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BtoB向け お客さま満足度調査(CS調査)の結果を打ち手につなげるには? -優先課題を見える化するポイントを解説

 不確実な経済状況が続く今こそ、既存顧客との関係を維持・強化し、長期的な収益の安定を図ることは不可欠である。既存顧客の継続意向を高め、より良い関係を築くためには、顧客の声に真摯に耳を傾け、足元の顧客維持を盤石なものとする必要があることは、周知の事実だろう。

 その手段として、顧客に自社の満足度を評価してもらう「お客さま満足度調査」、いわゆる「CS調査」を実施している企業は多い。

 しかしCS調査を実施しても、その結果が具体的な打ち手に繋がらず、社内共有だけで終わってしまう、そんな課題はないだろうか。特にBtoB企業においては、関係者が多く、部門間の連携が複雑になることが多いため、対応に苦慮する声がよく寄せられる。

 本稿では、CS調査によって顧客理解を深め、収益向上に繋がる効果的な施策へと転換させるためのポイントをまとめた。「経営・本部」と「現場」が両輪でCS調査の結果を捉えるための視点や、優先課題を顧客視点のアクションプランに落とし込むヒントをご紹介する。

経営と現場、両輪で結果をみる必要性とは

 CS調査を単なるアンケートではなく、事業成長を加速させるための重要な羅針盤とするには、どのように活用するべきか。重要なのは、「会社として」の視点と「現場として」の視点の両方を持つことだ。

 実施しても、対応が営業などのフロントラインに任せきりになったり、営業担当者個人の努力に丸投げされたり、といったケースはありがちだ。個々の担当者の自律的な意識は不可欠だが、会社全体や部門としてのバックアップ体制がなければ、個人の能力がそのまま会社の限界となってしまう。

 このような背景を踏まえ、日経リサーチでは、「経営・本部向け」と「現場向け」の二種類のアウトプットを用意し、それぞれの視点からのCS調査活用を強く意図している。

 

経営・本部が「会社として」の視点から捉えるべきこと

 経営・本部は、CS調査の結果を「会社として」の視点から多角的に分析し、総合指標への影響度と顧客からの期待に基づいて課題を特定し、組織的な対応策を戦略的に策定することがポイントとなる。

 

総合指標から概要を捉える

 まず、目指す事業目標に直結する総合指標を定めてCS調査を設計することが最初の鍵となる。例えば、足元の業務改善に注力したいのであれば「総合満足度」、顧客との長期的な関係構築と収益安定化を図るのであれば「取引継続意向」、新たな収益機会の創出を目指すのであれば「取引拡大意向」といったように、自社の戦略に応じて最適な指標を選択する。

 

※総合指標としては「推奨意向(NPS*)」などもある。詳しくは、「BtoB向け お客さま満足度調査(CS調査)」資料 のAPPENDIX参照。

 

 そして、単に全体の結果を把握するだけでなく、事業部別や、業種、売上規模などのセグメント別に分析することで、どこに強みがあり、どこに改善の余地があるのかが明確になる。

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 例えば、上図は、全社と部門別の「継続意向」と「取引拡大意向」の結果を比較したグラフである。A部門では「取引継続意向」が高い一方で、「取引拡大意向」が低いという結果になった場合、既存顧客との関係は良好であるものの、アップセル・クロスセルによる成長の伸びしろは見込めないだろう、という重要な示唆を与えてくれる。この一部に見られる取引縮小の意向は、早期に対応すべき潜在的なリスクだと言えるだろう。

 

 

総合指標を左右する要因の探索

 さらに、総合指標の要因を特定するために、CS調査では総合指標に影響を与えると考えられる項目別評価も測定することがポイントである。ここで重要なのは、単に評価の低い項目に目を向けるのではなく、総合指標への影響度が大きい項目を特定することだ。人的リソースが限られる中、真に業績にインパクトを与える課題に優先的に取り組むための重要な判断材料となる。

 

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 上図は、縦軸に「情報提供力」や「提案・解決力」といった各項目の評価、横軸に総合指標と各項目の関係の度合い(相関係数など)をマッピングしたものだ。

 

 項目別満足度の数字だけを追った場合、単純に評価が低い項目、例えば「14:拡張性や柔軟性」「13:提供価格」「26:日常的な情報提供力」を改善しようとしがちだ。しかし、真に注目すべきは、目標とする「取引拡大意向」にどの項目が最も影響を与えているかという視点である。

 

 総合指標への影響度を加味すると、それらよりも「7:課題・要望に基づいた提案・解決力」が、総合指標への影響度が高いにもかかわらず満足度が低く、「取引拡大意向」を高める上で非常に重要な要素であることが示唆されている。

 

 つまり、この項目の満足度を高めることこそが、将来的な売上増加に繋がる可能性を秘めているのだ。一方、「13:提供価格」や「26:日常的な情報提供力」は、現状の満足度を上げても「取引拡大意向」の向上には繋がりにくいと考えられる。

 

 

顕在化された自社ポジションの把握

 加えて、顧客が業界全体に求めていることと、自社に対して特に期待していることのギャップを分析することで、顧客が自社のどこに強みを感じ、どこに不満や期待不足を感じているのかが明確になる。先述のいわば自社への“潜在的なニーズ”の探索に対して、これは、“顕在化している”自社の競争優位性を確認するための重要な情報源となる。

 

 例えば、下図のように「課題・要望に基づいた提案・解決力」が、業界全体としても重要視されており、かつ貴社への期待度も高い項目であるとする。もしこの項目の満足度が低いままであれば、顧客の期待に応えられていないことになり、取引拡大の機会損失につながる可能性がある。

 

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 このように明確になった優先課題に対して、経営・本部として組織的に仕組みで対応すべき施策を戦略的に策定し、KPIを設定することで、CS調査の結果が具体的な業績向上に繋がっていく。

 

 

顧客の“生の声”からの示唆

 施策を具体化する段階においては、顧客からの生の声として、自由回答のコメントをいかに活用するかが成否を分ける。

 

 選択肢式の定量的な回答結果からは、課題の「領域」を把握できるが、「何が問題なのか」「どうすれば改善できるのか」という具体的な手掛かりは、顧客のコメントの中にこそ眠っている。「コメントの分析は煩雑だ」という現場の声は多く、貴重な情報が十分に活用されないまま埋もれてしまっていることも少なくないが、インサイトの宝庫であり、真のニーズや不満点を直接的に理解するための貴重な情報源である。

 

 なお、日経リサーチでは選択肢式の回答とコメントを一気通貫で効率的に分析するツール「KeyExplorer」を提供している。煩雑なコメント分析から解放され、顧客の声の奥に潜む本質的な課題を迅速に把握したい場合は、ぜひ活用いただきたい。

  

 このように、CS調査の結果を単なる満足度の集計として捉えるのではなく、事業目標(この場合は取引拡大)との関連性、そして顧客からの期待とのギャップという二つの視点から分析することで、限られた経営資源を最も効果的に投入すべき優先課題が明確になるのである。

 

 

個々の担当者、部門・グループが「現場として」の視点から捉えるべきこと

現場での調査結果の活用で重要な点は、現場担当者が顧客ごとの評価や要望を具体的に理解できるようにすることである。

BtoBビジネスの特徴は、一件一件の顧客との深く複雑な関係性にある。BtoCのようにマーケティング主導のアプローチだけでは不十分であり、営業担当者の能動的な関与が不可欠だ。

 しかし、経営・本部向けの報告書だけでは、現場にとって顧客1社1社の顔が見えづらく、具体的な行動に繋げにくいという課題が出てくる。そこで日経リサーチが推奨するのが、下図のような顧客1社ごとのフィードバックシートの活用である。

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 BtoB取引は関与者が多いため、一般的にCS調査では1社複数名に回答を依頼する。このフィードバックシートは、1社の取引先企業から得られた複数の回答やコメントをまとめたもので、現場の担当者が「あのお客様は、このように評価してくださっている。そして、こんなことを期待されているのだ」と、顧客の声をダイレクトに理解するための強力なツールとなる。いつの時代でも、お客様の声にまずは真摯に耳を傾けることが基本だ。

 この理解を起点に、現場主導で顧客の評価の背景にある「なぜ?」を議論することが重要である。日々の営業活動で得ている情報から、何かしらの心当たりが必ずあるはずだ。これは、現場自身が課題に対する仮説を立てるプロセスであり、トップダウンで指示された施策よりも、当事者意識と実行意欲を高める効果が期待できる。

 さらにフィードバックシートをもとに、重要項目の評価が高い/低いお客様の具体的な状況を把握し、好事例や、改善が必要な事例を現場で共有・学習することも有益だ。同じような事象が複数あれば、部門・グループとしての取り組みが浮かび上がってくる。

 現場での議論を通じて、個々の担当者が対応すべき事項や、部門・グループとしての取り組みが明確になったら、アクションプランとして立案、実行する。それを経営・本部がサポートし、進捗管理し、次のCS調査でその成果を検証する。この両輪でCS活動を進めることが、単なるアンケートで終わらず、具体的な成果に繋がるサイクルが生まれるのである。

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CS活動を両輪で回すための具体事例も含めた下記コラムも、ぜひご覧いただきたい。


>関連コラム:CS調査を有効活用するために回すべき「2つのループ」

 

まとめ

 CS調査結果を打ち手に繋げるには、経営・本部と現場がそれぞれの役割を理解し、「会社として」、「現場として」の2つの視点で多角的に活用することが重要だ。

 経営・本部は、CS調査の結果を「会社として」の視点から捉え、優先課題を明確にすること、各部門・グループは「現場として」の視点から、CS調査の結果を日々の活動に結びつけることが求められる。そのためには、経営・本部は組織的な施策を実行する責任を持ち、現場は顧客の声に真摯に耳を傾け、主体的に改善策を実行する役割を担う。そして両者が連携してPDCAサイクルを回すことが重要である。

しかしながら、調査の実施自体が煩雑で、そのプロセスに労力を費やすあまり、結果が具体的な打ち手に繋がらないケースが散見される。これは、貴重な経営資源の浪費と言わざるを得ない。このような課題を解決する手段として、CS調査の外部委託がある。

 外部委託のメリットとしては、以下の3点が挙げられる。

  1. 業務効率化と本業への集中
    煩雑な調査設計、実施、集計といった業務から解放され、経営資源を本業に集中させることができる

  2. 調査内容と分析の質の向上
    専門的な知識やノウハウを持つ外部機関を活用することで、より精緻で示唆に富む調査設計と分析が可能となり、課題の本質を深く理解することができる

  3. 客観性と説得力の向上
    第三者機関による客観的な分析と報告は、社内各部門や経営層に対してより高い説得力を持ち、施策実行への合意形成を円滑に進めることができる

 


 データに基づいた意思決定こそが、持続的な成長と収益向上を実現する鍵となる。日経リサーチは、長年、BtoB企業のCS活動を支援しており、ぜひこの機会に戦略的な選択肢の一つとしてご検討いただきたい。

※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

 

この記事を書いた人

コラム執筆者_市嶋
エグゼクティブ・コンサルタント
市嶋 信子

国内外のCS・CX、マーケティング・営業、ブランディング、経営戦略・ビジョン策定などの多くのプロジェクトに従事。特に、B2B企業向けのCS・CX、営業改革を専門とする。アンケート結果に加え、企業が保有する実態データも合わせた分析も行い、データドリブンでの実践的な企業課題の解決を支援している。

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