持続可能な医療の実現は医薬関連企業の社会的使命 =緊急調査、医師522人が回答
2024.6.24
医師の時間外労働上限規制が始動〈後編〉
4月にスタートした医師の時間外労働の上限規制。日経リサーチは日経BP運営の「日経メディカルOnline」に登録する医師を対象にアンケート調査を実施、522人から回答を得ました。〈前編〉では対応に戸惑う医療現場の生の声などを紹介した。〈後編〉では「医薬品・医療機器業界に求められる対応」という視点で調査結果を紹介する。
面会削減求める声は少数~「オンラインシフト」根強い声
「働き方の改善に向けて重要なこと」を聞いた設問の中から企業との関連が深いとみられる項目の回答状況をまとめた。「メーカー担当者との面会抑制」については、経営層(4.7%)、非経営層(0.9%)との回答結果だった。最新の医薬品・機器の情報は医師にとって重要であることには変わりはなく、コロナ禍で面会が難しくなり、企業側も情報提供のあり方を見直して効率を高めていることも背景にあるのだろう。自由回答を見ると「もっと勉強してほしい」「オンラインやメールを活用し面会は極力減らしてほしい」といった声が、アフターコロナの現在でも根強い。
「医療機器・ITの導入、活用」との回答は経営層で30%、非経営層で22.5%だった。限られた人員で医療の質を維持するにはデジタル化による作業の効率化が欠かせないことは、働き方改革で先行する産業界の事例をみても明白だ。医師の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)への高度化の期待は高い。
「コメディカルスタッフとの分業推進」との回答は経営層(36.8%)、非経営層(32.4%)ともに多かった。業務の分担は全体とトータルで管理するシステムの開発、専門性を習得する教育など、あらゆるサポートが重要になる。分業推進を支援するサービスは今後、さらにニーズが高まるのではないか。
「効果出ている」わずか5%
では実際に「働き方改善へ実施している取り組み」についての回答結果を見ると、「医療機器・ITの導入、活用」については「実施して効果が出ている」との回答はわずか5.2%だった。実際にAIなどを活用したシステムの導入が進んでいるのは大規模病院に限られ、目に見えた導入効果が出ているとの声はわずかだ。DXに関していえば産業界でも同様で、トライ&エラーを繰り返しながら徐々に性能を向上されている途上といえるだろう。
「テレヘルス(遠隔診療)の導入による効率化」についても「実施して効果が出ている」との回答は4.2%で、「実施の予定無し」との回答は4割近くに達した。遠隔診療はコロナ禍を契機に導入が進むとみられたが、実際には進んでいない。高齢者の定期的な診断などで普及すれば来院患者数も減り、医療従事者の作業負担も減るのだろうと考えているが、患者側が対応できるかどうか、という課題もある。一方、地方では医療機器メーカーだけでなく住宅メーカーがテレヘルス関連のシステムを独自に開発し、住宅の一機能として搭載する動きも出てきている。機能はまだ日々の健康管理レベルで限定的だが、日常生活で蓄積した「健康データ」を収集・解析し、早期発見などにつながるまで高度化できれば、医療のカタチを変える可能性もあるとみている。医療機器関連だけでなく、住宅や生活産業から、医療DXの新たな潮流が生まれるかもしれない。
最後に医師に自由記述形式で回答してもらった「メーカーに期待すること」の一部を抜粋して紹介する。働き方改革をテーマに考えれば、産業界が医療に貢献できる場面は多いと考えている。DXに関連するシステムやサービスの開発はもちろん、労務管理や現場のコミュニケーションを円滑にする組織作りなどの知見も医療現場には参考になるだろう。
医師がメーカーに期待すること(n=522)
- 面会は労働時間であるとの認識が重要
- 面会を避けて、zoomやメールでやり取りしてほしい
- クラウド型電子カルテを医師のスマホで導入出来てどこでも薬の処方などが出来るようにしてほしい
- できれば週1回の医局説明会での情報提供だけにして、個別の訪問はやめて欲しい
- 医師業務の効率を高める商品の開発
- 面会機会および頻度、時間は適切だと思う
- 医療職スタッフへのサポート
- 対人ではなくネットを利用した、時間活用性のある情報提供。Eラーニングシステムなどの構築
- 医療機器のトラブルをとにかく減らして欲しい.トラブルによる時間外の増大ははかりしれない
- 円滑な業務のサポート 製品説明会などでの指導など
医療現場は働き方改革と医療の質の維持・向上の両立という難題に立ち向かっている。医薬に携わる企業にとって、本業で医療に貢献することはもちろん、医師の働き方の課題解決に貢献することも社会的使命だと認識すべきだろう。不要な面会を失くしつつ、定期的に医療現場の課題を聞き取り、サービスや商品で具現化する。持続可能な医療提供体制を「医産連携」で実現しなくてはならない。
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