経営強化につなげるHR戦略 :欧米グローバル企業のCHRO9人が明かす実践と秘訣
世界経済の先行き不透明感からグローバル企業を取り巻く環境が厳しさを増すなか、
欧米先進企業は人材育成やHR戦略の強化を経営力アップにつなげている。
日経リサーチは欧米グローバル企業の最高人事責任者(CHRO)9人に個別にインタビュー
し、HR戦略を経営力向上に導くためのカギを聞いた。
経営層とHR部門の距離感など、日本企業との違いが浮き彫りになった。人的資本経営やグローバル事業展開に苦闘する日本企業にとって参考となる点は多い。CHRO 9人の発言をテーマごとにまとめた。
進む経営とHRの一体化、全体戦略の中心に「HR戦略」
人的資本を重視する経営に最初にカジを切ったのは欧米企業だった。1990年代か
ら無形資産の重要性が認識されるようになり、リーマンショックやSDGs、ESG投資の影
響を受けて取り組みが進んだ。一方、日本では人的資本がCSRの延長線と捉えられ、
後れを取った。経済産業省の報告書、通称「人材版伊藤レポート」が2020年9月に公
表され、さらに2022年5月公表の「人材版伊藤レポート2.0」により人的資本経営への関心が高
まったが、まだ手探りの段階という日本企業は多い。
欧米企業の人事責任者から明かされるのは、経営全体のなかでのHR戦略の重み
だ。HR戦略へのトップの強い関心があるからこそ、全体戦略の中心にHR戦略がし
っかり組み込まれ機能する。日本企業の人事担当者から「HRの重要性を経営トップが
十分に理解していない」という声を聞くことがある。「HR戦略=経営そのもの」という意
識が経営陣のなかに根付いているか。経営トップのリーダーシップと意識改革が人的
資本経営の成否を握っている。
<インタビューより抜粋>
HR戦略は企業全体の戦略において非常に重視されていて、経営戦略策定プロセス
にHR戦略も組み込まれている。トップも強い関心を持ち、事実上のCHROと言える。
私たちはリーダーシップチームとして、トップのビジョンを受け取り、ビジョン、ミッション、価値観を考える際に彼の個人的な見解を織り込もうとしている。
(アメリカ製紙業、SVP Human Resources)
「2030年戦略」の中心にHR戦略があり、デジタルやサステナブルなアプローチよりも
先に来る。GMを含むリーダーシップチームが毎月2時間のミーティングを持ち、人材
に関するトピックを議論している。
(イタリア文具製造業、CHRO)
コロナ禍以降の3年間で、HRはグローバル戦略と方針の中でビジネスブースターとし
て位置付けられるようになった。
(フランス食品サービス業、HR Director)
私の就任以前、チームは「この会議を開いて決定し、それから実行のために人事を招
く」というものだった。しかし、人事が最初から参加して戦略と理由を理解し、実行を支援することが理想的だ。
(アメリカ・印刷通信・CHRO)
経営トップの計画的な育成、成長具合いを数値管理
日本企業では長年、経営のプロが育たないと言われてきた。年功序列が幅を利かすなか、特定の部門で成果を上げた者が、言わば「論功行賞」で役員や経営トップに引き上げられることが多かった。欧米企業は「経営」を一つの専門性とみなし、意図的・計画的に経営トップを選抜し、育成するところが目立つ。
<インタビューより抜粋>
自社で人材を育成し、維持することを重視している。定着率を上級管理職のボーナスと紐づけ、主要な人材の維持のために何をしているかを財務指標で測定している。
(フランス食品サービス業、HR Director)
後継者育成では本社がトップ100を選び、管理し、確実に即時または将来の後継者の準備状況を確認する。グローバル全体でパフォーマンス評価を統一し、過去数年で2回以上高評価を受けた場合はハイポテンシャル人材として分類する。
(アメリカIT業、Sr. Director of HR)
重要なポジションについて、後継者パイプライン(候補者のプール)がどれだけ深いかをHRに関する指標にしている。
(アメリカ製造業、VP and CHRO)
HRの施策評価に「指標」設定、離職食い止めに注力
優秀な人材の確保、採用した人材の育成、専門分野の教育、離職の食い止め、幹部候補の育成など、HR部門に求められる業務は範囲が広がり、難易度も増している。置かれた状況は日本企業も欧米企業も大差はない。施策の効果を測るには適切な指標を設定し、それを評価・改善するPDCAサイクルのプロセスが欠かせない。人事関連も例外ではない。インタビュー対象企業も様々に工夫を凝らしていることが明らかになった。人材の流動性が高く離職・転職が盛んだとみられる欧米企業だが、離職食い止めに腐心している実態は興味深い。
<インタビューより抜粋>
タレント獲得の観点から、採用プロセスの効果を測定している。適切な人材を適切なタイミングで会社に迎え入れているかを確認するためだ。人手不足は生産や売り上げに影響する。私たちにとっては、結果を得たいものを測定することが重要。測定するすべてのものはビジネスに直接的な影響がある。そうでなければ、正直、測定に時間は費やさない。
(アメリカ食品製造、VP・Global People Lead)
HRに関する指標として、ポジションを埋めるのにかかった日数、候補者プール・実際に採用した人材の多様性などを見ている。グローバルな多様性を測定するための特定の要因もあり、それらもデータ分析を通じてモニタリングする。
(アメリカ製造業、VP and CHRO)
グローバル全域をカバーできるKPIは少ないが、離職率は収集している。もう一つ、後継者計画の状況を確認している。
(アメリカIT業、Sr. Director of HR)
(HRがビジネスブースターとなったことで)グローバルボーナス制度に人事指標が含まれるようになった。特に欠勤と従業員の離職率に基づいている。
(フランス食品サービス業、HR Director)
生産性の測定・分析は事業部のビジネスモデルに応じて収益に対する給与支出比率、一人当たり収益、稼働率などを活用している。これらの指標はHR戦略の見直しや改善にも使う。従業員のスキル評価は継続的に実施し、職務特有の要件や認証更新も含めて管理している。
(アメリカIT業、Global HR Director)
きめ細かなグローバル対応、本社・現地の距離感に腐心
グローバル企業にとって海外拠点との関係性・距離感は経営上、最も対応が難しいテーマの一つだ。物理的な距離が離れているうえ、拠点の立地する国・地域によって文化的背景や言語が異なるからだ。特にグローバルHR戦略は国籍の異なる「人」が直接絡むだけに、本社の管理と現地任せのバランスに共通の解はない。インタビュー対象企業でも、本社が共通の仕組みを設けて直接管理しているところと、現地の独自判断に任せるところに分かれている。
HRは集中型だ。雇用やオンボーディング、報酬管理などは全員が同じプロセスに従う。唯一集中管理されていないのは、いわゆるブルーカラーの採用で、工場が独自に行っている。
(アメリカ製紙業、SVP Human Resources)
全ての地域にわたって非常に一貫した、かなり厳密な管理をしている。以前は各子会社が自律的に運営していたが、現在は本社がすべてのHRポリシーを持っている。
(アメリカIT業、Sr. Director of HR)
本社のHRチームが人材採用やDE&IなどのグローバルHR戦略を策定する。各国の事業所で行うのは、給与管理などが中心だ。進捗管理やタレントマネジメントなどは、グローバル共通のHRシステムを導入して統一的に行おうと試みているところだ。しかし、地域ごとに法律の差異もあり、グローバル統一・ローカライズのバランスは議論の途上だ。
(フランス食品サービス業、HR Director)
かなりローカルに運営している。タレントに関してのグローバルな戦略を本社から展開し、各国ではそれに基づいて自分たちの戦略を作る。彼らのローカル市場に必要なもの、グローバルで異なる可能性のある細かな点や特殊性などだ。
(アメリカ食品製造、VP・ Global People Lead)
計画は中央で作成し各国に送る。地域のHR組織とは年に2回、対面で議論する。従業員調査を基に課題や取り組むべきことなどを議論するが、何をすべきか本社が指示するのではなく、地域と協力して考え、私が最終決定している。
(フィンランド・製薬・VP of Human Resources / CHRO)
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