者捜しを行い、元局長の公用パソコンを回収したことは公益通報者保護法に違反すると認定した。

 公益通報とは、労働者が組織の違法行為を企業の内部通報窓口や行政機関、報道機関などに通報することをいう。公益通報は法律による保護を受け、通報者に対する解雇や不利益処分が無効とされる。

 さらに現在国会で審議されている公益通報者保護法の改正案では、通報を理由に労働者を解雇する行為などを刑事罰の対象とし、個人には「6か月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金」を、法人には「3000万円以下の罰金」を科すとされている。

 このように公益通報保護が強化される状況で、企業の内部通報制度がコンプライアンス施策の一環として重視されるようになっている。

 

 どのような企業でも、コンプライアンス違反の行為がゼロになることはない。大事なことは、これを早期に発見して是正すること、つまり自浄作用を発揮することであり、内部通報制度はそのために不可欠な制度である。

 企業が自浄作用を発揮できなければ、コンプライアンス違反の行為が蔓延し、さらに大きなリスクに発展する。また、自浄作用を果たせない企業に愛想を尽かした社員がSNSや報道機関などを通じて広く世間に不正行為を暴くことで企業のレピュテーションが大きく低下する。昭和の時代の終身雇用制のもとでは「秘密を墓場までもっていく」ことが美徳とされたが、もはやそのような時代ではない。このため内部通報制度は企業にとって不可欠の「安全装置」となる。

 

 ところで、多くの企業は内部通報制度が有効に機能していない悩みを抱えている。その大きな原因は制度に対する信頼がないことである。つまり、内部通報を行った場合、通報者の情報が会社側に知られてしまい、不利益な取扱いを受けるのではと心配する社員が多いという現実がある。兵庫県の斎藤知事の事案はまさにこの懸念を裏付けている。

 この問題を克服するには、内部通報制度が厳格に運用されている(=通報者の秘密が厳格に守られている)という信頼が不可欠となるが、そのためには、問題行為があった場合には安心して声をあげることができる企業風土、つまり「心理的安全性」の確保が前提となる。

 

 経営陣はよくBad news firstという言葉を口にする。しかしこれだけでは足りない。経営陣に求められるのは、Bad news first & Thanksという対応を行動で示すことだ。これで初めて「心理的安全性」が確保される。企業風土を形作るのは経営陣の姿勢であり(Tone at the top)、社員は経営陣の本気度を見ているのである。

 

この記事を書いた人

【國廣 正】写真データ修正++
国広総合法律事務所
國廣 正

大分県生まれ。東京大学法学部卒業。
国広総合法律事務所パートナー弁護士。
専門は、企業の危機管理、コーポレートガバナンス、
コンプライアンス、会社法・金商法訴訟など。

コンプライアンス調査をお考えの方は
お気軽に相談ください

国内外のべ5000社以上の実績と知見を持つ専門チームが
調査設計から施策実行までをサポートします

「コンプライアンス経営診断プログラム」詳細はこちら
ico_information

課題からお役立ち情報を探す

調査・データ分析に役立つ資料を
ご覧いただけます。

ico_contact

調査の相談・お問い合わせ

調査手法の内容や、
調査・データ分析のお悩みまで気軽に
お問い合わせください。

ico_mail_black

メルマガ登録

企業のリサーチ、データ分析に役立つ情報を
お届けします。