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ポストコロナ期の医師の意識変化

医師のモチベーション:7年間の変遷と課題の分析【後編】

日経リサーチでは、日経メディカルOnlineに登録している医師パネル(2026名)を対象に、就業意欲の変遷を聴取する独自調査を実施しました。

コラム後編では2023年以降のポストコロナ期における医師の意識変化を紹介します。

ポストコロナ期における経済的要因の浮上(2023年~2025年)

調査は2025年4月に実施したもので、2019年から各年ごとの「勤務先に対しての勤続意向」を10段階で聴取しました。また、その各年におけるモチベーションの状況を自由回答で回答いただきました。
下記の図1は、モチベーションが前期比プラスになった「モチベーションアップ」の人数と、マイナスになった「モチベーションダウン」の人数の集計結果です。

図1:医師のモチベーション変化(ポジティブ/ネガティブ要因回答者数)
(出典:2025年4月 日経リサーチ自主調査 n=2026)

 

【2023年~2024年】 医療正常化と、新たな制度への向き合い

COVID-19の5類感染症移行に伴い、2023年はポジティブな変化(446人)がネガティブな変化(296人)を大きく上回り、医療現場の正常化が進みました。「新天地で勤務開始」 (一般内科、60代以上、国公立・公的病院)といったキャリアチェンジや「開業」 (整形外科、50代、診療所)といったこれまでも述べたキャリア関連にポジティブな要因は収束していきます。

しかし同時に、「コロナの補助金がなくなる」 (麻酔科、50代、国公立・公的病院)といった経済的な問題や、「働き方改革」 (産婦人科、40代、国公立・公的病院)(泌尿器科、50代、診療所)への不満がネガティブ要因として明確化しました。

2024年には制度変更の影響が本格化し、ネガティブな変化(418人)が再び増加します。「働き方改革によって一生懸命働くことが全く評価されなくなり、給料も下げられた」 (泌尿器科、30代、国公立・公的病院)、「最悪の診療報酬改訂」 (一般内科、30代、診療所)といったコメントは、制度変更が労働環境や経済的評価に直接的な影響を及ぼしていることへの強い懸念を示しています。

【2025年】 平常運転に

調査直近の2025年、ポジティブとネガティブの数はややポジティブが上回る状態になりました。経済的・人間関係の問題がネガティブになり、キャリア形成がポジティブ要因となり、感染症の要因は目立たなくなりました。
ネガティブな要因としては、診療報酬改定が「改悪」 (消化器内科、50代、診療所)と認識されていることや、病院経営の悪化、収入減への懸念が挙げられます (産婦人科、50代、私立病院)。問題は制度レベルに留まらず、「看護師大量離職」 (老年科、60代以上、私立病院)といった人員不足、「パワハラ」 (精神科、30代、国公立・公的病院)といった、個々の医療機関が抱える経営・労務問題も、モチベーションを低下させる深刻な要因として数値に現れました。一部からは「医業はお金稼ぎとだけ思うようになった」 (神経内科、30代、大学病院)という、職業意識に関する課題を示唆するコメントも見られました。
その一方で、過去最大のポジティブ層も存在します。彼らの意欲を支えているのは、「昇進」 (脳神経外科、40代、私立病院)や「初期研修修了」 (病理科・臨床検査科、20代、私立病院)といったキャリア上の節目、「転職」 (一般内科、40代、私立病院)による労働環境の改善、「開業」 (神経内科、40代、医院)による裁量権の獲得など、一般的な課題に対し、自らのキャリア選択を通じて主体的に対応しようとする動きです。

モチベ表

医師のインサイトを理解するために

本調査から、医師のモチベーションに影響を及ぼす要因が、「社会情勢(COVID-19など)」「医療制度・職場環境、それに伴う経済的影響」「個人のキャリア・ライフステージ」という三つの層から成り立っていることがアンケート中の自由回答から確認できました。そしてこの7年間で、その重心が感染症という外的要因から、政策・制度・組織といった、より解決が困難な内的・一般的な課題へと大きく移行したことが定量的情報+定性的情報を組み合わせたことで確認できました。何となく皆さんも医師のモチベーションの源泉はそんなところだろうと考えられると思いますが、こうやってデータとして明らかにすることで、仮説を確信に変えることができます。

医療関連ビジネスを展開する企業や組織がターゲットを理解するにあたり、定量的な情報に加えて、その背景を知る定性的な情報の取得が重要となります。弊社では定量調査の中における定性情報の重要性に重きを置き、回答者からより多くの情報を引き出すためのツールや機能の充実を図っています。

 

【製薬・医療機器企業の皆様へ】:医師が何を求めているのかを理解するのは、単に「はい」が何%という定量的な結果だけでは不十分です。なぜ「はい」と回答したのか、その具体的な理由を深く掘り下げて分析することが、調査結果を最大限に活用するための鍵となります。

 

【医療機関の皆様へ】:医師をはじめとするHCPのモチベーション低下の具体的な要因をその経緯と共に特定することは、HCPが意欲を持って働き続けられる環境づくり、すなわちリテンションマネジメントに直接的に繋がります。

日経リサーチは、今後も信頼性の高いパネルと様々な調査手法・分析を駆使し、医療現場のリアルなインサイトを抽出・分析することで、クライアントの皆様が直面する課題解決に貢献してまいります。

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