「医療情報はデジタルで」71% ~コロナ禍で「対面」から一気にシフト
2023.4.24
医療情報提供のDX化実態調査 医師 約6,000人が回答〈前編〉
新型コロナウイルス感染拡大と時を同じくして、企業・団体が力を入れたのがDX (デジタル・トランスフォーメーション)の取り組みだ。デジタル技術を駆使して事業活動を最大限に効率化・高度化する取り組みで、実際にDXによって働き方や情報のやり取りはコロナ前から大きく変わった。
医療の世界でもこの3年でDXの取り組みが進んでいる。医師の負担を減らす結果になっているのか。患者のQOL向上につながっているのか――。日経リサーチは2023年3月に日経BPが運営する「日経メディカルOnline」の登録者に対して「医療情報のDX」の実態を調査、6,007人から回答を得た。
デジタルシフト、1年半で加速
まずは、この調査結果を紹介したい。医師に「製薬会社から情報を得る手段」を聞いたところ「主にデジタルツールで」との回答が71%に達し、「主にMRから」(29%)を大きく上回った。日経リサーチは2021年8月に実施した調査で、医師に「新しい薬剤を知るきっかけ」について聞いている。調査実施時点(21年8月)の状況とともに「コロナ前はどうだったか」も併せて聞いた。結果は「コロナ前」では「MRから」との回答が51.9%で、「デジタルツールで」としたのは21.9%。21年8月時点では、それぞれ40.4%、28.4%となり、コロナ禍での「デジタルシフト」が定量的に示された。
今回の調査結果と重ね合わせてみると、設問などが若干異なるため単純に比較できないが、薬剤など医療情報をデジタルツールから取得している医師の割合は22%→28%→71%と上昇。一方「MRから」は52%→40%→29%と下落している。2つの調査間の1年半は感染対策でMRが医療機関に出向くことができなくなり、オンラインでのやり取りなどにシフトせざるを得なかった。当然の結果だろうが、コロナでデジタルシフトが一気に進んだといえる。
このデジタルシフトは一過性のものではなさそうだ。製薬企業はMRの人員を削減。公益財団MRセンターの「MR白書」によれば22年3月末時点でのMR認定取得者は5万1,848人で、13年3月末時点から約1万4,000人に減っている。直近の1年をみても大手各社が希望退職を募集するなど、減少傾向はしばらく続くのではないだろうか。製薬各社にとっては人員を減らしてコストを節減する一方で、MRによる情報提供よりも満足度の高い医療情報DXを早期に実現することが競争力を左右する状況になっている。
DXが進んでいる企業「わからない」43.6%
実際に医療情報DXで医師からの評価が高い製薬企業はどこなのか。今回の調査では個別企業名29社を選択肢に並べて医師に選んでもらった。
結果は首位ファイザーで、武田薬品工業、第一三共と続いた。上位には多くの診療科との接点がある大手企業が占め、どちらかといえば外資系の顔ぶれが目立つ結果となった。医師の年代別で回答傾向をみると20代の医師はファイザー、アストラゼネカを高く評価しており、外資系のDXを一つのモデルとしてみているようだ。一方、60歳以上のベテラン医師の評価が高かったのは武田薬品工業、第一三共だった。ただ、首位のファイザーでも回答率は4.4%にとどまり、43.6%の医師が「わからない」と回答。「DXが進んでいる会社はない」との回答も14.4%に達した。計58%の医師が評価できる企業を選べなかった。
この結果は、医師から見れば製薬業界の医療情報DXは「どんぐりの背比べ」で、医師として満足できる水準に達している企業はない、ということなのだろう。ただ、決して製薬業界のDXが他業界に比べて遅れているわけではない。どの業界も開発・生産部門や人事・経理部門など、社内で完結するDXの取り組みが先行し、顧客などステークホルダーに向けて情報・サービスを提供する分野のDXは多様なニーズをくみ取る必要があるため、どの業界も苦戦している。
今回の調査では製薬業界の「医療情報DX」に対する医師の不満と期待が、数多く寄せられた。アナログをデジタルにして送りつけるだけになっていないか。一方通行の情報提供ではなく、医療界の疑問や要望を受け止める双方向のDXが実現できているのか。まだ「黎明期」ともいえる医療情報DXをどのように進めていくべきなのか。<後編>では、医師の生の声を紹介しながら考察していきたい。
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