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企業ブランディングが必要な理由とは?企業ブランド向上に取り組むポイントや進め方を解説

「ブランディング」は製品やサービスの営業上の戦略で広く使われてきた。しかし、それだけではなく企業の事業推進に大きな役割を果たすのが「企業ブランディング」だ。本記事では、企業ブランディングをテーマにこの施策が利用される理由や期待されていること、実践プロセスなどについて解説する。

企業ブランディングとは?

企業ブランディングとは、企業が顧客や取引先、消費者、株主、地域社会、社員などのあらゆるステークホルダーに向けて「自社らしさ」を認知してもらい、共感をもってもらうことで事業を推進させる戦略的な取り組みである。

 

会社とステークホルダーとの間に「共感」が生まれることで、他社と比べて自社は特別な価値を持つ存在だと識別された結果、「商品やサービスが選ばれる」「取引業者に信頼をされる」「採用希望者が増える」「投資を受けられる」など事業の持続的な発展に寄与する手法として注目を集めている。

「企業ブランディング」と「製品・サービスブランディング」の違い

企業ブランディングが「自社らしさ」を軸とし、ステークホルダーに企業の存在意義を明確化し、それに理解、共感してもらうことで企業価値の向上、あらゆる企業活動への波及効果を目指すことをゴールとするならば、製品・サービスブランディングは、他社製品との差別化によって買い手の購買をゴールとした施策といえる。

 

  企業ブランディング 製品・サービスブランディング
対象 あらゆるステークホルダー 生活者、買い手
目的 企業価値の向上、企業活動への波及効果 価値やイメージを向上させ製品が選ばれること
手法 インナーブランディングとアウターブランディング テレビ等のCMなどを用いたマスコミュニケーションやSNSを利用したダイレクトコミュニケーションなど
関係する
部署
広報・IR部門、コーポレートコミュニケーション部門、コーポレートブランド部門、マーケティング部門、営業部門、企画開発部門、人事部門、経営企画部門、グローバルの拠点にいたるあらゆる部門 マーケティング部門、営業部門、グローバルの拠点など

 

目的が違うため、どちらのブランディング活動が重要かという議論はそぐわないが、製品・サービスブランディングが「自社らしさ」と整合しないコミュニケーションを優先することで、企業への共感を生み出せず、事業推進において限定的な成果しか得られないことが指摘されるようになっている。

企業ブランディングが注目される理由

あらゆるステークホルダーへ「自社らしさ」を軸に一貫したブランド訴求が必要になった背景に、SDGsに端を発した企業に対する社会的な価値提供への要請が挙げられる。

これは、企業の評価軸が「利益最大化」から「社会課題への取り組み」へとシフトした社会的な背景のことだ。結果、「どの会社から商品を購入すべきか?」「この会社に投資すべき理由はなんであるか?」「この会社と取引を続けるべきか?」「働き続けたい会社なのか?」など、あらゆるステークホルダーから発せられる問い(行動や選択の理由)に応じるために、社会に対する存在意義ともいえる「自社らしさ」を軸にしたブランド訴求が重要になった。

 

また、自社の存在意義を「パーパス」としてミッション・ビジョン・バリューの上位に掲げ、これを周知し事業を持続的に成長させていく「パーパス経営」の取り組みと歩みを合わせる形で、「自社らしさ」を軸にした企業ブランディング活動が注目されている。

企業ブランディングの実践プロセス

1.企業ブランディングを推進する体制を定める

企業ブランディングは「自社らしさ」をテーマとするため、営業部門のみならず、広報・IR部門、コーポレートコミュニケーション部門、コーポレートブランド部門、マーケティング部門、営業部門、企画開発部門、人事部門、経営企画部門、役員、さらにグローバルの拠点にいたるまで、あらゆる部門に関係する。このため、部門横断で企業ブランディングを推進する体制を定めることが必要である。

2.調査や分析で自社の現在地を知る

自社の強みはどこか? 顧客はどのようなインサイトをもっているか? 競合との差別化要素はなんであるか? 自社・顧客・競合の3つの側面について、従業員はもちろん、顧客、取引先など、自社を取り巻くあらゆるステークホルダーに対して、定量調査や定性調査を実施し、現状を理解することがまずは重要である。


3.「自社らしさ」を定義する

自社の現状を明らかにしたら「自社らしさ」を定義する。「自社らしさ」の中には、活動の原点である想い、ブランドならではの価値、さまざまなステークホルダーと約束できること、他ブランドとの違いなどが含まれる。これらの内容を整理したら、「自社らしさ」を端的な言葉でまとめ、顧客にどう認知されたいか、どのようにみられたいかを決定する。「自社らしさ」を育てる

4.「自社らしさ」を育てる

「自社らしさ」をまとめて、次にすべきことは社員への浸透活動、いわゆる「インナーブランディング」だ。社員に「自社らしさ」が浸透すると、自社らしいやり方とはなんであるかを社員自らが考え、業務に活かせるようになる。結果として、業務が「自社らしさ」の文脈で最適化され、あらゆるタッチポイントで「自社らしさ」が表現されるようになる。

 

インナーブランディングで社員への「自社らしさ」が浸透したら、次にすべきことは「アウターブランディング」だ。CM、企業のホームページ、SNS、イベント、店舗など顧客とのあらゆるタッチポイントで、一貫したぶれない「らしさ」を表現する。

企業ブランド向上のポイント

企業ブランド向上のポイントはブランディングのゴールまで全体構造を見極めて、それぞれの過程で効果測定を行うことだ。ここでは、弊社が開発した「ブランド総合力」の指標を参考にブランド施策をどのように測るか説明をしたい。

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このピラミッドは、ある個人にとって企業の優先度が上がっていく過程、すなわちブランドのロイヤル層になっていく過程を表している。ピラミッドの頂点にあるPQは日経リサーチが開発した「ブランド総合力」の指標であり、「Perception Quotient」の頭文字をとったもので「ブランド知覚指数」を意味する。PQが高いブランドほど、個人のマインドに深く浸透しているといえ、ビジネスにプラスになると考えられる。


PQにつながる土台の項目を下から順に説明すると、まずは、どんな企業なのかを知ってもらう、という過程がある。企業名の認知や、製品やサービスとの接点の有無を測る「購入利用経験」、何を経由して企業との接点を持っているかを明らかにする「アクセスポイント」がここに含まれる。このアクセスポイントは、CMや、企業のホームページ、SNSなどの項目を設けており、この1年間やってきた施策が認知されているかどうかを測ることが可能だ。


次の段階は、ただ企業名を知っているだけではなく、その企業の個性(ブランドアイデンティティ)を理解してもらう段階。「親しみやすい」「革新的である」といったブランドイメージや、その企業の魅力的なポイントをたずねる「バリュードライバー」、また、コンシューマー編では「気持ちが豊かになる」「自分の視野を広げてくれる」といった、企業と接することで自分の気持ちが動かされる「経験価値」も聴取する。これによって「自社らしさ」が生活者やビジネスパーソンに浸透しているかを確認することができる。頭の中にある「ブランドイメージ」が自分の心の中の評価「経験価値」に落ちていくことで、生活者の意識の中にコーポレートブランドが定着していくプロセスになる。


「自社らしさ」を理解してもらう次の段階は、共感を得られているかどうかだ。企業姿勢や企業活動全般に対し、共感できるかどうかをたずねる。企業の認知や、個性の理解といった面にとどまらず、個人のマインドに踏み込んでいるか、という、心の中での企業の存在意義の強さを測る指標であり、総合ブランド力、PQにつながるとても重要な評価である。

ブランディング推進担当のよくある課題と解決の方向性

「自社らしさ」がなかなか浸透しない

「自社らしさ」を定義し、「言い方」「伝え方」「見え方」を整理した後にブランド戦略の実行の順番としてまず行うべきことは「アウターブランディング」ではなく、「インナーブランディング」だ。企業ブランディングはマルチステークホルダーに対しての取り組みであるため、ブランドの目指す方を従業員に共有し、対話を行うことで、顧客、投資家、サプライチェーンサプライチェーンなどあらゆるタッチポイントで一貫性が生まれ効率的なアウターブランディングが可能になる。

ブランドの浸透に関して、現状がわからない

企業ブランディングの浸透度合いを測る際に必要なことは、認知の度合い、イメージの浸透度合い、共感の度合いについて、アンケートやインタビュー調査を行うことだ。また、他社と比較して自社の現在地を理解することも欠かせない取り組みと言える。

企業ブランディングの取り組み事例

理念と紐づくビジネス展開でブランド力を向上し、事業を拡大したタニタ

1923年に創業し、1959年に体重計の製造をスタートさせたタニタは、一般家庭に体重計を普及させ、体重をはかる習慣を人々に定着させた企業だ。その後、体重計の精度や耐久性など機能性を追い求め、さらに自社のビジネスを「体重をはかること」から「健康をはかること」へ転換し、「はかる」を通して世界の人々の健康づくりに貢献していくことを理念に掲げた。


現在では、家庭用体脂肪計・体組成計の国内シェアでトップを誇る。その後、2000年代には「健康をはかること」から「健康をつくること」へとビジネスの軸足をアップデートし、2012年に「丸の内タニタ食堂」をオープンさせ、2014年には企業や自治体向けの集団健康づくりパッケージ「タニタ健康プログラム」の提供を開始した。


タニタといえば、誰もが認めるブランド力の高い企業だが、弊社のブランド調査でも2010年代からブランド力が大幅に向上している。社会や人々の課題に合わせて「自社らしさ」をアップデートし、事業推進につなげている典型的な事例といえるだろう。

 

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PQ(Perception Quotient)に基づくタニタの「ブランド総合力」の推移

まとめ

企業の評価軸が「利益最大化」から「社会課題への取り組み」へシフトした現在、あらゆるステークホルダーと「共感」を軸にした企業ブランディングの取り組みの重要性はますます増している。こういった状況のなかで効果的に企業ブランディング活動をすすめていくためには、まずは自社の現在地を把握することが重要だ。


日経リサーチでは、国内最大規模のコーポレートブランドの調査サービスである「ブランド戦略サーベイ」や​​パーパス経営の現在地を可視化して施策につながる「ブランド評価調査・分析サービス」、社内へのブランド浸透度を測る「インナーブランド診断サービス」を提供している。これらを活用し、まずは「自社らしさ」の浸透度合いを把握してみてはいかがだろう。

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