「持続可能な医療」の絵姿を描けるか ―試される産業界の実力
2024.7.16
「持続可能な医療」の絵姿を描けるか―試される産業界の実力
日経リサーチは、医師の働き方改革が2024年4月から厳格化されたのにあわせ、日経BP運営の「日経メディカルOnline」に登録する医師を対象に、「働き方改革の現状と課題」、「設備投資」、「DX」の3つのテーマで調査した。
調査から見えてきたのは、働き方改革の対応に混乱する医療現場の実態。そして多くの医療機関が、限られた人員で医療の質を維持・向上するために、DX化や積極的な設備投資を検討していることだった。(調査結果の詳細はこちら)
規制先行、混乱する医療現場
しかし多くの病院が赤字で予算もなく、IT人材も不足してDX化は前に進まない。そもそも企業でいえば家族経営のような状態で地域医療を担う中小医療機関では、医療現場を維持するのに精一杯。10年後、20年後の医療のあるべき姿を描き、設備投資計画などを構築する「経営の視点」を持つ余裕もないだろう。
本来はまず、少子高齢化が進む日本で、医師の働き方改革をしっかり進められる「持続可能な医療」とは何かを議論し、方向を決めるべきだが、その答えも出ないままに時間外労働などの規制だけが進み、DXどのように進めていいかもわからない。それが日本の医療現場の実態だ。
産業と医療の相互理解深まらず
医療現場が産業界に求めているのは、個別製品の説明ではなく、持続可能な医療を実現するための「知恵」だ。理想の医療現場を作るための障害はどこにあり、それを解決するために動いてくれるパートナーになってほしい、と願っている。
しかし、今回の調査結果だけをみれば、医療と産業の相互理解は進まず、溝は深まっているように思える。
まず製品に対する満足度が低い。DX製品を「導入して活用できている」と回答した医療機関は10.9%にとどまり、具体的な「活用できている製品」では、「キャッシュレス決済」以外はほとんどが10%未満だ。
医師の記述回答からは、「国が主導で企業間をまとめ、製品の規格化・共通化を進めるべき」との声が複数あったのは、「自社の製品やシステムはPRするが、現場の声を聞いて業界対応を進める動きはみられない」との不満が高まっているのだと思われる。
医療改革は企業の社会的責任
医療に関連する企業にとって「持続可能な医療」の実現は、その企業の社会的責任でもある。混乱を極める医療現場に、いまこそ「寄り添う」必要があるのではないか。
DX化においては、医療現場だけのDXにとどめず、街単位でのスマートシティ化という観点から議論をすることも必要かもしれない。オンラインを活用した在宅医療や在宅での健康管理を実装し、医療費抑制につなげる必要もあるからだ。地域開発を手掛けるデベロッパーや商社、シンクタンクなども含め、産業界一体となって国と医療と知恵を出し合い、行動を起こすべきではないだろうか。
一連の調査から筆者は強い危機感を感じた。それが徒労であってほしいと願っている。
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