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黎明期の医療情報提供DX、医療現場に期待と不安 ~「情報氾濫」「業界挙げた取り組みを」

医療情報のDX化実態調査・医師 約6,000人が回答〈後編〉

日経リサーチが2023年3月に日経BPの「日経メディカルOnlineパネル」を利用して実施した「医療情報のDX実態調査」では、6,007人の医師から黎明期である製薬業界のDXに対する期待と不安の声が寄せられている。

「最新情報」のほか「双方向」や「使い勝手」を評価

コラムの〈前編〉でご紹介した通り、医師がDXで評価する企業ランキングではファイザーが首位で、武田薬品工業、第一三共が続いた。では、どのようなポイントで医師は企業を選んだのか。

最も多かったのは「最新の情報が提供されている」(40%)。患者と日々向き合う医師にとっては最先端の技術動向や最新の薬剤関連情報を一刻も早く手に入れたい。この項目での評価が高かった企業は、全体ランキングで9位だった日本イーライリリーや10位のグラクソ・スミスクライン、6位のアストラゼネカなどだった。
続いて多かったのが「必要な情報が網羅されている」(35.1%)。このほか「医師のニーズを吸い上げ、改善できる体制になっている」(27.4%)「探している情報にリーチしやすい」(25.7%)が続いた。「双方向」や「使い勝手」を医療情報DXの課題ととらえる医師が多いことがわかる。「VRなど先端技術の活用」(14.5%)で評価する医師は少なかったが、ヤンセンファーマがこの項目で評価されている。同社は掌蹠膿疱症を患う方が日常生活でどのような困難を感じるかをVRで表現する動画を医師向けに作成するなど、先進技術を駆使した情報提供に取り組んでいる。

そもそも医療現場は製薬業界の役割として「医療情報提供」をどれだけ重視しているのか。
調査では「製薬業界にどのような対応、姿勢を期待しているか」を聞いている。
最も多かったのは「信頼できる製品の安定供給」(43.2%)で、「品質管理の徹底」(31.9%)が続いた。後発薬で様々な問題が発生した時期でもあり、製薬業界の社会的責任を果たしてほしいという声が強かった。その中でも「積極的な情報発信」(24.1%)、「情報開示の迅速さ」(22.9%)が上位に来ており、医療情報提供の役割に対する期待値が高いことがわかる。

「MRは必要」DXの限界訴える声も

そして「製薬企業が『医療情報におけるDX』を推進する上で重要なことは何か」を記述形式で聞いた。医療情報提供そのものに対する期待値が大きいだけに、DX化への期待と不満、不安があふれ出した回答結果となった。特に目立ったのは「情報氾濫」の弊害だ。

  • 情報が溢れすぎて、逆に日々自分からアクセスしなくなった。新薬に気付くのが遅くなった気がする(30代)
  • 情報過多。自社の思い込みが医療サイドのニーズと一致していないことが多いのを認識すべきだ(60代以上)
  • 勤務の隙間時間などに参照できるように、コンパクトに情報を伝えてほしい(60代以上)
  • 必要な文献を選び出す時間を短縮する手法を提示してほしい(30代)


中には「まず量。それを参考にするかはこちらが判断する」(50代)との声もあるが、多忙を極める医療現場では、製薬企業が情報を「送りつけている」と感じている医師が多い。「一方通行」ではなく、必要な時に必要な情報を取得できる「双方向」の仕組みを求める声も目立った。

  • 情報の信頼性の担保と、提供される側からのフィードバックをくみ上げる仕組み(50代)
  • 対面と変わらない利便性と双方向の達成(50代)
  • バーチャルMRなどによる情報提供体制。やり取りから知識を蓄積(50代)

 

また個社単独の情報発信ではなく、業界全体で比較検証できるような情報提供を望む声が多かったのも今回の調査結果の特徴だ。

  • 他社製品とも比較して公正な情報を提供(40代)
  • 製薬会社の枠を超えた総合的な検索システム(60代以上)
  • 厚労省が項目を定め、医療機関同士などで円滑にデータを交換できる仕組み(40代)

 

年代別にみると、デジタルツールを使いこなす20代の医師からは期待する機能などの意見が寄せられ、ベテラン医師からは「MRは必要」との声も根強かった。

〈若手医師〉

  • 熟練医師の意見を容易に知ることができるサービス」(20代)
  • 育児中なのでセミナーに参加できない。オンデマンド配信やウェブ講座を重視(20代)
  • 電子カルテ上で使えるようにしてほしい」(20代)


〈ベテラン医師〉

  • 地域の特性、施設の特徴を加味した対応が必要なので、MRが不要になるとは思わない」(50代)
  • DXに依存しているようでは、大したことは創造できない(60代以上)
  • 最後は人材だと思う(50代)

 

今回の調査結果を通して「何のために、どのようなDXを実現させるのか」という根本的な議論が、製薬業界と医療界の間で不足していると感じた。大半の医師はまだDXを深く理解しておらず、拒絶反応や過度な期待を持つ傾向さえ出てきている。DXは決して「魔法」ではなく、技術的にも過渡期であり、効果が期待できない場面も多いのが実情だ。そうしたことを含めて、DXで今何ができるのか、何を優先的に変えるべきなのか。DX時代のMRの役割をどう再定義するのか。製薬業界と医療業界が議論しなければいけないテーマは山積している。双方の意向を整理し、戦略を構築していくためには、幅広い領域での調査研究が必要になると感じている。

 

「人からデジタルへ」の移行期は互いの「距離感」を大きく変え、「いつでも何処でも連携できる」といったメリットだけでなく、信頼を喪失するリスクも秘めている。「MR削減によるコストカット」とだけとらえる医師が増え、「医産」の間の溝が生じれば医療の質そのもの影響しかねない。

 

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